グレンコア

 


■ ブルームバーグが「秘密のベール脱ぐ商品取引最大手グレンコア」という記事を出していた。グレンコアを設立したのはあのマーク・リッチだが、会社は94年に売却されている。その10年後、グレンコアは04年度の売上高でスイス企業トップのネスレを上回り、世界を代表する大手企業が集まるスイスでトップに躍り出た。非上場のグレンコアがネスレをトップから陥落させたことが記事になり、注目を集めた。1位がグレンコア、2位がネスレ、3位はノバルティス、4位がロシュ‥‥と、誰もがその社名を知っている企業が2〜4位を占める中で、グレンコアを知っているひとはあまり多くはないようだ。その理由として、ブルームバーグの記事タイトルにもあるように、非上場会社だから“秘密性が高い”という理由を挙げることができ、記事にある「実際にはだれも名前を聞いたことがないだろう…」というコメントからも窺い知ることができる。


非上場企業として世界最大の売上高を誇るといわれてきた「穀物メジャー」カーギルの売上高(04/05年度)が、およそ710億ドルだから、当時の円ドル相場110円で計算すると7兆8100億円となり、グレンコアがネスレを抜いた04年度の売上高894億スイスフラン=7兆8000億円(数字は日経)とほぼ同じであることがわかる。しかし04年の円ドル相場は、平均して110円を下回っている時期(110円より円高の時期)が多いから、例えば108円で計算したらカーギルの売上高は7兆6680億円となって、日本円で見た場合、グレンコアの売上高に届かないということになる。

【日経】グレンコアの2004年の売上高は894億スイスフラン(約7兆8000億円)。

【ACN Newswire】カーギル社は、食品、農製品及びリスク・マネジメント製品やサービスを提供する国際的な企業です。カーギル社は、59か国に124,000人の従業員を擁し、2004/05年度にはおよそ710億米ドルの売上を計上しました。

グレンコアの名前を聞いたことがなくても、ベルギー出身の「メタル・トレーダー」として超有名人であるユダヤ系のマーク・リッチの名前なら知ってる人は多いはず。リッチは300年の刑期を服役しなければならなかったはずだが、スイスに逃亡していたにもかかわらず、クリントン大統領から恩赦を受けたという人物。以下の写真はフォーブス長者番付に載ったマーク・リッチで、写真をクリックすると記事に飛ぶ。左が01年、右が06年。


 

浜田和幸の『ヘッジファンド』には次のように書いてある。

『アメリカ国務省の金融情報の専門家にいわせると、ほぼ同時期に起こった1992年のポンド暴落に際しては、空売りをかけたソロス氏の背後に、強力な裏部隊がいたようである。「闇の投資家グループ」といわれ、ヨーロッパの通貨危機を利用して一儲けを企んだという。国務省がまとめたそのインテリジェント・レポートによれば、そのグループの中心は、スイスに本拠を構える石油と貴金属のトレーダーであるマーク・リッチ氏、イスラエルの武器商人のシャウル・アイゼンバーグ氏で、もうひとりがイスラエルと英国の諜報機関の連絡役を務めたラフィ・エイタン氏である。彼らの豊富な資金を投入することができたため、ポンド危機でソロス氏が得た利益は一般にいわれていた15億ドルとか20億ドルではなく、100億ドル越える利益を上げたはずだと、アメリカ国務省は見ている。』(106ページ)


この記述を読む限り、マーク・リッチはソロスを有名人にしたポンド危機の「資金源」的な存在となる。そのマーク・リッチが設立したのがグレンコア。


「イスラエルの武器商人」アイゼンバーグは97年に亡くなっているが、その死亡を伝える記事を見ると、彼は日本人と結婚している。アイゼンバーグについては、このへんになんだかいろいろ書いてある。アイゼンバーグの写真は少し検索しただけでは見つけられなかったのでパス。

「諜報機関のスパイ」ラフィ・エイタンは、ここに「年金相」とあるから、06年現在、オルメルト政権にて大臣をつとめている。


Rafi Eitan

イスラエル政府には、ヒズボラの総本山であるイラン攻撃を主張する意見もある。ラフィ・エイタン年金担当相が代表格だ。(狂気のシナリオ「イラン攻撃」)

