実は世界は、「はてな的」になりつつある。

シロクマ先生(id:p_shirokuma)がNHK『クローズアップ現代』に出演されたということで、NHKプラスで拝見した。
www.nhk.or.jp

内容も面白かったのだが、何よりも、小泉今日子さんとphaさん (id:pha)とシロクマ先生が同じ番組の中で「中年の危機」という、とても「はてな的」なテーマについて語っている、その状況自体が、はてな村民(と名乗るにはだいぶ新参者だけど)としてはなんとも不思議なものだった。

あと、番組の中でシロクマ先生は「中年の危機」の問題は、その危機を乗り越えるリソースを十分に持ち合わせていない氷河期世代が直面していることと相まって、余計に深刻になっているのでは、というようなことをおっしゃっていた。
これも興味深いことだ。
これまでずっと世の中からスポットライトを浴びることのなかった氷河期世代が、「中年の危機」に直面することになってはじめて注目を集めているわけである。

これまでなら、ぼくはこういう状況を、ずいぶん皮肉なもんだと自虐的にとらえてしまっていたかもしれない。
でも、時代は変わったと思う。
そういった心の問題について、今は多くの人たちが向き合い、自分のこととして考え、何らかの解決を探そうとしていると思う。
また、問題に直面している当事者も、それをオープンにすることが増えたように感じる。

番組の中で、小泉さんは自身も「中年の危機」を経験したことについて語っていたし、同じNHKの『NHKスペシャル』では、以前、サカナクションの山口一郎さんがうつ病を抱えながら音楽活動を続けていく姿を追いかけていた。
そうやって、自身の心の問題やモヤモヤをオープンにする人がいて、それについて色々な人たちが集まってきて、ああでもないこうでもないとみんなで考えて、決してスッキリした答えは出ないのだけれども、専門的な知識だったり、経験に基づいた対処法だったりが共有され、少しだけ何かが前に進む(あるいは進まない)。
こういう感じも実に「はてな的」だと思った。

また、ぼくの周りでも、心の問題と向き合っていることをオープンにする人たちが増えた。
明日はカウンセリングに行ってきます、という人。
今日はメンタルがしんどいので、いつもの半分以下のパフォーマンスしか出ないので先に言っておきますね、という人。
昨日、哲学対話に参加してきたんです、という人(それは心の問題と直結するとは限らないけど)。
誰もが何かモヤモヤを抱えていて、それに向き合っている、それって別に当たり前のことじゃないの?という感覚が浸透しはじめているように感じる。

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世の中がそうやって「はてな的」になりつつある背景には色々な理由があると思う。

まず、コロナ禍の経験というのは大きいと思う。
誰もが部屋に閉じこもって自分と向き合うしかなかったあの時間の中で、多くの人が生きるとは何か、自分の人生とは何か、心とか何か、といったことを自問自答した。
その結果、これまでよりも人類は、自分の内面について考えるということについて詳しくなったように思う。

それから、少子化が止まらない中で、氷河期世代の人口の割合が現役世代では高くなっていっていることもあるだろう。
これまでずっと不安定、不確定な世界の中で生きてきた氷河期世代の人間は、世の中の多くのことは何かスッキリと解決するものではないと知っている。
できることといえば、モヤモヤと向き合い、ああでもないこうでもないと考えながら、じっくりと付き合っていくことしかない。
そんな煮え切らない、歯切れの悪い、スッキリしない態度が、先行き不透明な世界では役立つのだとわかっているのである。

それでいえば、誰が読んでくれるかもわからないブログでひたすら自分語りをするというのも、一見ムダなことのように見えて、実は不確定な世界の中で自分を見失わないための対処法なのかもしれないし、書かれたものに対してああだこうだと意見をするのも、そうやって同一テーマに対して、みんなが自分なりの解決アイデアを持ち寄る過程だと言えなくもない。

いずれにしても、とあるインターネットサービスの中で育ってきた文化や価値観が、それなりに長い年月を経て、シロクマ先生やphaさんのような存在を通して、今ようやくオフラインの世界へとじわじわと現れ出しているのではないか、と思った。
いや、そんなのはもっとずっと前の話だとか、そんなことよりもっと大きな変化が若い世代のほうで起きているんだとか、まあ色んな意見はあると思うけれども。

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それでまあ何が言いたいかというと、いよいよですね、ということだ。
ようやく氷河期世代の出番がきたよね、と言いたい。
「中年の危機」という地味で、ダサくて、どうしようもなさそうなテーマと直面したときに、はじめてぼくたちの、このどうしようもないクソみたいな世界と向き合い続けてきた人生が花開くよ、と言いたい。
今こそ、煮え切らない態度で、ああでもないこうでもないと悩み、そんな自分となんとか折り合いをつけながら生きてきた人生の経験が生きる時代が来たのだ。

世の中は今、とても困っている。
世界はますます先行きが不透明になり、混乱が起き続けている。
そんな中で、世界中の人々が心の平穏と、人生に救いを求めている。
そこで、ぼくたち氷河期世代は、こう言ってのけるだろう。

そりゃあね、簡単にスッキリした答えが出ればいいですけどね、残念ながらそうはいかないですよ。
できることといえば、そうだなあ、まずは自分のモヤモヤを文章にしてみてはどうですかね。
まあ、文章にしたからって全部がスッキリするわけじゃないですけどね。
おまけに、それを読んだ誰か知らない人からケチがつくこともあります。
ケンカになったりもします。
だけど、そうやって、みんなでモヤモヤしながら、この不透明な世界と付き合っていくしかないんですよ。

でもね、ここだけの話、実はそれはそれでとても楽しかったりするわけです。
答えの出ない問題に、色々な人たちと向き合い、対話して、何かがちょっとだけ前に進む、あるいは進まない。
そういう時間って、けっこう良くないですかね。

少なくとも、誰かの出した、とてもわかりやすい答えに飛びついてしまって、ひどい目にあって、でもそれは自己責任だとか言われる世界よりも、ずっとマシじゃないかと思うんですがね。
さて、どうでしょうね。
とりあえず、話しませんか。