森の掟

J-POPやメタルやフェスや音楽番組なんかの批評(という名の無益な墓掘り行為)

『AKIRA REMIX』をきっかけに考えたい、芸能山城組による映画『AKIRA』の音楽は何がすごかったのか(そして久保田麻琴リミックスがいかに最高か)

先日リリースされた『AKIRA REMIX』がほんとに大好きで、最近はずっとこればっかり繰り返しリピートしているので、今回はそもそも『AKIRA』のすごさから振り返りつつ、リミックスの適材適所っぷりまで見ていきたい。

 

 

『AKIRA REMIX』は、映画『AKIRA』のサウンドトラックの楽曲を、久保田麻琴や小西康陽らがリミックスしたもの。

 

1988年公開の『AKIRA』は、原作者である大友克洋みずから監督と脚本も手がけて、当時としては桁外れの予算で作り上げた近未来ディストピアSFアニメ大作。

公開から30年以上たった今もアニメ界や映画界にとどまらず、世界中のクリエイターに影響を与え続けている。

 

 

こんな感じでオマージュが大量に存在する超有名なバイクのシーンをはじめ、全編を通してカッコイイ要素ばかりなんだけど、その中でも無視できない存在感を放っているのが、芸能山城組による音楽。

 

『AKIRA』の映画化にあたり、音楽は当初シンセサイザーの大御所、冨田勲が予定されていたらしいが、近未来にシンセサイザーという組み合わせがありきたりすぎると感じた大友克洋が、みずから芸能山城組に熱烈にオファーしたという。

 

監督直々のオファーの甲斐あって、バリ島のケチャやガムランやジェゴグ、日本の祭り囃子や能楽や声明、またアフリカや東欧など世界中の民族音楽を取り入れた芸能山城組の音が、2019年のネオ東京の狂騒的で退廃的なムードや、超能力者の神秘的だったり悪夢的だったりするビジョンを、見事に表現しきっている。

 

 

映画『AKIRA』といえば、金田や鉄雄といったキャラクターが縦横無尽に躍動するおもしろさに誰もがまずは心を奪われるんだけど、作品としての魅力はそこだけにとどまらない。

 

ネオ東京という巨大な都市で、暴走族や革命家や軍隊や政治家や宗教家といった人間たちがそれぞれの思惑でうごめいていることで生じる、そして大半の住民が特に思惑もなく享楽的に生きていることで生じる圧倒的なエネルギーが、この作品を特別なものにしている。

 

たとえば根津のこんなセリフも。

あらゆる面でこの街は飽和状態にある。熟し過ぎた果実じゃ。中に種を宿したな。

あとは果実を落としてくれる風を待てばいいのじゃ。アキラという風をな。

 

つまり、一人ひとりの人間はただただ必死に生きているだけにすぎないのに、都市とか文明とかいう巨大なものを生み出してしまう、人間というものの本質的なおもしろさ、そういったものを表現するところまで至る必要があったわけで、音楽も単に「近未来だからシンセサイザーね」っていう発想では全然足りなかった。

 

 

「近未来だからシンセサイザーね」だと、このあたりの二番煎じになってしまうっていう。

 

 

『ブレードランナー』も『トロン』も、公開当時はこのシンセサイザーが未来っぽさを強調してくれていたんだけど、90年代にはすでに古臭く感じられるようになってしまっており、2024年にもなると、古臭さが一周して逆にレトロものとしてアリっていう地点に至ってしまってる。

 

ダフト・パンクが一周してアリにした例↓

 

 

 

80年代のシンセサイザーのように、その時代の最先端な音楽を使って未来を表現すると、わりとすぐに古臭くなる。

ならばいっそのこと、新しいとか古いとかの軸の外側にある音楽を使うことで、陳腐化しないし神秘的になるっていうのが、『AKIRA』の音楽の革新性。

 

民族音楽って、それぞれの土地で何百年、下手すると千年単位で受け継がれてきたものなので、80年代がダサいとか逆にアリとか、そういう物差しとはスケール感が違う。

 

また、特定の作曲家や演奏者が作ったものではなく、その土地で何世代も受け継がれる中で少しずつ形になってきたものっていうところも、『AKIRA』が持つメッセージ性と響き合っている。

 

たとえば、キヨコに憑依されながら話すケイのこんなセリフ。

アキラって、絶対のエネルギーなんだって。

人間って、一生の間にいろんなことをするでしょう?

何かを発見したり、作ったり、家とかオートバイとか、橋や街やロケット…

そんな知識とかエネルギーって、どこから来るのかしら。

猿みたいなものだったわけでしょう?人間って。

その前は爬虫類や魚、そのもっと前はプランクトンとかアメーバ…

そんな生物の中にもすごいエネルギーがあるってことでしょう?

 

 

今回の『AKIRA REMIX』は、そんな芸能山城組と大友克洋の思いをしっかり汲んだ上でフレッシュなリミックスを施している久保田麻琴の仕事がとにかくすばらしい。

 

久保田麻琴といえば、70年代のデビュー以降、裸のラリーズや夕焼け楽団、サンディー&ザ・サンセッツ、細野晴臣とのデュオといった数々の作品で各時代にいくつもの代表作を生んでいるミュージシャンでもありつつ、世界各地の音楽を紹介するプロデューサーとしても超一流。

個人的には、気になる音楽を掘っていった先に「久保田麻琴」という名前を目にするっていう体験を、今まで何度も味わってきた。

 

そんな久保田麻琴の『AKIRA REMIX』での仕事に近いものとしては、2012年にやった江州音頭のリミックス。

ここで一部が試聴できますが、元の素材の本質の部分を掴んでちゃんと尊重しつつ、ふつうにフロア映えするレベルでフレッシュに手をいれていて、めちゃめちゃカッコイイ。

 

 

 

 

 

毎年8月に西新宿の三井ビルで行われている芸能山城組のケチャまつり。
ジェゴグによる「金田」の演奏もあり、ガムランやケチャなど一日中楽しめる祭典。

ネオ東京の風を感じたいみんなにオススメです。

 

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