女性が哲学に惹かれない(らしい)のはなぜ?

これは古典的な問いである。大学進学率が男女半々くらいになってきて、文系諸学科では女性の比率がむしろ高くなってきているが、心理学、社会福祉学、言語学などに比べて、哲学は女性から人気がない。その理由としては、以下が考えられる。

(1)概して女性は哲学的思考というものに興味がない。
(2)現存の「哲学」は伝統的に現実の女性を蔑視し、排除しながら構築されてきた。「女性は抽象的思考が苦手であたまが悪い」など。そういう学問に女性が興味をもたないのは当然。(また、女性蔑視してる哲学教師も多いから学生はそれを内面化する)
(3)現存の「哲学」は、学問内容として、「女性の経験」を取り込んでこなかった。女性は哲学に、みずからの経験に響く要素を感じず、興味を持てない。裏返して言えば、現存の「哲学」は過度に男性ジェンダー化されている。

ほかにもあるかもしれない。私は個人的には(1)は無意味、(2)と(3)が大きいかなと思う。

(2)の解決を前提としたうえで、(3)に注目するならば、「女性の経験」というものに立脚した哲学が打ち立てられていったとしたら、それはどのようなものになっていくのかに、大きな興味がある。そういう目で見てみれば、20世紀のフェミニズム思想は、まさに女性が主人公となった「哲学」運動であったと考えることができる。(フェミニストたちは、この言い方を、哲学によるフェミニズムの回収という悪辣な暴挙だと言うかもしれないが)。また、学界でも影響力のある女性哲学者は増えてきているように見える(ただし女性の数は圧倒的に少ない)。

もし、「哲学という知的装置それ自体が男性による女性の搾取の装置でありそれ以外ではあり得ない」というふうに考えないのならば、男性ジェンダー化が解体されたあとの哲学がどんなふうなものになるのかを考えてみることに、意義はあると私は思う。

とりあえず、ざっくりとした問題提起のみ。

実は、日本の職業的哲学者(ほとんどが大学教員と院生)の最大の学会である「日本哲学会」が、一昨年にこのテーマについて学会員のアンケート調査を行なっている。私も答えた。その結果がネットで発表されているのでぜひご覧頂きたい。
http://philosophy.cognitom.com/exec/page/danjo-kyoudou/

とくに「1.1 日本哲学会における女性会員の比率の低さは何を反映していると思いますか」
http://philosophy.cognitom.com/exec/page/questionnaire-1-1/

「4. 男女共同参画推進については賛否両論があるかと存じます。それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお寄せ下さい」
http://philosophy.cognitom.com/exec/page/questionnaire-4/

が読みごたえがある。また後者にある女性からの意見:「このアンケートに答えるか否か迷いました。というのは、どうせ改善されないだろうというあきらめがあるからです。日本の哲学系の学会では。私は今学会活動の場を海外に探しつつあります。日本ではもう希望がもてないからです。日本はイスラム国よりはるかに男性王国です。そのことを自覚しないのは日本の男性だけです。私が所属する海外(ヨーロッパ)の哲学系学会は参加者の半数が女性であり、執行部に助成枠が設けてあります。しかしアンケートに答えたのは0.1%の可能性を求めてです。日本は男性女性の問題はまことに後進国ですよ。それと、男女の問題とは別に、日哲は学会での発表は何故現実社会と密着したもっと広いテーマを採用しないのでしょうか。HIV差別とかテロリズムのような。現状では「日本文献哲学会」と名付けたほうがいいですね。(女)[誤字などママ、一部修正]」には賛同できる部分がある。日本の学術哲学誌の現状は、世界的標準から見て、かなりおかしい。このままでは世界からまったく相手にされないと思う。これについては、いずれまた別エントリーを立てたい。