旧アウシュビッツで「生者の行進」、ホロコースト犠牲者追悼に数千人参加 - ポーランド
2007年04月16日 19:03 発信地:ポーランド

【オシフィエンチム/ポーランド 16日 AFP】 ポーランド南部オシフィエンチム(Oswiecim)郊外にある旧ナチス(Nazi)のアウシュビッツ・ビルケナウ(Auschwitz-Birkenau)元強制収容所で16日、ホロコースト(Holocaust、ナチスのユダヤ人大量虐殺)の犠牲者を追悼する毎年恒例の行進が行われ、数千人が参加した。
(中略)
16日はイスラエルからラフィ・エイタン(Rafi Eitan)年金問題担当相が出席し、行進を率いた。エイタン氏は同国の対外情報機関モサド(Mossad)の工作員だった1960年代、「ユダヤ人問題最終的解決」の責任者の1人でアルゼンチンに潜伏中だったナチス戦犯、アドルフ・アイヒマン(Adolf Eichmann)元ナチス親衛隊中佐の誘拐作戦を指揮した。
(後略)
http://www.afpbb.com/article/1516716

「100億ドル」という数字の信憑性が明確ではないが、『ヘッジファンド』の内容に従うとこのようにソロスの周囲からはとんでもない人物が出てくるわけで、ここにソロスと親しかったジェームズ・ゴールドスミスとジェイコブ・ロスチャイルドを加えるだけで“最強の投機集団”といえるものをほんの数人で形成できてしまうんじゃないのかねえ…。


そのソロスの「資金源」ともくされるマーク・リッチが設立したグレンコアという、非上場企業として世界最大規模の売上高を誇る会社の現CEOがアイバン・グラゼンバーグ。グレンコアのトレーダーらが「世界の石油の3%を取引している」らしい。グレンコアはクレディ・スイスと組んで商品デリバティブ取引を行なっているが、両社の提携を伝えるこの記事に登場するブレディ・ドゥーガンは、現在クレディ・スイスのCEOに就任している。



非上場企業として最大級の売上高を叩き出すグレンコアについての情報が、やはり少ない。もっと詳しい情報が欲しいところである。


以下にグレンコアの記事を1件。

秘密のベール脱ぐ商品取引最大手グレンコア−資源確保へ社債発行増加

7月30日(ブルームバーグ):スイスのグレンコア・インターナショナルがザンビアで保有するモパニ銅山から2月に積み出されたトラック2台分の金属が、目的地であるインド洋のダーバン港にたどり着くことはなかった。ハイジャック犯らがドライバーの抵抗を抑えて積み荷を強奪。緊急時にリモコン操作でトラックの運転機能を停止させる衛星追跡システムも解除されてしまった。

アフリカで30年にわたって鉱物輸送を手掛けるESOトラッキング(ヨハネスブルク)のゼネラルマネジャー、シャウン・シンデン氏は「問題は深刻化している」と話す。世界最大の商品取引会社であるグレンコアは、強奪やストライキ、資源保有国の政府による資源の没収などのリスクにさらされている。非公開会社のグレンコアは、6大陸で操業し、毎日、数十億ドル相当の石油や石炭、金属、穀物を生産・取引している。

グレンコアはまた、収入ベースで世界5位の上場鉱山会社、スイスのエクストラータの株式の過半数のほか、アルミニウムメーカー最大手、ロシアのルスアルの12%を保有している。英ニュー・スター・アセット・マネジメントでグレンコアの社債を含め248億ポンド(5兆9000億円)相当を運用するフィル・ローンツリー氏は「実際にはだれも名前を聞いたことがないだろうが、グレンコアは恐らく、最も経営がうまくいっている会社の1つだ」と語る。

グレンコアは1974年に米国からの元亡命者である資産家、マーク・リッチ氏によって設立され、94年に現在のオーナーらに売却された。リッチ氏は 83年、当時、米連邦政府の検察官だった後のニューヨーク市長、ルドルフ・ジュリアーニ氏によって、脱税と、米国が経済制裁を科していたイランから原油を購入した罪で起訴された。リッチ氏は2001年、当時のクリントン大統領によって恩赦を受けた。リッチ氏はその後、マーク・リッチ・ホールディングを設立し、この会社を通じて不動産とヘッジファンドに投資している。

