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中二病とは何か?『カリスマ入門』(古屋雄作)

カリスマ入門

カリスマ入門

古屋雄作さんの『カリスマ入門』という本が面白かった。
古屋さんは『温厚な上司の怒らせ方』シリーズや『スカイフィッシュのつかまえ方』シリーズのDVDを作った人です。それを知らないとただの自己啓発書の類と思うだろうし、本来はサブカルコーナーに置かれるべきものなのにビジネス本のコーナーに…なんていう可能性もあると思います。というか僕は実際に本屋で見つけられなかったので店員さんに「『カリスマ入門』ありますか?」と聞いたので「こいつ、カリスマになりたいんだ……」と思われていることでしょう。

でも、自己啓発の類じゃないことは読めばすぐに分かります。簡単にいえば「有名人のインタビューなどから発言を集め、分類・解説する」という本になるでしょうか。

まず、第1章「先取りをアピールする」で引用されている文章から見てみましょう。

加藤ミリヤさん
「あと、サンプリングについて話すなら、わたしがデビューした後くらいから、日本のアーティストでもサンプリングを取り入れる人が多くなってきたように思うんです。別に自分がその面でのパイオニアだと大声を出したいわけではないんですけど、サンプリングを取り入れた曲作りでは、ほかに負けない自信はあります。」(「Interview File Cast」2008.03)

↑の赤線は実際の本の表記のままです。
この、加藤ミリヤさんの発言について「後半で『別に自分がパイオニアではない』とフォローするのはカリスマに徹しきれていない」としたうえで、本物のカリスマ達の発言を引用します。

押尾学さん
「あまり飾らず、気負わずにさ、流行なんてあんまり意識しないで、自分が心底『カッコイイ!』と思ったものだけを信じてこだわりたいよね。俺は日本で流行る前からクロムハーツが好きなんだけど、これはロックアーティストがかっこよく着こなしていたのを見たのがきっかけ」(「チョキチョキ」No.4)

この押尾さんの発言のストレートさを例にあげ、「せっかく先取りの事実をアピールするための発言をしても、遠慮や羞恥心が邪魔をして柔らかな表現になってしまい、結果的に『アピールできていない』という、初歩的なミスが多く見られます」とアドバイスしてくれます。さらには

堂本剛さん
「五、六年前、家で自分の髪をアシンメトリーに切ったことがあったんです。したらすごく煙たがられて、心配もされてしまって。でも今じゃ、アシンメトリーの人なんてその辺にだっているじゃないですか。だからその時何か言われても、時が来るまで諦めなければいいんだっていうのも解ってはいるんです」(「Switch」2008.4)

この言わずと知れたカリスマの発言を引用したうえで、
「このような内容をさらに発展させる場合、『最近アシンメトリーの髪型って多いじゃないですか。けど僕、いろんな髪型をやりすぎて来た、ってのもあって、最近はもういいかなーって感じなんですよ(笑)』のように『先取りしすぎて逆にもう飽きた』と宣言するパターンが効果的」
という実践的なアドバイスまで。

ここまで読めば分かるかと思いますが、『カリスマ入門』というタイトルでありながら、完全に「カリスマ」という単語が蔑称になっています。なんてタチの悪い本だ!
まあ、最初にも書いたとおり、本当は笑える本だっていうことが分かりづらいタイトルなのがすごいもったいないな……と思ってたんですが、こういう引用の仕方だし、表向きには「これをマネすればカリスマ性が身に付く!」という方向じゃないと出版できないんだと思います。わざわざ出版社の壁を乗り越えてまでいろんなとこから引用しまくってるし、こんな物騒な本が世に出たこと自体すごい!

でもそういうタチの悪さだけが売りではなく、分類の仕方や解説が丁寧で、いわゆる「中二病」の正体がここまで明らかになっている本はないのではないかと思います。(参考リンク→ 中二病 - Wikipedia)

各章のタイトルだけ見ても

  • 第1章 先取りをアピールする
  • 第2章 自分の生きざまを自嘲気味にアピールする
  • 第3章 昂ぶる
  • 第4章 スピリチュアルなものに傾倒する
  • 第5章 あえる(※筆者注・この本では「あえて○○する」の意味)
  • 第6章 表記にこだわる
  • 第7章 エロスを意識する
  • 第8章 常にクリエイティブである
  • 第9章 ジャンル分けを拒絶する
  • 第10章 周りから言われる
  • 第11章 対象物から言われる
  • 第12章 ミュージシャンでもないのに音楽のことになると熱くなる
  • 第13章 狙ってやってるわけではなく、好きなようにやっていたら結果的にそうなっちゃっただけです、という感じでいく
  • 第14章 変な比喩を使う
  • 第15章 偉人をリスペクトする
  • 第16章 自然をリスペクトする

