書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

2024年に読んだ本の中からおすすめ10作品を紹介する

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(2024.08.10 東京都文京区にある東洋文庫「モリソン書庫」より 壮大な本棚は優雅で美しい)

 

昨年私が読んだ本125作品(冊数は144)の中から、個人的におすすめしたい10作品を紹介する。順序はつけがたいしオールタイムベストではないので、いつも通り読んだ順番に。おもしろかった、心に残った、ためになった、心がホッと落ち着いた、本によって色々な感想がある。「どんな本だったか」は、自分が読むタイミングとその時の心待ちというのが結構大きい。だから一年を振り返ると「当時はそうでもなかったけど今思えば印象深い」本は結構あって、そういう本もいくつか選書した。もちろん、読んだその瞬間に電気が走るような衝撃本が一番だけれども、そんな本は滅多にない。

 

1作め

『タスマニア』パオロ・ジョルダーノ

これを読む少し前に、カイ・バード/マーティン・J・シャーウィン著『オッペンハイマー』(映画の原作)を読んだ。そのときは『オッペンハイマー』のほうが良かったというか勉強になったと感じていたのだが、やはり読み物としてはしみじみと『タスマニア』に分配が上がる。自分が小説に偏愛しているからかも。ジョルダーノさんの思考回路が好みで飯田さんの訳も素晴らしい。今年は原爆について多くの知識を得られた。ノーベル平和賞に日本被団協が選ばれたことも涙しそうになるほど嬉しかった。

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2作め

『名誉と恍惚』松浦寿輝

分厚い鈍器本を買おうかどうしようか迷っていたのだが、なんと岩波現代文庫から上下巻で刊行された。日中戦争下の上海が舞台の怒涛の長編小説で、のめり込むように没頭した。松浦さんの書く文章は美しいだけでなく、知識欲も駆り立てられる。

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3作目

『ゴッドファーザー』マリオ・プーヅォ

映画の評価が素晴らしいが、私はちゃんと観たことがなかった。原作を手にしたのは、早川書房で映画フェアみたいなのをやっていてそのカバーがめちゃくちゃカッコよかったから。読んだら物語世界に圧倒された。知っての通りヤクザの世界、イタリアのマフィアの話なんだけれど、なんかいちいちカッコいいんだよねぇ。

読み終えてから映画もPartⅡまで観た。古いには古いがこの映画がまた素晴らしい。原作の時間軸に従ってⅢまで進むというわけではなくて、全体を通して深掘りしていくという作り込みがすごい。この作品に関しては原作も映画もピカイチで、あっぱれだ。

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4作目

『プロット・アゲンスト・アメリカ』フィリップ・ロス

読み終えたときにも「よくできた小説だなぁ」と唸っていたが、それは日が経つにつれ、というか振り返るたびに印象深く感じられる一冊だ。「もしもアメリカ大統領が反ユダヤ主義のリンドバーグだったら」という前提で書かれた歴史改変小説で、子供の目線で書かれている。自分がブログで書いたことを改めて読み直してみると、読んだときの興奮が蘇ってきた。そのうち絶版になりそうだ(翻訳本は人気の作品もいつのまにか絶版になることがざらにある)から、手に置いておきたい一冊だ。

このあとロスの『グッバイ、コロンバス』を読んだけど、それはまぁ普通だったから、私にはこの『プロット〜』が刺さりに刺さったのだ。『素晴らしいアメリカ野球』もどこかに売っていないか探している。

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5作目

『女の一生』遠藤周作

個人的に今年を象徴する場所が「長崎」であった。7月に長崎旅行に行く前に、長崎を舞台にした名作を読もうと選んだのがこの本。本を読んで泣くことはそんなに多くはないけれど、今年読んだ小説の中で一番涙を流した作品である。キクとサチ子、そしてキリシタン達の生き様に感動をおぼえる。前タームで放映されたTBSの「日曜劇場」では、端島(通称軍艦島)をテーマにした壮大なドラマ『海に眠るダイヤモンド』を食い入るように観て長崎に想いを馳せた。

同じ長崎、こちらは出島を舞台とした吉村昭著『ふぉん・しいほるとの娘』も良かった。吉村さんの脂の乗った時期の大作に打ち震えた。

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6作目

『リヴァイアサン』ポール・オースター

オースターってなんでこんなの書けるんだろう。ちょっと意味わからんくらいすごすぎる。私にとって『ムーン・パレス』が衝撃だったが、それに近いほど心を抉られた作品である。英米文学をこれから読もうとしている人には是非とも薦めたい作家だ。『ムーンパレス』『ブルックリン・フォリーズ』『リヴァイアサン』が特におすすめ。

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7作目

『ナチュラルボーンチキン』金原ひとみ

金原ひとみさんの本は結構読んでいてまぁまぁ好きなのだけど、年間ベストに入れるほどの作品はこれが初めてだ。表紙とタイトルからは想像できない、ある意味裏切られた作品だ。主人公と年齢が近いこともあって、かなり共感できて勇気をもらえた。歳を重ねることをウェルカムと言いたくなる本だった。

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8作目

『しろばんば』井上靖

今さら感というか、今頃気付いたのかと思われるかもしれないけど、井上靖さんってやっぱり天才だ。年末に読んだ『氷壁』も良かったけれど、物語として完成度が高いのはこちらの作品である。今後も井上さんの作品を読み続けていくきっかけになった。

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9作目

『最近』小山田浩子

すんごく好みだ。まず文体がいい。日常の切り取り方がいい。これはドンピシャに沼る予感がする、最近出逢ったお気に入りの作家さんだ。次にブログにUPするのは年明けに初読了した小山田さんの別の作品なのだが、また違った温度感というか手触りがしていて、守備範囲が広い。結構手広く書ける人なんだろうなと思う。

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10作目

『アメリカの悲劇』セオドア・ドライサー

年の瀬にこんな素晴らしい作品を読めるとは思わなかった。この本の存在や作者のことを知らなかったので、今回新訳を手掛けてくれた村山さんと花伝社に感謝しかない。こういう展開、細やかな心理描写は今であればありふれているものかもしれないが、100年以上前に書かれたと思うと先駆者的存在かも。

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2024年も引き続き充実した読書ができた。もはや私の生活になくてはならないものというか、睡眠やら食事やらと同じくらい日常に馴染んでいるもの。選んだ作品が全て小説だったのが「う~ん」としか言いようがないが、読んだ本のうち90%以上が小説だったから仕方ないか。毎年言っているけど、今年は小説以外の本をもう少し増やしたい。あとは、中国人作家でお気に入りが特にいないので見つけることができたら嬉しい。

 

昨年の読書界隈のトピックとしては、やはり春先に村上春樹さんと川上未映子さんの朗読会に行けたことだろう。生の村上春樹さんに生きているうちに会えるとはつゆにも思わず、貴重で忘れがたき感動体験となった。また、大好きな作家ポール・オースターの『4321』出版を記念してこちらも大尊敬する英訳者柴田元幸さんの朗読会に行けたのも嬉しかった。

 

読書の醍醐味は、自分が本当に好きな本を見つけられたときの喜びと興奮だ。もちろん人に教わったものでもなんでもいい。あのぞくぞくする体験を1人でも多くの人に味わってほしい。世に、書に耽る猿が増えていきますように。

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