現在は経営幹部グループが所有するグレンコアは、設立後ほとんどの期間、情報の開示を最小限にとどめていた。03年まで同社のウェブサイトはたった1ページで、会社の商標と住所が記載されているだけだった。リッチ氏の下で石炭トレーダーとして勤務した後、02年から最高経営責任者(CEO)を務めるアイバン・グラゼンバーグ氏(50)は、03年に業界紙メタル・ブリテンとのインタビューに応じて以降、メディアに姿を現していない。今回も、グラゼンバーグCEOは、社員へのインタビューのほか、トレーディングフロアやプラントへの取材を拒否した。

秘密のベール

グレンコアはいま、その秘密のベールを脱ぎ始めている。同社は、生産会社を買収することによって金属や石炭、原油などの資源を確保しようと躍起になっており、買収資金を調達するため社債を発行しているからだ。グレンコアは96年に初めて社債を発行。以降、65億ドル(約7700億円)を債券市場で調達している。社債発行に当たり、投資家や格付け会社に対して詳細な財務内容の開示が必要となった。

格付け会社のムーディーズ・インベスターズ・サービスとスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は、ともにグレンコアの社債と銀行借入金に最も低い格付けを付与している。両社はその理由として、グレンコアのロシアでの事業におけるリスクや、同社が採り続ける秘密主義のほか、資金の多くがつぎ込まれている利益配分制度を挙げている。グレンコアが5月に発表した決算報告書によると、利益配分制度には現在、126億ドルが充てられている。06年には109億ドルだった。

グレンコアが3月、社債保有者を対象に開いたプレゼンテーションによると、この制度の下では、純利益の85%が同社社員の株式保有者に配分される。 126億ドルの資金のうち31%を経営幹部12人が保有するが、10%以上を保有する幹部はいない。残りは他のマネジャーが保有している。

経営幹部が仮にきょう退社すれば、1人当たり平均3億2500万ドルを、他の株主は約2000万ドルを手にすることになる。株式を保有する社員らは退社後、5年間にわたって支払いを受ける。

「グレンコア(Glencore)」の社名は「global energy commodity resources」を短縮したもの。同社のウェブサイトによると、40カ国以上に50 カ所の事務所を持ち、2000人の社員を抱える。社員の大半はスイスのバールのほか、ロンドン、シンガポール、米コネティカット州スタムフォードのトレーディングオフィスで勤務している。バール本社があるスイスのツーク州は、税率が低く、スイスの機密法が適用されるため多くの世界の商品取引会社が本社を置く。

グレンコアが2月、社債購入希望者向けに開いたプレゼンテーションによると、子会社は14カ国にあり、社員総数は5万人。このほか、世界で100隻を超える船舶を操業し、世界で50社の原油タンカー運航会社を経営している。グレンコアのウェブサイトによると、世界の石油の3%を同社のトレーダーらが取引している。同社が金属を販売する顧客にはビデオ・ゲーム機最大手のソニーや欧州最大の自動車メーカー、独フォルクスワーゲン(VW)などが名を連ねる。

グレンコアは非公開企業であるため、トレーディングや買収の決定が迅速に行われる。米モルガン・スタンレーのジョン・マックCEO(62)は「グレンコアは株主総会に余り時間をかけない。事業のために時間をかける。官僚的な部分が全くないため非常に迅速に事業を進めることができる」と指摘する。マック氏は01年から04年までクレディ・スイス・グループのCEOを務めていたが、この時からグレンコアのグラゼンバーグCEOを知っている。

グレンコアは昨年、クレディ・スイスと商品デリバティブ取引の子会社を設立。両社はこの子会社を通じて原油や金属先物の取引を行っている。

グレンコアの企業文化

グラゼンバーグCEO率いるグレンコアの幹部らは若いことで知られる。ステファン・カルミン最高財務責任者(CFO)は99年に入社し、現在36歳。共同でアルミ部門責任者を務めるステファン・ブルムガルト氏とゲーリー・フィーゲル氏はともに34歳という若さだ。石油部門責任者のアレックス・ベアード氏は39歳。

