食品特許を読みあさろう

食品関連の特許をアレコレ読んで紹介します

オハヨー乳業 泡でプリンに焼き目を付ける

コンビニなどで売られているカッププリンに大きな驚きをもたらした、プラスチックカップ入りの焼きプリンについての特許です。

疑問に思ったことはないでしょうか?

「プラスチックのカップに入っているのにどうやって焼き目を付けているのか?」

手作りで焼きプリンをつくる場合は、ガラスや陶器などの耐熱容器に入れてオーブンで焼いて焼き目を付けます。ときには、クレームブリュレのようにバーナーで炙って焼き目を付けることもあります。

しかし、プラスチックカップに入ったプリンではそれほど高温で焼くことはできません。とはいえ、耐熱性プラスチックを使用しているので180℃くらいなら大丈夫ですが。

手作りの焼きプリンは卵液の熱凝固でプリンを固めますが、一般的に廉価で販売されているプリンはゼラチン等のゲル化剤で固めています。前者は固めるために加熱が必要ですが、後者では固めるための加熱は不要です。原料も製造工程も経済的です。

しかし、冷やし固めるのでは焼き目は付きません。そもそも加熱しても液体なので容易には焦げ目がつかないのです。どうやって焦げ目をつけているのでしょうか?

 

プラカップの耐熱温度内で効率よくプリンの表面に綺麗な焼き目を付けるために、発明者は固まる前のプリンの上面に泡を乗せて160℃のオーブンで焼く方法を見出しました。泡ならば、液体上のプリンの表面にちゃんと乗ってくれます。流体として扱えるので充填が容易です。液体部分の温度が伝わりにくいので泡部分だけすぐに温度が上がって焦げ目が付きます。シンプルな解決手段ですが、見事に考え抜かれた方法です。

 

ところが、他社からも同様の方法でプラカップ入り焼きプリンが発売されてしまします。なぜなら、成立した特許が"ザル"だからです。

もともと申請されていた時点での請求項*1は次の通りでした。

『プラスチックカップにプリンミックスを充填し、その表面に微細な泡状物を供給した後、所定温度で焼成して前記泡状物を適度に焦がすことを特徴とする焼プリンの製造法。』

ところが、成立した特許の請求項は、次の通りになってしまいました。

『プラスチックカップにプリンミックスを充填し、その表面に牛乳、砂糖、卵黄を主原料とする微細な泡状物を供給した後、所定温度で焼成して前記泡状物を適度に焦がすことを特徴とする焼プリンの製造法。』

ちょっとした違いですが、『牛乳、砂糖、卵黄を主原料とする』という記載によって、特許がほぼ無価値になりました。なぜこの特許が無価値かというと、プリンの表面に乗せる泡の主原料が『牛乳、砂糖、卵黄』と述べられているので、このうちいずれかを含まない泡を使用すれば特許を回避できるからです。『牛乳、砂糖、卵黄』のいずれかを使わずに焦げ易い泡を造ることは、すごく簡単です。

特許が審査される過程で請求項の記載内容が変わるのはフツーのことですが、素晴らしい発明の特許なのでもっと広い範囲の特許が認められて欲しいなーなどと思ってしまいます。

結局、コンビニの棚を見ればオハヨー乳業以外のメーカーの焼きプリンも並んでいます。それらは、オハヨー乳業の泡を乗せる方法を使っています。

特許を申請する際には、請求項の変更されたくない部分が守れるよう想定を重ねて準備をしていく、その重要性を改めて認識しました。

 

 

【特許番号】

特公平7-110212

【名称】

焼プリンの製造法

【特許権者】

オハヨー乳業株式会社

【課題】

プラスチックカップを用いて焼成でき、しかも品質の優れた焼プリンを製造できるようにした、焼プリンの製造法を提供する

【請求項】

プラスチックカップにプリンミックスを充填し、その表面に牛乳、砂糖、卵黄を主原料とする微細な泡状物を供給した後、所定温度で焼成して前記泡状物を適度に焦がすことを特徴とする焼プリンの製造法。

*1:特許が適用される範囲を示す一番重要な部分