清水理史の「イニシャルB」
「やりすぎ」が面白いWi-Fi 7ルーター! クアッドバンドに前面ディスプレイも備えた超ド級のTP-Link「Archer BE900」
2024年12月9日 06:00
TP-Linkから、いろいろな意味で「やりすぎ」なWi-Fiルーター「Archer BE900」が発売された。
クアッドバンドに10Gbpsの有線ポート×2と超ハイエンドの性能を備えながら、フロントにLEDディスプレイとタッチパネルを搭載しており、自作のドット絵を表示したり、タッチ操作でファームウェア更新したりもできるのが特徴だ。その実力を検証してみた。
ようやく販売開始
おそらく、本製品のような突き抜けた製品が他社から登場することはないだろう。というか、マーケティング的な判断としてできないだろう。
TP-Linkから登場した「Archer BE900」は、それくらい「やりすぎ」感が詰まった個性的な製品だ。
製品自体は、海外ではすでに販売されていたもので、国内でも2023年3月に発表されていたが、そこから発売が延びに延びて、発売されたのは2024年の10月10日だった。
なぜ、ここまで国内投入が遅れたのかは不明だが、国内でのWi-Fi 7市場が黎明期から普及期へと移行する時期を見極めていたのではないかと推測される。2023年は、まだ日本でも320MHz幅が解禁されていないばかりか、Wi-Fi 7って何? という状況だったので、そのタイミングで、いきなり、この超ド級の製品を投入しても、コンシューマー市場で受け入れられるとは考えにくい。
Wi-Fi 7の認知度が高まり、製品の選択肢も増え、価格レンジも広がってきた今こそ、この製品の「個性」が際立つ、という判断なのだろう。
実際、本製品は、何から触れるべきか迷ってしまうほどトピック満載の製品になっている。個人的には、ASUSのROG Rapture GT-BE98も、いい意味で「やりすぎ」な製品だと思っているが、本製品は、それを上回ると言っても過言ではないほど「やりすぎ」な製品だ。
クアッドバンド対応で合計24.4Gbps
まずは、スペックから見ていこう。本製品は、6GHz+5GHz-1+5GHz-2+2.4GHzの4つの帯域を同時に利用可能なクアッドバンドに対応したWi-Fi 7ルーターだ。
価格 | 8万1891円(筆者調べの実売価格) |
CPU | - |
メモリ | - |
無線LANチップ(5GHz) | - |
対応規格 | IEEE 802.11be/ax/ac/n/a/g/b |
バンド数 | 4 |
320MHz対応 | 〇 |
最大速度(2.4GHz) | 1376Mbps |
最大速度(5GHz-1) | 5760Mbps |
最大速度(5GHz-2) | 5760Mbps |
最大速度(6GHz) | 11520Mps |
チャネル(2.4GHz) | 1-13ch |
チャネル(5GHz-1) | W52/W53 |
チャネル(5GHz-2) | W56 |
チャネル(6GHz) | 1-93ch |
ストリーム数(2.4GHz) | 4 |
ストリーム数(5GHz-1) | 4 |
ストリーム数(5GHz-2) | 4 |
ストリーム数(6GHz) | 4 |
アンテナ | 内蔵12本 |
WPA3 | 〇 |
メッシュ | 〇 |
IPv6 | 〇 |
IPv6 over IPv4(DS-Lite) | 〇 |
IPv6 over IPv4(MAP-E) | 〇 |
有線(LAN) | 2.5Gbps×4、1Gbps×1 |
有線(WAN/LAN) | 10Gbps×1、10Gbps SFP+/RJ45×1 |
有線(LAG) | 〇 |
USB | USB 3.2(Gen1)×1、USB 2.0×1 |
高度なセキュリティ(HomeShield) | 〇 |
USBディスク共有 | 〇 |
VPNサーバー | OpenVPN/PPTP/L2TP/WireGuard |
動作モード | RT/AP |
ファーム自動更新 | 〇 |
LEDコントロール | 〇 |
サイズ(mm) | 96×302×262.5 |
