私的録音補償金が権利者の手元に渡るまで

前のエントリで私のiPodはCCミュージックしか入ってねーぞバーロー、ということを言ってみたのだが*1、じゃあ、本当にCreative Commonsライセンスで提供されている楽曲に補償金が支払われないのだろうか*2。
その辺のことを知るためには、私的録音補償金がどのようなプロセスを経て権利者の手元に届いているのか、ということを理解しないといけないわけで、いろいろ調べてみました。ただ、ちょっとボリュームがありすぎるので、今回は私的録音補償金が権利者にわたるプロセスを概説するのみにとどめ、CCのお話はまた後日、ということにしたい。というか、私的録音補償金自体、説明しきれていない部分もあるので(その意味で未完なエントリでもあります)、できれば不明な点を補足してもらえればな、というところ。
ということで、今回は私的録音補償金の徴収を行うsarah((社)私的録音補償金管理協会)についてから始まる私的録音補償金が権利者の手元に届くまでのお話(未完)*3。

sarahについて

簡単に言うと、デジタル方式の録音機器、記録媒体の販売の際に、補償金を上乗せさせ、それを徴収し、権利者に分配するお仕事をしている*4。

補償金の徴収

補償金支払い対象

補償金支払いの対象となるのは、DAT、DCC*5、MD、録音用CD-R/RWの録音メディアおよび録音機器。

補償金額の算出

録音機器に関しては、標準価格の65%相当額の2%*6(上限1,000円*7)、録音メディアに関しては、標準価格の50%相当額の3%。個人的な感想を言えば、録音するものは同じでも、メディアなり、機器が高いと補償金が高くなる、というのはよくわからないんですけども。そもそもデジタルデータは無劣化でコピーが、という前提のような。

補償金の分配

メーカー、輸入者から徴収した補償金は、どのように分配されていくのか。この辺を不透明だ!っていう人、多いよね。うん、私もわからない。

sarahの管理手数料その他

まず、私的録音補償金の総額から還付引当基金を控除し、その金額からsarahの管理手数料として20%を上限として差し引く。この額は理事会の承認を得て理事長が定めた額となる。この辺は、補償金関係業務の執行に関する規程に記されている。
次に、その額から共通目的基金(共通目的事業への支出)として20%が差し引かれる。この額が差し引かれた額が、権利者団体に分配される。

権利者団体への分配

なぜ、権利者団体なの?と思われるかもしれないが、まぁ、sarahがここの権利者にまで分配をすることができない、ということなのだろう*8。
で、分配されるべき対象はどんな人たちか、というと、著作権を有する著作権者、著作隣接権を有する実演家(アーティスト)、原盤権を有するレコード製作者の3者。それら権利者を代表する団体として、それぞれJASRAC(36%)、芸団協(32%)、レコ協(32%)が補償金を分配される*9。
これまでの流れをsarahのWebサイトに掲載されている図を元に作成してみた。

権利団体からの分配:JASRACのケース

とりあえず、3団体すべてを見ていくのは難儀なので、ここではみんな大好きJASRACの例を見てみることにする。参考資料はJASRACが公開している『「私的録音補償金」の分配手続きについて』(PDF)、および『私的録音補償金分配規程』(PDF)。
JASRACに分配された補償金は、音楽分野に関してはJASRACが、言語分野に関しては日本脚本家連盟が個々の著作権者に分配を行っている*10。ここでは、JASRACのケースとして音楽分野のみを扱う。

補償金の分配対象
  1. NHKラジオ放送及び民放ラジオ(地上波)放送で使用されたもの
  2. 商業用レコードに使用されているもの
  3. 貸レコードで使用されたもの

JASRACの規定によると、これらの3つで利用されたものに対して補償金の分配対象としているようだ。また、これらの3区分に従って、分配資金が配分される。その配分比率は理事会の承認を得て、細則で定める。私的録音補償金分配細則によると、その配分は放送分配基金14%、録音分配基金54%、貸レコード分配基金32%。

分配方法
  • JASRAC委託者

JASRAC委託者宛ての補償金の分配にあたっては、既に委託契約に基づき委託者宛てに分配を行った際に保有している分配資料によって行います。

とのこと。分配資料というのがよくわからない。何なんでしょう。とりあえず、その分配資料がどのようにして作成されているのかが気になるところ(後述)。なお、JASRACと著作権管理について契約を交わしている外国の著作権管理団体に管理委託している海外のアーティストもその対象となる。

  • JASRACに管理委託していない人

JASRACに管理を委託されてない方については、JASRAC に資料がありません。従って、管理を委託されてない方から(管理委託範囲から一部支分権を除外した委託者については除外した支分権の)分配請求を受けてから対応することになります。

まぁ、申請してくれ、というところでしょう。『「私的録音補償金」の分配手続きについて』のPDFの末尾にある「私的録音補償金・分配請求書」に記入し、使用事実の証明、著作権者であることの証明、請求者本人であることの証明を行うといいようだ。1回の請求につき、管理手数料は分配額の10%になるとのこと。
なお、委託者への配分比率は全体の99%、非委託者への分配比率は1%。

分配資料

分配の際にどれだけ利用されているか、を示したものだとは思うのだけれど、前述したようにどういうものなのかはよくわからない。『私的録音補償金分配規程』によると

第10条 第11条の分配対象著作物及び第15条の分配点数は、本会が著作物使用
料の管理を行った結果として保持する機械的処理記録に基づいて確定し、補償金の
分配に用いる分配資料とする。

