フリーライターなるしかねえ

社会不適合な若者の日記です

宇野昌磨の“ジャスガ反転上スマ”が見られたことの素晴らしさ

 「宇野昌磨選手のジャスガ反転上スマ」。Twitterのタイムラインに、とんでもない見出しが躍った。
 そのパワーワードに添えられた短い動画には、『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』(以下、スマブラ)のゲーム画面と、楽しそうな宇野昌磨選手の姿が映っていた。その鮮やかな動きは、スマブラファンからすれば極めて感動的なものだった。

 

 

 

 宇野昌磨選手と言えば、言わずと知れたフィギュアスケート選手だ。2018年の平昌オリンピックの銀メダリストで、史上初の4回転フリップジャンプを成功させたとしてギネスにも認定されている。22歳という若さながら、誰しもが認めるトップアスリートであり、日本が誇るスーパースターと称しても過言ではない。

 その宇野選手が、6月23日放送のネット配信バラエティ番組『ケプトの定時退社』(以下、『ケプ定』)に出演した。
 『ケプ定』は、プロゲーマーを中心としたスマブラのトッププレイヤー達が運営するメディア「Smashlog」のコンテンツのひとつで、スマブラコミュニティの人気番組だ。
 MCを務めるのは「Smashlog」運営メンバーの一人、kept(ケプト)選手。kept選手は、サラリーマンを辞めて専業プロゲーマーとして生計を立てながらも、企業やプロチームには所属せずに活動を続けている異色のプレイヤーだ。その実力は折り紙付きで、JPR(日本ランク)では16位に位置しており、特に「むらびと」*1の扱いにかけては世界一との呼び声も高い。
 そんなkept選手の隣に、プロゲーマーをはじめとしたスマブラ界隈の有名人がゲストとして呼ばれ、視聴者からのお便りや生配信のコメントに答えながら、ゆるい雰囲気でトークやゲーム対戦を楽しむ……というのがいつもの『ケプ定』の様子だった。

 ところが、今回ばかりは空気が違った。スマブラ界隈の有名人どころか、国民的トップアスリートがゲストに迎えられたのだ。番組の告知が出た時点から、コミュニティは騒然とした。
 コミュニティ番組にまで出たがるなんて、もしかして宇野選手は相当“ガチ”なのか?いやいや、どうせ浅いレベルで楽しんでるんじゃないのか?もし、スマブラファンとの温度差があったらどうしよう?スマブラプレイヤーとの交流は、楽しんでもらえるのだろうか?

 ゲームのコミュニティというのは、基本的には村社会に近い。他の界隈との結びつきはさほど強くなく、ジャンルを超えた関わりを得る機会も少ない。ましてや、相手がゴールデンタイムにテレビ中継されるようなスポーツ選手ともなれば、尚更のことだ。
 滅多に訪れない機会だからこそ、がっかりしたくないし、がっかりさせたくない……。スマブラコミュニティの住民たちは、慣れないシチュエーションに半ば興奮し、半ば困惑しながら、固唾を呑んで番組の行く末を見守った。

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 フィギュアスケートファンも多く駆け付けた『ケプ定』の生放送は、平常時とは桁違いの視聴者数を叩き出した。コメント欄は祭りにも近い盛り上がりを見せ、夢のような時間はあっという間に過ぎ去った。

 

 結論から言えば、番組はスマブラファンの誰もが満足する内容だった。そして何と言っても、宇野選手は“ガチ”だった。

 宇野選手の言動の節々には、深いスマブラ愛が溢れていた。
 彼が会話の中で挙げた好きな選手や好きなシーンは、どれもスマブラファンを唸らせるものばかりだった。スマブラの競技シーンに触れて1年とは思えないほどのマニアックなエピソードの数々には、「どうせ浅かろう」と高を括っていたスマブラオタクにさえも「宇野昌磨は“わかってる”」と認識を改めさせるような、十二分の説得力があった。

 さらに視聴者を驚かせたのが、実際のゲームプレイにおけるレベルの高さだ。
 宇野選手は、トッププレイヤーの一人であるkept選手を相手に、負けず劣らずの緊迫した戦いを繰り広げて見せた。その試合運びは非常に丁寧で、フィギュアスケート的に言うならGOE*2が高い内容だった。
 流石にトッププレイヤーと比べてしまうと、テクニックこそ足りない部分があるものの、スマブラというゲームの要点を抑えていることが明確に見て取れた。差し返しや着地狩り、崖を巡る攻防といった、試合の優劣が分かれるポイントを理解し、しっかりと有利を築く行動を取る。そんな宇野選手の真摯なプレイングが、スマブラファンの心を掴んだ。