低価格化のためにデュアルバンドで発売するWi-Fi 7ルーターも登場し始めた中、全活用のトライバンドに、もう1帯域5GHz帯をプラスしたクアッドバンドとなっている。
もちろんストリーム数は各帯域4ストリーム対応で、6GHz帯が11520Mbps、5GHz帯-1が5760Mbps、5GHz帯-2が5760Mbps、2.4GHz帯が1376Mbpsとなっており、合計24.4Gbpsの帯域を持っている。
Wi-Fi 7は、6GHz帯で320MHz幅の高速な通信ができることが規格上の魅力だが、実際の利用シーンでは6GHz帯は長距離や遮蔽物の影響で長距離での速度が出にくいこともある。そこを補うのが、160MHz幅までながら長距離でも速度を維持しやすい5GHz帯と、Wi-Fi 7の機能の1つである、複数の周波数帯で同時に通信する「MLO」だ。
MLOには複数の方式があるが、いずれの方式でも、そのときに最も安定して速度を出せる帯域のパフォーマンスが反映されることが期待できる。なので、5GHz帯を2系統に増やすことで、実践的な性能を手に入れている。また、片方の帯域をメッシュのバックホール専用にすることも可能だ。
もちろん、有線も豪華で、10Gbpsの有線ポートは、いずれもWAN/LAN兼用で合計2ポート用意され、うち1ポートはSFP+/RJ45のコンボポートとなっている。2.5Gbpsも4ポート、さらに1Gbpsも1ポート搭載し、家庭用とは思えない豪華構成となっている。
デザインは、ひと昔前のスリムタイプのPCを彷彿とさせるボックス形状で、サイズは96×302×262.5mm(幅×奥行×高さ)と、かなり大きい。地味ではないが、とがった個性を演出するような奇抜な点もなく、個人的には置き場所さえ確保できれば、悪くない印象のデザインだと思う。
アンテナは、外付けではなく、合計12本が全て内蔵されている。最近のTP-Linkはアンテナを内蔵する製品が多い傾向があるが、内蔵の場合、設計上の最適なアンテナの配置位置を固定できるのがメリットとなる。
このほか、機能的にも、EasyMesh対応、セキュリティ機能のHomeShieldやVPNサーバー、USBファイル/メディア共有と、同社が提供する機能はほぼ全て搭載しており、いわゆる全部入りの構成となる。
性能や機能で不満を感じる点は一切なく、唯一の懸念点は実売8万円前後となる価格と言えるが、これについては、「高い」のか「安い」のか、判断が難しい設定とも言える。
もちろん、8万円という価格自体は、Wi-Fiルーターとしては高い。しかし、他社製のクアッドバンド製品は10万円を超える場合もあり、スペックを考えると割安という見方もできる。レビュアー泣かせの、判断が難しい価格設定だ。
個人的な感想を言わせてもらうと、友人宅を訪ねたときにリビングに本製品を見つけたら、ここに投資を惜しまない姿勢に無言で「やるね」と感心する、そんな通好みの製品と言える。
使いどころが難しいLEDディスプレイ
さて、通信性能の前に、ある意味では本製品最大のトピックとも言える、前面のディスプレイについて解説しよう。
本製品の前面には、2つの情報表示用ディスプレイが配置されている。ひとつは本体最下部に表示されているタッチパネル、もうひとつはその上に配置され、本体前面のメッシュ状の穴を利用したLEDディスプレイだ。
まずは下部のタッチパネルから見ていこう。こちらは、情報表示や設定などを行うためのパネルだ。プリセットされた4つのパターンから選択可能となっており、標準では日付と時刻が選択されている。
- 日付と時刻:曜日、月、日付、時刻、天気、気温を表示
- ネットワークステータス:接続クライアント数、上り、下りの速度を表示
- デバイスの状態:CPUメモリの使用率をグラフ表示
- 天気:指定した地域の4日分の天気予報(天気と気温)を表示
また、パネルの下部に[ツール][Wi-Fi][明るさ]の3つのボタンが用意されており、ここからファームウェアのアップデートや再起動、ゲストWi-Fiのオン/オフ、LEDディスプレイのオン/オフや明るさ変更などができる。