グレンコアと同様に商品取引を手掛ける70億ドル規模の米ヘッジファンド、オスプライ・マネジメントの設立者であるドワイト・アンダーソン氏(40)は「グレンコアの経営陣はこの分野に最も精通した知性派たちだ。グレンコアには平凡さに飽き足りない文化がある」と語る。

現在は商品取引会社を運営するグレンコアの元トレーダーが匿名を条件に明らかにしたところによると、同社のトレーダーは常に厳しいスケジュールをこなしている。世界の隅々にまで出張し、金属の積み荷や原油タンカーを手配。携帯情報端末のブラックベリーを24時間身に付け、価格や輸送の交渉をする。

他の元トレーダーは、長時間労働と常にさらされる重圧に耐えられず、90 年代初めに40歳でグレンコアを退社したと言う。

透明性の向上

過去数年間、グレンコアは株式公開企業のような行動を取っている。グレンコアの事情に詳しい関係者の1人は、同社が株式公開も検討しているとの見方を示す。03年以降、グレンコアが発行している社債の目論見書には、収入や利益、資源生産会社との数多くのパートナーシップに関して、これまでにないほどの量のデータが記載されている。グレンコアの幹部らは、いまでは格付けアナリストらとも会っている。

更新日時 : 2007/07/30 12:50 JST

http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=infoseek_jp&sid=a03o_JD00_us

記事にあるように、グレンコアはアルミ最大手であるルスアルの株式12%を保有している。ルスアル(RusAl)とはロシアン・アルミニウム(Russian Aluminum)のことだが、06年8月22日にルスアルとスアル(Siberian-Urals Aluminium)の合併が発表された。ロシアの長者番付の常連であるオレグ・デリパスカの会社とヴィクター・ヴェクセルベルグの会社の統合である(そのときの記事)。そのときの記事では「新企業体の株式は75%をデリパスカ氏が、25%をベクセルベルク氏が保有するという。」内容だったのだが、8月30日になるとその買収内容が変わり、ルスアルが、スアルとグレンコアのアルミナ部門を買収するという記事が出た。「新会社の持ち株比率はルスアルが64・5%、スアルが21・5%、グレンコアが14%」である、と(その記事)。そして10月9日、ルスアルとスアルとグレンコアのアルミナ部門の合併合意が正式に発表され、「ルスアルは新会社の株式66%、スアルは22%、グレンコアは12%を保有」「来年4月までに合併手続きを終えるという」との内容になった(その記事)。

そして予定通り07年3月、ルスアルとスアル、グレンコアのアルミナ部門の合併が完了し、新会社「ユナイテッド・カンパニー・ルスアル」が誕生した。つまり、グレンコアはアルミナ部門を売却することで、見返りとして巨大会社「新ルスアル」の株式12%を手に入れたと考えられる。

WSJ-アルコア、アルキャンに敵対的買収提案
5月8日11時13分配信 ダウ・ジョーンズ

(前略)3月には、ロシア・アルミニウム(ルスアル)、スアル、スイスのグレンコアのアルミ部門が合併を完了し、新会社「ユナイテッド・カンパニー・ルスアル」が誕生した。アルミ生産量世界一の座をめぐりアルコアと競う可能性がある。新会社ルスアルは、より低コストでより多くのアルミを生産する計画で、こうしたことが、アルコアによるアルキャン買収の動きの背景にある。(後略)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070508-00000016-dwj-biz

そのルスアルは、早ければ11月にもロンドン株式市場に上場する。AFP=時事の記事によると、ルスアルはこのIPOで25%の株式を売却する予定で、その金額は最大で90億ドルになるそうだ。単純に4倍にすると360億ドル(約4兆2500億円)になるが、そうするとこれは、アルコアがアルキャン買収に提示した株価に32%上乗せした値(330億ドル)を上回る。7月12日、アルキャンは総額381億ドルでリオ・ティントに買収されることで合意した(その記事)。



Rusal+SUAL+Glencore


左から、ヴィクター・ヴェクセルベルグ、

オレグ・デリパスカ、

グレンコアのCEOアイバン・グラゼンバーグ。

グラゼンバーグ以外の2名は、ロシアでトップ5に入る「富豪」である。