ドラゴンクエストのネーミング法則〜詳細版〜

 ものすごく時間が開きましたが、ドラゴンクエストのモンスターネーミング法則についての続きの記事です。前回の記事を読んでいない人は、とりあえず、

ドラゴンクエストのモンスターの命名法について - 枯れた知識の水平思考

 ↑この記事を読んどくと良いですよ。

 今回検証してみたのは、ドラゴンクエストは2作目以降、
ひらがなの名前のモンスターより、カタカナの名前のモンスターを強くする傾向がある
ということについてです。


 ということで、ドラゴンクエスト1からドラゴンクエスト5の攻略本にのっている、
最初のモンスター30体と、最後のモンスター30体を調べ、比較してみました。ちなみに、4と5は、最後の方に海で遭遇するモンスターが固まっているので、それは除外しました。


 調査に用いた資料は、SFC版ドラゴンクエスト1,2、SFC版ドラゴンクエスト3、DS版ドラゴンクエスト4、DS版ドラゴンクエスト5の公式ガイドブックです。

ドラゴンクエスト1

 一作目は登場するモンスターが、38体しかいないので、サンプルとして採りあげるのは最初の15体と最後の15体にしました。


 全登場モンスター数     38体 
 カタカナのモンスター 25体
 ひらがなのモンスター 13体

序盤の15体中  カタカナ 10体 ひらがな 5体 

終盤の15体中  カタカナ 9体 ひらがな 6体 


 前回の記事でも述べましたが、一作目においては、まだカタカナとひらがなを織り交ぜるということを意識的に取り入れてはいません。そのため、前半に出てくるモンスターと後半に出てくるモンスターのひらがな、カタカナの割合がほぼ同じ比率になっています。

ドラゴンクエスト2

 全登場モンスター数  80体
 カタカナのモンスター 56体
 ひらがなのモンスター 17体
 ひらがな+カタカナ  7体


序盤の30体中 カタカナ 16体 ひらがな 9体  ひらがな+カタカナ 5体
終盤の30体中 カタカナ 24体 ひらがな 4体  ひらがな+カタカナ 2体


 早速二作目にして、前半と後半で、ひらがなとカタカナの割合が相当違っています。ひらがな+カタカナのモンスターをひらがな側にカウントすると、前半のひらがな:カタカナの割合が14:16なのに対して、後半は6:24になります。前半にはスライムやドラキーのような、前作から引き継がれ、最早ドラクエに欠かせないカタカナ名の定番モンスターがいるにも関わらずです。前作とは全く別の考え方に基づいてモンスターが命名されていることが分かるのではないでしょうか。


 色違いモンスターについても触れましょう。
やまねずみ→おおねずみ→おばけねずみ
まじゅつし→きとうし→ようじゅつし→じごくのつかい→あくましんかん
上記のモンスターのように、一作目で用いられたスライム→スライムベスのような足し算的なロジックは、二作目でもまだまだ残っています。特に、まじゅつしからの5段階変化は1〜5作目通しても、最大の変化数です。


 しかし、これだけではなく、前回の記事で述べた法則、カタカナ名のモンスターとひらがな名のモンスターが交互に登場するという法則に則った色違いモンスターが、二作目にして早速登場しています。


リビングデッド→くさったしたい→グール
どろにんぎょう→パペットマン
くびかりぞく→バーサーカー
じんめんじゅ→ウドラー


↑二段階に変化しているモンスターはいずれも、ひらがな名が弱く、カタカナ名が強くなっています。色違いモンスターにおいても、ひらがなより、カタカナ名を強くする傾向が見られるのがわかります。カタカナ名からひらがな名に変化しているモンスターは、


ホイミスライム→しびれくらげ


これだけでした。


スカルナイト→アンデッドナイト→ハーゴンのきし


こんなのもありますが、ラスボスのハーゴンの名前をつけてる時点で、全然弱い印象の敵にはなっていません。これはちょっと例外的なモンスターですね。



そしてドラゴンクエスト2には、もう一つ前作には見られなかった特徴のネーミングのモンスターが登場します。代表例を一つ挙げましょう。


ホイミスライムです。


これはどういうことかというと、ネーミングにモンスターの特性を説明させてしまうってことです。ホイミスライムって名前の通り、ホイミ使いますよね?このネーミングも前作には見られなかったことです。このような特徴をもった他のモンスターとして、ラリホーアント等が挙げられます。

ドラゴンクエスト3

 全登場モンスター数  127体
 カタカナ名モンスター 81体
 ひらがな名モンスター 34体
 ひらがな+カタカナ  12体


 序盤の30体  カタカナ 14体 ひらがな 11体  ひらがな+カタカナ 5体
 終盤の30体  カタカナ 25体 ひらがな 5体  ひらがな+カタカナ 0体


 3作目においても、序盤より、終盤にカタカナ名のモンスターが多くなっているのが見て取れます。


 ひとくいばこ→ミミックという色違いモンスターが、ひらがな名からカタカナ名になることで、パワーアップしたような印象を与える決定打のようなモンスターも登場しています。

ドラゴンクエスト4

 全登場モンスター数  194体
 カタカナ名モンスター 127体
 ひらがな名モンスター 55体
 ひらがな+カタカナ名モンスター 12体


 序盤の30体中 カタカナ 17体  ひらがな 12体  ひらがな+カタカナ 1体
 終盤の30体中 カタカナ 23体  ひらがな 6体   ひらがな+カタカナ 1体