 そして、その極めつけが、冒頭にも述べたこのシーンだ。
 “ジャスガ反転上スマ”は、フィギュアスケートで例えるなら“3F+1Lo+2S”といったところ*3。つまりは、トッププロは当たり前のように行うが、中級者以下にはまず不可能な動きであり、ともすれば上級者でも失敗することがざらにあるような、難易度の高いテクニックだ。それを宇野選手は、偶然でも当てずっぽうでもなく、間違いなく“狙って”やってのけた。
 それは、決してアスリートとしての才能やセンスに頼ったものではなく、純粋なやりこみの結晶だった。彼がスマブラに注いできた情熱や努力が、語らずともその戦いぶりに現れていた。この日、スマブラコミュニティの住民たちは、アスリート・宇野昌磨の持つ、“頂点を目指して成長し続ける力”の片鱗を目撃したのだ。

 

 このようにして、宇野選手は一挙にスマブラコミュニティを味方につけてしまった。フィギュアスケートなんて毛ほども興味がなかったスマブラファンの中にも、気づけばもう「俺たちの昌磨」みたいな印象さえ根付いている気がする。きっと、今後フィギュアスケートのシーズンが開幕すれば、自然と宇野選手を応援してしまうだろう。そうして、宇野選手、ひいてはフィギュアスケートの世界に関心を持つ人が増えれば幸いだ。

 フィギュアスケート側のコミュニティの人たちはどうだろうか。スマブラというゲームのフィールドに、宇野選手がここまで熱くなる競争の世界があることを、認識してもらえただろうか。
 「よくわからないけど、昌磨くんが楽しそうでよかった」という方も多いかもしれない。でも、出来ることならそれに留まらず、スマブラの世界に触れてみてほしい。お家にSwitchがあるなら、ソフトを買って友達や家族と遊んでみてほしい。お金をかけて遊ばなくたって、たまにkept選手の配信*4を覗くだけでいい。そこから、kept選手の出ている大会の配信を追うようになったりすれば最高だ。

 一人のアスリートの情熱で、交わることのない文化が触れ合い、その熱気を共有しようとしているのだ。こんな素敵なことがあるだろうか。この放送に立ち会えた人は是非、宇野選手を挟んで見えた“向こう側”の世界に足を踏み入れてみてほしい。

 

 

 

 最後になってしまいましたが、宇野選手・kept選手を始め、今回の『ケプ定』を実現するために頑張ってくれた全ての人に感謝を述べさせてください。特にkept選手の働きがなければ、ここまで宇野選手の魅力やスマブラの面白さが際立つことはなかったと思います。
 本当に素晴らしいものを見せていただきました。ありがとうございました。これからもご活躍を期待しています。

 ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
 Twitterで拡散してくれると喜びます。フォローも歓迎します。

 

 最後の最後に、個人的な感想を添えようと思ったところ、めちゃくちゃ長くなってしまったので別記事にしました。おまけに読んでいってください。

ikiumejapan.hatenablog.com

 

 

 

6月27日 追記

 昨日、宇野昌磨選手の参加しているYouTubeチャンネル「OjiGaming」にて、『ケプ定』出演の後日談を語る動画がアップされました。

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  動画内でも宇野選手本人から言及があった通り、当記事で“ジャスガ反転上スマ”と紹介した一連の動きは、正しくは“ジャスガダッシュ上スマ”でした。
 “ジャスガ反転上スマ”と比べると、“ジャスガダッシュ上スマ”はやや難易度が低く、“ジャスガ反転上スマ”の方がより繊細な操作を求められる動きです。つまり、この記事は少し誇大表現をしてしまった形になります。大変失礼いたしました。

 ただ、いずれにしても決して容易でないテクニックであることには変わりなく、宇野選手がハイレベルなプレイを見せてくれた事実もまた揺らぎません。どうかご愛敬ということで。

 

*1:使用キャラクターの一人。『どうぶつの森』の世界からスマブラにファイターとして参戦している。

*2:Grade of Execution:いわゆる「出来栄え点」のこと。

*3:“トリプルフリップ→シングルループ(オイラー)→ダブルサルコウ”のコンビネーションジャンプ

*4:配信URL: https://www.mildom.com/10100694 配信の告知等はTwitter: https://twitter.com/FaintKept