ポメラ

 その弁当屋があることを、私は前から知っていた。正確には惣菜屋だと思っていた。私はその惣菜屋を、自分の生活に組み込むことは難しいと感じていた。私の生活の動線から、その店は外れたところにあったから。

 その日、私は病院に行くことにした。いつもとはちがう道を歩いた。惣菜屋はその道の並びにあった。時刻はお昼時だった。私はその惣菜屋に入った。

 カウンターの下に様々な惣菜がケースに入れられ並んでいる。揚げ物も豊富。カツにあじフライ、白身魚のフライに、あとは何だろう、唐揚げもあった、煮物もあった、マカロニサラダ、ポテトサラダ、揚げパン、あんドーナツ。ラミネート加工された四枚組のメニューにお弁当がプリントされている。私はそういうとき(つまり慣れないお店のときは)唐揚げ弁当を頼む。唐揚げ弁当は、多くの弁当屋にあるものだから。唐揚げ弁当と、あんドーナツをください。私は女性にそう言った。ご飯はどうします?と聞かれた。普通盛りは300gだという。多分大丈夫です、と答えた。普段ペペロンチーノを作るとき、パスタは110g、たびたび行く二郎系ラーメンの女性向けのラーメンの麺は200g、まあ、300gもさして変わらないだろう。

 しばらく待った。こういう惣菜屋が生活に組み込まれていると楽しいだろうなあと思った。女性客が一人、入ってきて、細かく注文していた。チキンカツを二枚、ブロッコリーのサラダを100g、きんぴらを100g。惣菜屋が生活に組み込まれている。

 どうやらこの店のお弁当は、陳列ケースから取っていくシステムらしかった。空のお弁当箱に、手際よく惣菜を詰めていく。できあがって、お会計をして、私は店をあとにした。

 感動したのはこんにゃくのきんぴらだった。細く切ったこんにゃくを醤油で味付けたもの。私は甘めの味付けが苦手で、大概きんぴらというのは砂糖かみりんか、甘く煮付けてあるけれど、この店は醤油が強くて私好みの味で、すごくおいしいと感じた。もちろん唐揚げも、あとは食べたいなあと密かに思っていたマカロニサラダが入っていてうれしかった。マヨネーズとまとったぷりぷりのマカロニって、どうしてあんなにおいしいのだろう。いちょう型に切られた小さなにんじんやきゅうりも最高。

 私はこのことを書いて残したい、と思った。いつもやっていることではあった。でも、その日はノートに書く気分ではなかった。パソコンでもスマホのメモアプリでも気乗りしなかった。ただ淡々とタイピングしたくて(パソコンだと不要なものがたくさんあって邪魔)そうだ、そういえば「ポメラ」があったな、昔欲しいなあと思ってたな、と思い出して、なんとなく調べて、驚くことにそのまま買ってしまった。安くない値段なのに。私は疲れていた。疲れた脳だもの、まともな判断ができるわけない。まあ、これから質素に生きよう。

 私はこのテキストをポメラで書いている。お弁当を食べた日から少し経ってしまったけれど。知らない町の、様々な人々で賑わう喫茶店の片隅で。そして今日この喫茶店で食べたトーストのおいしさも、これからポメラで書くだろう。