法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『わんだふるぷりきゅあ!』第48話 ガオウの友達

 ガオウが仲間をひきつれて街を急襲する。さまざまな場所で人々がガオガオーンに襲われ、プリキュアは救済に走りまわる。そしてガオウと対峙したニコは攻撃に耐えつづけるが、メエメエと猫を助けるために傷ついてしまう。そしてガオウの仮面が割れた……


 成田良美シリーズ構成の脚本に、板岡錦作画監督でクライマックスらしく絵も話も力が入っている。コンテの倉無凡は宮沢賢治作品から引用した偽名としか思えないが、この多芸ぶりはいったい誰だろうか。
 いつものように逃げまわりながらシールドを活用するアクションだが、作画枚数をぜいたくにつかって全体的によく動く。違うキラリンアニマルの力によって動きの種類が異なるプリキュアが同じフレームに入っているカットの対比表現も楽しい。街が植物に飲みこまれるさまも、手描き作画でのびる枝木にデジタル技術の拡大縮小技術もあわせて、TVアニメとしては充分に見せてくれた。


 物語については、アバンタイトルでいきなりガオウたちと対峙していることに面食らった。前回の結末で出撃するガオウがいろはたちに出会う段取りを省略したことでスペシャルな回らしい印象をつくっているが、好みとしては段取りひとつは入れてほしかったところ。
 ともかくニコとの戦いであばかれたガオウの正体は、やはり過去に日記を書いていた人間だった。それがニコの力でガオウとして暴れてきたことも明らかにされた。
『わんだふるぷりきゅあ!』第41話 ユキ・オンステージ! - 法華狼の日記

 日記を書いている人間がことさら謎めいた存在としてあつかわれていることや、狼の正体が人間だったことに過剰に落胆するザクロの姿を見ると、少し前から思っていたがガオウの正体は人間に絶望した人間ではないかという印象がいっそう濃くなる。絶滅動物の立場で人間を糾弾するというあつかいにくいテーマを、絶滅動物を代弁して糾弾する人間に置きかえることで、子供向けアニメでも消化しやすくするつもりなのかもしれない。

 ただ予想をはずされたのは、すでにザクロがガオウの正体に気づいていて、しかも受けいれていたこと。上で引用したエピソードとは印象が異なるものの、もともと狼と特別に仲がいい青年スバルを仲間としてあつかっていたワンクッションがあり、見ていて違和感はなかった。そして特別な人間であれば友となることをこばめないことが、プリキュアをこばめない結末に自然にむすびついた。
 そこでキュアニャミーが自分も同じように近づかれてこばめなかったと語ってザクロをあきらめさせたり、ザクロがスバルを愛していることに猫屋敷まゆが食いついたり、各キャラクターがこれまでの言動の延長で生き生きと動いているところも楽しかった。子供向けアニメとして正面から真面目なテーマを描こうとしているが、きちんと飲みこみやすいかたちになっている。

『無彩限のファントム・ワールド』雑多な感想

 2016年のTVアニメ。京都アニメーションが公募した小説をアニメ化するプロジェクトの一環としてつくられた学園異能アクション。

 ベッタベタな学園異能ライトノベルを京都アニメーションらしく生真面目に高い精度でTVアニメ化。同年に放送された『キズナイーバー』的というか。第1話はアクションのコンテ作画もクライマックスも少女の肉体をのびやかによく動かしている。ファントムを少女が吸いこむ描写で口だけ大きくなった描写が、ロングショットでもちゃんと異形感あったことも、全体の精度が高いから微妙な歪みがちゃんと意図的と実感できるおかげだろう。
 しかし錯覚を説明するアバンタイトルからファントムのデジタル表現につないで、そういう映像の実験もしたい企画なのかなと思ったら、その要素は早々に後退。あまり表現としての実験がなく、かといって学園異能作品として突出した目新しさも感じず、ただただ普通の企画を整った映像でアニメ化しただけと感じられ、良い意味でも悪い意味でも意外性がなく退屈に感じてしまった。当時に一部で評判となったフェティッシュな女体作画も序盤だけ。もっと映像の出来が悪いほうが印象には残ったと思う。

『アンジェラ』

 パリでの商売に失敗した男が、危険な借金を大量に背負って命の危機にひんしていた。複数の犯罪歴があるため国籍をもっている米国もたよれず、警察に泣きついてもうまくいかない。絶望した男が橋の欄干をこえて川に飛びこもうとした時、横で女が同じように川へ飛びこもうとしていた……