とあるのだけれど、JASRACの保持しているデータをもとにしているよ、というくらいなものだろうか。まぁ、それぞれのデータがどのようにして算出されているのか、というところまで掘り進まないといけないね*11。

個々の楽曲の分配率

作曲者、作詞者、編曲者、訳詞者、音楽出版社の間で取り決められている演奏権分配率に従って、配分率を決定する。とりあえず、音楽出版社が大きいなぁと*12。

分配点数および分配計算

あー、この部分全然わからない(『私的録音補償金分配規程』の第15条と第16条)。
対象となる各著作物について、基礎点数(分配対象者の取り分の和/全関係権利者の和)、著作物格差点数(放送の分配資料における「著作物格差点数」並びに録音及び貸レコードの分配資料における「みなし曲数」)、使用回数(放送の分配資料における「使用回数」並びに貸レコードの分配資料における「貸出し回数」)、出庫数(録音の分配資料における「出庫数」又は「製造数」)、放送局格差点数(放送の分配資料における「放送局格差点数」)、サンプリング調整係数(放送の分配資料における、レコード放送に係わる標本収集のために行った「特定の週」抽出率の逆数)の点数を付与し、それぞれの点数を乗じた積を当該著作物の分配点数とする*13。
各著作物の分配額は、<該当する分配基金額/分配対象となるすべての著作物の分配対象の和>に各著作物の分配点数を乗じることで産出される。権利者はすべての著作物について同様の計算を行い、その総和から、JASRACが管理手数料を差し引いた額を補償金として受け取ることができる、と。
で、そのJASRACの差し引く管理手数料は、20%の範囲内で理事会の承認を得て、理事長が定める、と(『私的録音補償金管理手数料規程』(PDF)より)。実際の手数料はどれくらいなんだろう?と思ったら、非委託者に対する手数料率も委託者と同率のようなので、今のところは10%ってところかしら*14。

で、実際どんなもんなの?

補償金がいくらいくら、というのはあまり聞かない話だけれど、平沢進さんのインタビューの中で出てきているので、知っている人も少なくないだろう。

実際に、平沢氏に対して支払われている録音補償金のリストを見せていただいた。これをよく見ると、面白いことがわかる。1993年にリリースされたP-MODELのアルバム「big body」に収録されている、「BIIIG EYE」と「BIG FOOT」という2曲に注目してみた。
録音補償金は、過去4年分に遡って支払われているが、この2曲を見ると、CDの売り上げ枚数のところが「0」となっている。なにぶん古いアルバムのことであり、現在は入手難のため、これはわかる。
だが補償金の徴収料金は、「BIG FOOT」が245円、「BIIIG EYE」が172円と、違いが出ている。同じアルバムで売り上げなし、しかもどちらもシングルカットされていない曲でなぜ補償金の額が違うのか。もちろんJASRACは、各曲が誰がどんなメディアに何回コピーしたかなど、まったく関知していないし、調べる手段も持っていない。

ITmedia +D LifeStyle:「補償金もDRMも必要ない」――音楽家 平沢進氏の提言

まぁ、ここまで読んでくれば最後の部分は理解できるだろう。コピーされたことではなく、放送で使用されたか、レコードとして出荷、プレスされたか、レンタルで貸し出されたか、が重要なのであって、コピーされたかどうかが算出の基準となっているものではない。
額としてどうなのか、ってのはまだわからないかなぁ。実際に他の人がどれくらいもらっているのか、というのがわからないので、少ねぇ!というわけにもいかないし。

補足

JASRAC以外の著作権管理団体に委託している人は?という疑問を持った人もいるかもしれないが、イーライセンスやJRCにも私的録音補償金の分配に関する規定があって、それを見るとJASRACから分配されたものをそれぞれの管理団体で分配しているようです。JASRAC自体の規定を見たわけじゃないので、その流れがどうなっているのかはわかりませんが。

終りに

まだまだ調べたりないことは多いですが、頭が混乱してきたので、この辺で今回のエントリはこの辺でおしまい。いずれ書き直すかもしれませんが*15、それまでにこれが足りないとかありましたら、是非とも補足お願いします。

*1:思いのほかブックマークがついたのでびっくりしちゃった

*2:仮に申請したとして

*3:私的録画補償金はSARVHが徴収しているのだけれども、ここでは省きます。興味のある方は調べてみてね。

*4:厳密に言うと権利団体に

*5:デジタルコンパクトカセットだって。初めて聞いた

*6:自動車搭載機器は47%とする

*7:デジタル録音機能を2個内蔵するものは上限1,500円

*8:肯定的に見ているわけじゃないから、突っ込みは勘弁ね

*9:パーセンテージは、還付引当金、管理手数料、共通目的基金が差し引かれた全分配額の内訳

*10:おそらく言語分野というのは、書籍等で利用されたもの、かと

*11:今回はパス。だれかよろしく

*12:必ずしもすべてのプレイヤーが含まれるわけではなく、作曲者のみが権利を有する場合には、すべて作曲者に分配される

*13:分配資料にある個々の数値がどのようにして算出されているのか、ってところがわからないとそれほど意味はないかも。ただ、不透明だ!というなら、徹底的に調べるべきところだよね。

*14:確認したわけじゃないので、話半分で

*15:冒頭の疑問については明日か、明後日にでも