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オールドスタイルなスペースオペラの土台に宇宙のすべてが乗っかった、圧巻のオープンワールドRPG──『Starfield』

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ベセスダの新作ゲーム『Starfield』、XboxGamePassに加入してプレミアム・エディションを追加購入した人は9月1日からプレイできた。現時点で35時間ほどプレイし、各勢力のミッションもいくつかたしなみながらメインミッションも一応クリアしたので、いったんファーストインプレッションとして感想を残しておきたい。

最初にざっとした総評

結論からいうと間違いなくベセスダのオープンワールドRPGであり、他スタジオが作ったオープンワールドRPGからは摂取できない栄養がここにはある。『Skyrim』と『Fallour4』をあわせたよりも多いセリフ量があり、8年の月日がかけられた。数多くの勢力が入り乱れるさなかに次々と道徳的に曖昧な選択を迫られ、それが世界に不可逆の変化をもたらす──そうしたSkyrimやらFalloutシリーズやらでこれまで散々味わってきたあの喜びとおもしろさがここにはあり、ここまで熱中してプレイした。

「宇宙を舞台にした冒険RPG」と説明されて、こんなことやりたいな、あんなことやりたいな、と想像することはだいたいなんでも可能にしたゲームだ。宇宙船を自分好みにクラフトし、宇宙船戦闘を繰り広げる。氷の惑星から砂漠の惑星まで数多の惑星に足を広げ、廃墟などを探索する。奇妙なエイリアンどもとやりあう。

宇宙海賊になって人から金を巻き上げる、財宝を追い求める。あるいは宇宙をめぐるパトロールになって悪いやつらをこらしめ、宗教までもが絡んだ大きなテーマに接続し──と、1960年代〜70年代ぐらいを彷彿とさせるオールドスタイルなスペースオペラのシンプルな土台に、あらゆる素材が載っている、本作はそんなゲームだ。

下記は開発者へのインタビュー記事の日本語訳(僕が適当に訳した)

Starfieldは最もロマンチックなサイエンスフィクションだ。1960年代の黄金時代の宇宙への夢が心に、そしてベセスダの親しみやすい感触が血管に流れてる。アートディレクターのIstvan Pelyは、本作のヴィジュアルを”NASA Punk”という造語で表現した。「ホログラムがいたるところにあるわけじゃない。ボタンがあって、触感がある。彼は親指で空気をつぶしながら言う。「未来的だと思わないで。時代劇だと思えばいい。これは実際にあったことなんだ。ゲームを300年後の未来に設定されているけど、人間性が変わったようにはしたくなかったという。「人は人のままだ。彼らは完璧じゃない」*1

これまでベセスダゲーを楽しんできた人はもちろん、FalloutもSkyrimもやったことないけど一回ぐらいやってみたいな、と思う人も手を出しやすい作品になっている。この手のゲームはボリュームが多いことが宣伝されるし、数十時間、100時間溶けたわ〜という人も多い(し隅々までやったらそれぐらいかかる)が、寄り道しつつもメインミッション中心でプレイすれば30時間もかからないはずなので(難易度もベリーイージーまであるし)、時間が心配な人も手を出してみるのも良いだろう。

一方で難点がないわけでもない。これまでの遊びの延長線上の作品であるのもまた間違いなく、新鮮味は多くない。また、宇宙を舞台にして「なんでも可能にした」と先に書いたが、その全部が全部素晴らしい体験になっているとはいい難い。宇宙船戦闘も最初は楽しいがすぐに飽きてしまう程度のものだし、移動の基本は惑星から惑星へのファストトラベルなので、物量は感じても宇宙の圧倒的な広さといったゲーム体験的なおもしろさに繋がっているかというと微妙な面もある。

宇宙を旅する

じゃあStarfieldは実質宇宙のガワをかぶせただけのSkyrimってこと? といえば、広大な宇宙を舞台にしたからこそのスケール感と魅力もきちんと存在する。

各勢力クエストのおもしろさやメインミッション後半の怒涛の展開は本作が宇宙ものであることの意義が発揮されている。いろいろな宇宙・都市は、サイバーパンク風だったり荒野だったりと多様な世界観を内包し、視覚的に楽しませてくれる。

各惑星はどれも美しい

総評としては、欠点がないわけではないが、そのゲーム体験は唯一無二のもので素晴らしい作品であることにかわりはない。本作をめぐっては10点満点中の7点が高評価か否かみたいな議論も発生しているが、僕がつけるなら8か9かな。以下、極力ネタバレを廃してストーリー部分を中心に、もう少し詳しい紹介をしていきたい。

ストーリー、世界観など

物語の舞台は2330年。人類は太陽系を離れ、数々の惑星に入植し独自の文化を発展させている。このゲームでは一般的なオープンワールドRPGのように数々のミッションが存在しクリアすることで物語が進行していくが、重要なのは「勢力」の概念だ。