 オリジナル現代ファンタジーとしてつくられた2006年のフランス映画。1999年の『ジャンヌ・ダルク』から6年をはさんで、ひさびさのリュック・ベッソン監督作品。

 見ながら、『ソア橋』のような作品なのかと予想した。橋のたもとで死のうとする主人公という導入で連想させるし、途中の観光船をめぐる会話で主人公は泳げないということも語られる。
 しかし謎の女は物理的な存在でありつつ、実際に超常能力をもつことが示されていき、最終的に天使としての姿を物理的にあらわす。モノクロシネマスコープでパリの風景を静かにリアルに切りとり、対比的に幻想的な情景が展開されていく。
 自殺から救ってくれたとはいえ、ひたすら小男に大女が献身し、娼婦姿の天使として救済していく。あまりにも男に都合の良い幻想すぎて、逆に風刺劇のように見えてしまった。ケチな犯罪をくりかえす小男の内面に良き側面としての女性がいると大女が指摘するくだりなど、ジェンダーバイアスを当時なりに意識した描写のようでもある。
 アクションはイマイチ。小男の敵を大女が倒す描写が少しあるが、ほとんど一撃で終わる。どちらかといえば日常ファンタジー映画ならではの要所のVFX使用が楽しかった。その量もけして多いわけではないが。

『相棒 season23』第10話 雨やどり

 雨の日、美術館で赤い傘の女性を待ちつづけている青年がいた。それを見かけた杉下は、直後にスナックのママが殺された事件の血痕に、青年のもっていた傘のチャームが刻印されていたことに気づく。
 青年は傘職人の家に育ち、雨の美術館で出会った若い女性に赤い傘を贈っていた。しかし半年前に女性は失踪。家にあった高価なタペストリーが消えたことを理由に青年は勘当されていた……


 光益義幸脚本らしい、細部まで無駄なく関係性や伏線がおりこまれた緊密なクライムサスペンス回だった。
 ただしスナックのママに結婚詐欺の容疑がかかった過去があったといっても、青年が傘を贈った女性とは年齢からして明らかに別人で、登場人物も多いからこそ善玉悪玉の区別がはっきりしすぎていて逆に事件の全体像が見えすいていた感はある。
 スナックのママを殺した犯人も、印象づけつつ意外性を出すために物語の主軸から外す工夫はしてあるが、関連する半年前の事件にむすびつく手がかりがあまりに露骨で、当時の捜査で注目されなかったのが不思議だし、それでいて映像で明確に見えないので後づけ感がある。
 しかし消えた女性の居場所もふくめて全体像に意外性がないなかで、事件が終わった後に明かされた全体の構図は良かった。おひとよしな青年が子供のころから傘職人として育てられながら困っていた人に傘をわたしていたこと。スナックのママがひきとった子供にも募金詐欺などの犯罪をさせていたこと。そうしたキャラクターを強調するためだけに語られたと思われた設定が組みあわさり、抒情的な過去が描かれる。凄惨な犯罪でむすびついたはずの男女に清廉な思慕が隠されていたことに納得感と意外性があった。


 ……しかし結末で一気に好印象の回になったわけだが、そこから次回予告の「亀山薫」にインパクトを持っていかれてしまった。
 トンデモギャグ回になりそうであり、しかし特殊設定を活用した本格ミステリ回になりそうな期待も少しある。

『SELECTION PROJECT』雑多な感想

 KADOKAWAと動画工房が組んだメディアミックス企画の一環として2021年に放送されたTVアニメ。全国から集められた少女たちがオーディションを勝ちあがるリアリティーショーが描かれる。

 拡大作画を多用しているためか、やや背景に対して人物が平面的に見えるカットが散見されるが、作画は無理なく整っているし、3DCGを併用しつつライブ映像も見ごたえある。
 今さらながらキービジュアルすら知らないくらい先入観のない状態で視聴したので、第1話から第2話の前半までオーディションテーマの物語で選ばれなかった側のドラマを描くのかと驚かされた。情報をもっていれば第2話の後半が茶番に感じてしまったかもしれないが、ちゃんと第1話のED主題歌から視点主人公が除外されているので、少なくとも第1話の時点では選ばれなかった立場ということを徹底している。
 最終選考を前に全員が誰かを切り捨てないことを選んでプロジェクトから降り、自分たちだけで再起をはかる展開*1において第1話で通過できなかったキャラクターを再登場させたことも良かった。主人公と遜色のないキャラクターデザインのおかげで存在感があり、それがアイドル描写で活躍しないことに視聴者としても惜しさを感じる。


 ただ、伝説的なアイドルが交通事故死して妹がつづいて業界に入ろうとする導入や、そうして集められたアイドルが同居する設定など、同年に放映された『IDOLY PRIDE』と異様に設定が似通っている。

 実際に当時はかなり話題になった記憶がばくぜんとあったが、時間をおいて視聴しても既視感がつきまとった。現代のTVアニメの企画から制作にかける時間を考えると、一方が盗作したとは考えにくいが……

*1:どうしてもメタな視聴者の視点では、この再起もふくめてスタッフがつくりあげたフィクションと思ってしまうわけだが……