正直なところ、個人的にはタッチパネルから操作できて便利だと感じるのは、ゲストWi-Fiのオン/オフくらいだと思えるが、いずれも設定画面やアプリを利用しなくても簡単に設定できるように工夫されている。
一方、LEDディスプレイは、もっと凝っている。
LEDディスプレイは、[スライド][アニメーション][テキスト]の3つのモードが用意されており、標準では、[スライド]が選択され、[日時]や[天気][絵文字]などのスライドがパラパラと順番に切り替わりながら表示される。
[アニメーション]は、ドット絵の砂時計や花火がアニメーション表示される機能となり、標準の速度ではパラパラ漫画的だが、速度を最大にすると、割とスムーズにドット絵が変化する様子を楽しめる。
[テキスト]は、文字通り、入力したテキストを横スクロールさせながら表示するモードだ。街道沿いの飲食店の動く看板のようなイメージで、文字を表示できる。日本語にも対応しており、例えば、中華料理店の店舗Wi-Fiなら「冷やし中華始めました」などと表示することもできる。
スライドやアニメーションは、設定画面上でオリジナルの図柄を作成することも可能だ。本体のディスプレイをシミュレートした作成画面で、マウスでドットを打ちながら図柄を作成すれば、そのまま本体前面に表示できる。
自由に作れるのは面白いが、絵心がないとなかなか難しいので、これこそ生成AIで自動生成してほしいところだ。
この機能は、組み込み機器の工作キットを触っているような感覚で、なかなか面白いのだが、いかんせん実用的な使い方が難しい。店舗などであれば、前述したようなお知らせ的な使い方もできそうだが、家庭だと、最終的には天気や日時を表示するのが一番便利という結論に落ち着く印象だ。
通信性能は文句なし
さて、本題の通信性能に入る。これに関しては、さすがにハイエンド中のハイエンドモデルだけあって、非常に優秀だ。以下は、木造3階建ての筆者宅で、1階に本製品を設置し、各階でiPerf3の速度を計測した結果だ。
Wi-Fi 7の320MHz幅対応PCを利用すれば、近距離では3Gbpsオーバーを実現できるので、かなり速い。6GHz帯は長距離は苦手だが、2系統もある贅沢な5GHz帯を使えば、3階入り口で800Mbpsオーバー、もっとも遠い3階窓際でも400Mbps前後を実現できる。
パフォーマンス面で不満を感じることは一切ない、強烈な性能を持った製品と言えるだろう。
1F | 2F | 3F入口 | 3F窓際 | |
Archer BE900@6GHz(上り) | 3180 | 1320 | 429 | 185 |
Archer BE900@6GHz(下り) | 2700 | 1360 | 605 | 289 |
Archer BE900@W56(上り) | 1890 | 1360 | 693 | 408 |
Archer BE900@W56(上り) | 2210 | 1280 | 843 | 393 |
※通信速度の単位はMbps
※サーバー:Ryzen3900X/RAM32GB/1TB NVMeSSD/AQtion 10Gbps/Windows11 24H2
※クライアント:Core Ultra 5 226V/RAM16GB/512GB NVMeSSD/Intel BE201D2W/Windows11 24H2
※1Fのみクライアントを電源接続
性能に対して出す8万円
以上、TP-LinkのArcher BE900を実際に試してみたが、なかなか面白い製品だ。性能的にも優秀だが、前面のディスプレイが個性的で、カスタマイズで凝りだすと、いくらでも遊べる製品となっている。
個人的には、ディスプレイは面白いものの、実用性は? と言われると答えに窮するため、オマケ的に考えるのがいいと感じる。あくまでも、主体はWi-Fi 7クアッドバンドと10Gbps有線で、近距離で3Gbpsオーバーを実現できる、この性能だ。この性能に対して8万円の価値があると思えるかを、投資の判断基準とすべきだろう。
多くの機器を接続する環境、とにかく高速な通信が必要な環境であれば、おすすめできる1台と言えそうだ。
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