この世界にはいくつもの勢力があって、基本的にはこれがミッションの柱になっていく。たとえば主人公が通常は最初に所属する「コンステレーション」は、アーティファクトと呼ばれる(おそらく)異星人が残した不可思議な物質を集める宇宙の探検家の集まりであり、このミッションを通してアーティファクトの収集、力の秘密を追うことになる。これがメインミッションになるが、他にも数多くの勢力が存在する。

コンステレーションの本拠地がある惑星ジェミソンのニューアトランティスでは、Starfield世界屈指の軍事力と影響力を持つコロニー連合に入ることもできる。コロニー連合に入ると下っ端で簡単な仕事から……と思いきや、紅の艦隊という無法者集団への潜入捜査を命じられ、いきなりハードなミッションをこなすことになる。海賊に信用されるために無法な行為にも手を染めねばならないが、やりすぎればコロニー連合の怒りを買い──と、ぎりぎりの綱渡りがこのミッションでは展開していく。

ある特殊な技術を開発する超大企業であるリュウジン・インダストリーズに所属することになればライバル企業の情報を盗んだりよからぬウイルスを紛れ込ませたり、社内政治に巻き込まれていく企業スパイもののストーリーが展開し──と、勢力ごとにテーマも題材も異なった物語が堪能できる。長篇をつぎつぎと読んでいくようなもので、”どちらの勢力を壊滅させるか”、”勢力内で誰の味方をするか”など、自分自身で不可逆に世界を変化させていく喜びがある。そこで得た力や情報はどれも攻略を楽にするもので、この辺の構築力はさすがのベゼスタゲーといったところだ。

メインミッションの味付けは薄い

僕のプレイ体験としてはコロニー連合ミッション⇛リュウジン・インダストリーズ⇛自由恒星同盟の順に勢力ミッションをクリアし、その後にメインミッションに着手した。メインミッションは基本的にはいろんな惑星をめぐってアーティファクトを集めるだけでそれぞれの色のある勢力クエストと見比べると単調でつまらない。

広大な宇宙を堪能してもらうために、宇宙の冒険・探検をテーマにしたオールドスタイルなスペースオペラの物語を中心軸に置くのは理解できるが、その中身がファストトラベル⇛惑星に降り立って数分で目的のものをゲット⇛帰宅の連続だと話が変わってくる。ドラマティックな展開もあるし味付けの薄い探索の連続の理由も推測できるのだけど、退屈なものは退屈だ。僕の場合この点が本作の評価を大きく下げている。

プロット的には本作の(というかベゼスタ製オープンワールドRPGとのだけど)ゲーム性ともよくあっていて、終盤の演出にぐっとくるポイントも多々あるんだけどね。

クラフトなどについても長々と書こうと思ったがもうけっこう長くなったしやめておこう。数多の惑星に降り立ち(たとえば月にもいける)そこに拠点を作ることができるのは思いのほか楽しい体験だ。ゲーム中では乗組員(クルー)をスカウトすることもできるのだが、彼らは自分の宇宙船だけでなく拠点にも配置できるので、彼らが居心地の良い空間を作ろうと思うと、けっこうやりがいはある。

おわりに

ディレクターを勤めたトッド・ハワードは現時点で52歳。これだけの作品を作り上げるには相当な困難があったことは間違いないが、次は『Skyrim』の続篇にあたる『The Elder Scrolls 6』に着手するというので、タフな仕事が続くわけだ。6にも『Starfield』と同じだけの時間がかかるなら60歳になってしまう。

そうするとそろそろ後継者育成に手を出すタイミングだろうが、先に引用したインタビューの中で彼は『「ずっとやっていきたい。私の仕事のやり方はおそらく進化していくと思いますが、宮本を見てください。任天堂の象徴は今年71歳になった。彼はまだやっています。』*2と語っている。トップクリエイター同士のリスペクトが感じられてかなりぐっときちゃったな。*3

いったんレビューを書いたがまだまだ僕も未プレイの膨大なクエストが残っているから、もっと遊ぼうと思う。本作は余白(広大な宇宙に散らばる惑星だったり)が大きいのも特徴で、DLCやMODにもいつも以上に期待がかかる。時間が経つことでもっともっとおもしろくなるのは間違いないゲームだ。今年はアーマードコア6も最高だったし、SFゲーム豊作の年として記憶されることになるだろう。

*1:https://www.gq-magazine.co.uk/article/starfield-todd-howard-interview

*2:“I want to do it forever,” he continues. “I think the way I work will probably evolve, but… look at Miyamoto.” The Nintendo icon turned 71 this year. “He’s still doing it.”

*3:宮本さんは後継者(というか自分がいなくても回る仕組みを)を作ってるんだけど