 
 4作目は、5章構成になっており、序盤の主人公が弱い状態での戦闘が、5回発生するというシリーズ中最も異質な構成になっているのですが、それでも序盤にひらがな名のモンスターが多く、後半にひらがな名のモンスターは減っています。

ドラゴンクエスト5

 全登場モンスター数 202体 
 カタカナ名モンスター 159体
 ひらがな名モンスター 34体
 ひらがな+カタカナ名モンスター 9体


 序盤の30体中 カタカナ 19体 ひらがな 8体 ひらがな+カタカナ 3体
 終盤の30体中 カタカナ 28体 ひらがな 2体 ひらがな+カタカナ 0体


 5作目ともなると、後半のひらがな名モンスターは2体しかいなくなっていますが、序盤のひらがな名モンスターも他に比べて、若干減っています、この理由はまとめの部分で述べるとして、ドラゴンクエスト5は、色違いモンスターにおいても、ひらがな名とカタカナ名が交互に登場するという法則が崩れ気味です。


 ビッグアイ※→ケムケムベス→ムーンフェイス
 ドロヌーバ※→マドルーパー→ジェリーマン
 ホースデビル→メッサーラ※→バルバロッサ
 メタルハンター→キラーマシン※
 ドラゴンマッド※→ボスガルム
 ストーンマン→ゴーレム※
 シャドーサタン→イズライール→ライオネック※


 等など、カタカナ名だけで色違い変化しています。何故こうなったのでしょうか?その理由の一つとして考えられるのはドラクエ5の特徴の一つである、モンスター仲間システムです。上記のモンスターで、※印がついているモンスターは、何れも主人公が仲間にすることが可能なモンスターなんですね。モンスター仲間システムによって、モンスターの立ち位置に変化が起こったので、ひらがな名やカタカナ名によって微妙な違いを出さなくても良くなったのではないかということです。


 もう一つ考えられる理由は、ドラゴンクエスト4は、ファミコンで出ましたが、ドラゴンクエスト5は、スーパーファミコンで出たので、容量に余裕があったということです。


 ドラゴンクエスト4で3種類以上に変化している色違いモンスターは40種類ほどいますが、ドラゴンクエスト5においては、19種類に減っています。つまり、色違いを出すまでも無く、様々な種類のモンスターを登場させることが可能になったため、ネーミングによって違いを演出する重要性が低くなったのではないでしょうか?

まとめ

 以上の検証で、ドラゴンクエストは2作目以降、ひらがな名のモンスターを序盤に多目に配置し、後半にカタカナ名のモンスターを多目に配置するということが明らかになったのではないでしょうか?

 
 では、なぜ、ドラゴンクエストはひらがな名のモンスターを序盤に多目に配置するのでしょうか?それには色々な理由が考えられますが、僕の考える最大の理由は、

 ひらがなのネーミングのほうが誰にでも分かり易い

 ってことです。



 ひとくいばこ、しびれくらげ、わらいぶくろ、くさったしたい、ほのおのせんし、ばくだんいわ等など、ひらがな名のモンスターは、名前を聞いただけで、誰でも、大体の姿が想像出来るんじゃないでしょうか?ドラゴンクエストの間口の広さの理由の一端がこの、ひらがなを多用したモンスターの命名にあるんじゃないかと僕は思います。


 そして、もう一つの理由は、堀井雄二自身が語っていることなんですが、ひらがな名にすることによってあえてダサくするってことです。堀井雄二の発言を引用します。
 

堀井.
タイトルはけっこう悩んだんですよ。結局、店に止まると、お金をいただくわけじゃないですか。ストリートはストリートで。ダサめのほうが引きがあるのかなと思って(笑)。かっこいいタイトルをつけることもできたんだけど、むしろ、ダサいほうが、あたたかみがあると。全然関係ない話なんだけど、大人計画という劇団がありますよね。今はもうかなり有名になりましたが、じつはボク、昔から時々見にいったりしていて、そこの座長の松尾スズキさんという人が、その著書の中で『いたスト』についてちょっと触れていました。“タイトルはダサいが面白い”って。ちょっと嬉しかったですね。(笑)。


http://touch-ds.jp/crv/vol4/002.html


 これは、DS版「いただきストリート」の発売時に宮本茂と対談した時の、ネーミングについての発言なのですが、これってそのまんまドラゴンクエストのモンスターのネーミングについても当てはまると思います。堀井雄二というクリエーターが、どのような価値基準で言葉をチョイスしているのかが、よくわかる言葉ですね。ドラゴンクエストが所謂厨臭さみたいなのが薄めなのも、こういうあえてダサい部分を取り入れる姿勢にあるのではないでしょうか。


 ドラゴンクエストというゲームは、ウィザードリィやウルティマの翻案によって生まれたゲームであるというのは、確かなことなのだと思いますが、シリーズを重ねるなかで、如何にRPGという外国から輸入してきた素材に、日本語を馴染ませていくかということを試行錯誤してきたゲームでもあるのです。これってもしかしたら、明治時代の文学者が、外国の文学などから、今日使われる日本語を編み出していったことと同じようなことを、堀井雄二はしてきたのかもしれません。この辺の話をはてなで話題の(だった)「日本語が滅びるとき」に絡めて語ったら面白そうな気もしますけれども、俺その本まだ読んでないんで、それはまた別の機会にということで。


ってか堀井雄二が松尾スズキの舞台を昔から見てたってエピソードが意外すぎる…
どんだけ引出し持ってんだろこの人…