破壊屋ブログ

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『渇き。』の感想

映画『渇き。』を観た。原作は暗い情念が渦巻いていたけど、映画ではその暗い情念を派手な色調と豪快な暴力シーンで明るく楽しく上書き。まるで「暴力と性犯罪とドラッグはエンターテイメントです!」と言わんばかりの勢いで圧倒された。中島哲也監督の演出はやっちゃいけないことをハシャぎながらやっている雰囲気だ。

ストーリー解説

  • ある夏の日、コンビニ強盗殺人事件が起きる。主人公である藤島(役所広司)はその区域の警備員で、現場に駆けつけて凄惨な死体を目撃する。
  • 藤島に元妻から「娘の加奈子が帰ってこない」と連絡を受ける。警察に連絡するように伝えるが、妻はなぜかそれを拒む。
  • 藤島はかつての我が家に戻り加奈子の部屋を調べる。加奈子の持ち物からYAH YAH YAHなブツが見つかる。
  • 藤島はかつて刑事だったが、妻の愛人を半殺しにして離婚&退職したのだった。藤島は加奈子を探すことで家族を再生できるのではと夢見る。
  • 藤島は加奈子を探すために史上最低の主人公の名にふさわしい暴走&暴行を繰り返す。でも加奈子はそのロクデナシの父をも超える究極の…

役所広司 with シャブ

『渇き。』の最大の魅力は役者陣たちのタガが外れた演技だ。特に主人公の役所広司がスゴいことになっている。

役所広司はスキャンダルが無いこともあってパブリック・イメージの良さを活かしたCMに出演している。でも『渇き。』では90年代の暴力的で破滅的な役所広司が復活!プレミアムビールのイメージキャラクターが安アパートで汚くビールを飲む!車のCMで安全性を叫んでいる男が飲酒運転して事故を起こしまくる!住宅のCMに出ている男が幸せそうな家庭を破壊する!航空会社のCMに出ている男がシャブをキメる!

「これは問題大アリだろ!」と思っていたけど実際に問題があったみたいで役所広司が笑いながら車で人をハネるシーンが予告編から削除されているよね。

俺も『渇き。』の主演に役所広司が発表されたときは「いや、それってダイワハウスのCMに悪影響あるだろ!」と心配していたが、映画本編は心配していた以上に酷い結果になっていた。というか明らかに住宅CMのバカバカしさそのものを映画の伏線に持ってきている。

ボクと加奈子

小松菜奈演じる加奈子は異性からは好かれ同性からは憧れる魅力的な存在だ。高い知性と人の心を惹きつける優しさも持っている。そしてその力を悪用して周囲の人間を壊し、挙げ句の果てに殺人事件まで起きる。

映画『渇き』は加奈子に翻弄される人々を描いている。観客が感情移入できるのは劇中唯一マトモな人物と言っていい男子中学生の「ボク」だ。「ボク」はいじめられっ子だけど加奈子と会うことでいじめの無い日々を手に入れる。「ボク」にとって加奈子は世界の救世主だ。

「ボク」の物語は淡くさわやかな映像で表現される。そしてこれが中盤のアイドルソングのシーンで転調して地獄絵図に突入する。「ボク」を通じて観客も加奈子の破壊を体験できるようになっている構図が上手い。残酷だけど。

タイトルの意味と加奈子の意味

原作も映画も作中に「渇き」という表現は一切使っていない。原作だと「渇き」の意味は最後の一行まで読むと理解できる。父親が娘を果てまで追い求める渇望が「渇き」の正体だ。でも映画版はポップな暴力映画なのでタイトルの意味がちょっとわかりにくくなっているね。海外タイトルの『加奈子の世界』のほうがわかりやすいかな。

ところで幸運にもガジェット通信で『渇き。』の原作者とお話する機会を設けてもらったんだけど、そこで加奈子がドラッグのメタファーであることを教えてもらった。人々を惹きつけて壊す、そして中毒に陥ると果てしなく渇望したくなるのは確かにドラッグだ!