という感じで、見ただけで「わかるわかる」となるはず。ほんとに分かりやすく、中二病の全パターン網羅!という感じなので、この本を読めば誰でもカリスマのマネごとはできるでしょう。例えば芸人さんがコントでカリスマっぽいキャラを演じたい時とかにも参考になるはず。こんな解説本を読んだあとだとそんなコントあんまり面白くないと思いますけど。
逆にいえば、この本を読めば「うっかりカリスマ発言しない方法」というのも分かるわけです。中二病じゃなくても「前から知ってた」とかは誰でも言っちゃいがちですし。


各章で印象に残ったカリスマ発言をちょっとずつ引用します。


第2章 自分の生きざまを自嘲気味にアピールする

Jさん
「今の状況は凄くいいですね。肉体的にも精神的にも辛いのは辛いんだけど、走ってなきゃ見られない景色がすごくいい感じで作用しているなあと。『あー疲れた』とブーブー言いながらも(笑)、そういう事の連続がエネルギーに変わってってるというか」
―――Jはね、ブーブー言ってるうちは大丈夫。静かになったら死んでる。
「わはははは。本当そうなんですよ。鮫みたいなもんという(笑)」(「オリコン」2002.11.18)


第3章 昂ぶる

ドラッグストアカウボーイさん
「ダメなミュージシャンとか多いじゃないすか。音楽の“お”の字も知らないような小僧が多くて、すごく居心地が悪い。そういうヤツらに、これがいい音楽なんだって言いたい」
「とりあえず、ふざけんな馬鹿野郎って思って聞いてみ?ってことですよ。オレの勝ちだから。勝ち試合じゃないとやりたくないしね(笑)」

「み」だけに赤線を引いてるのがめちゃくちゃ面白い。


第5章 あえる

清春さん
「クロムハーツってボリュームはあるけど、作りはスムースで、普段の生活でずっとしてても支障はないじゃないですか。でもS.A.Dはつけてると気になってしょうがないっていう(笑)そこもあえて狙って作ったんですけどね。ヘタしたら服脱ぐときにひっかかかって破けるくらいのデザインです」(「ホットドッグ・プレス」No.399)

「S.A.D」というのは清春さんがデザインしたオリジナルブランド「サディスティック・アンド・デンジャラス」のことだそうです。


第6章 表記にこだわる

車田正美さん
「漫画界は常に燃えている。走り続けていた漫画屋も、フッと息を抜いたら最後、紅蓮の炎に包まれ灰になってしまう」(ジャンプコミックス「聖闘士星矢」2巻)

この他の「肩書きこだわり」の例としては「歌手→ムード歌手(椎名林檎さん)」「格闘家→スポーツ冒険家(北尾光司さん)」。
「カタカナ化」の例として「届カナイ愛ト知ッテイタノニ抑エキレズニ愛シ続ケタ(Gacktさん)」「ミエナイチカラ(B'zさん)」。
「K→C法」の例としてRIKACOさん・ACOさん・rumicoさん(小柳ルミ子)・KCOさんなど。


第7章 エロスを意識する

藤井フミヤさん
「個展を開くのは今回が3回目なんですけど、“エッチな”というのは今回が初めてなんです。『未来の宗教画』、『宇宙建築』とやってきて今回が『デジタル・マスターベーション』。一応、“自意識が目覚めたコンピュータが、デジタルデータの中から愛すべき姿を作り出し、マスターベーションを始めた”という設定なんです。コンピューターって、結局は切ないじゃないですか?そういう切ないエロティシズムを自分なりに表現してみたかった」(「東京1週間」1998.05.12)

すごいとしか言いようがない。藤井フミヤさん・堂本剛さん・押尾学さんあたりは全体的に赤線引きすぎて真っ赤になってました。


その他に発言が紹介されるカリスマは吉川晃司さん・おちまさとさん・西野亮廣さん(キングコング)・KREVAさん・いしだ壱成さん・石井竜也さん・倖田來未さん・木村拓哉さん・反町隆史さん・沢尻エリカさん・土屋アンナさん・hydeさん・佐藤可士和さん・山田詠美さん・江角マキコさんなどです。どうですか、このむせびたつカリスマ臭!

一応、この本のコンセプトは「カリスマは生まれついての器ではない」というもので、確かにこれを読むと「カリスマは獲得可能な『技術』」と思えるようになるんですが、この本の副作用として、どんな人のインタビューを見ても自然と赤線が浮かんでくるようになるので雑誌とか読みづらくなります。どいつもこいつも赤い!



DVD版も出てます。

カリスマ入門 [DVD]

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