2014年 05月 23日
ルトワック自身の教えるわかりやすい「パラドックス」 |
今日の横浜北部はやや雲が出ましたが、なんとか天気の崩れはありませんでした。
さて、またしても久々の更新ですが、今日はここ数日間に連続で話を聞いてきたエドワード・ルトワックの話を。
私が『自滅する中国』を監訳したことはすでにご存知の通りだと思いますが、彼の戦略書としては主著となる『エドワード・ルトワックの戦略論』という本を出したことは、私が最近始めた動画生放送でもご紹介させていただきました。
ただしこの本は、彼の文体の難しさもあって、非常にわかりづらいところがあり、彼の理論の核心となる戦略の「逆説的論理」(パラドキシカル・ロジック)というものが、正直なところうまく解説されているようには思えません。
ところが彼が口頭で説明すると、このパラドックスというものを実にわかりやすく説明してくれます。
今回の来日では食事を囲みながら彼がこの戦略の「逆説的論理」を自身でうまく説明してくれたのでその要約を。
まず、ルトワック自身は、史上優れた戦略家としてその優れた性質が「文書」として残っているのはたった二人だと言います。それは、ナポレオンとチャーチルです。
そしてルトワック自身が実例として使うのは、このチャーチルの方。
チャーチルというのは、ご存知の通り、それほど学校での成績はよくなく、むしろ落ちこぼれの部類に入る人間でしたが、軍に入ってからメキメキとその才能を発揮。
そういう意味で、彼は戦略の本質というものを本能的に直感で理解していた人間の典型だ、というのがルトワックの見解。
ではその戦略の才能がどこにあらわれているのかというと、ルトワックによれば第二次大戦中の1941年9月末の英空軍幹部との会話。
この時にチャーチルは、ポータル元帥の進言する爆撃機のみによるドイツ戦の勝利の綿密な計画について逐一論破していくことになったが、これがまさに彼の戦略についての直感をよくあらわしているとのこと。
なぜなら、たとえば英空軍が後にハンブルグを空襲で全滅させて大成功したように、最初に何かを成功させると、それは「今日成功したがゆえに、明日は失敗することになる」という戦略の逆説的論理を、チャーチル自身がよく理解していたから。
ではチャーチルは何をわかっていたかというと、最初に空爆が(ハンブルグなどで)成功すると、その効果は次の目標都市では半分、そしてその次の都市ではさらにその半分というように落ちていってしまうということ。
なぜならドイツ側もまな板のコイではないわけですから、一度爆撃されると、それに対抗して工場を分散したり、代替品を開発(ゴムなど)したりして、次の攻撃には備えることができるわけです。
結果として、ドイツはイギリスからの空爆後のほうが軍需産業の生産性が効率化したというデータもあるくらい。
なぜチャーチルはこのようなことを見越せていたのかというと、それは彼が「敵の反応や対抗措置」というものが戦略を行う上で決定的になることをよく理解できていたからです。
つまり戦略というのは敵がいるからこそ成り立つものであり、しかも敵がその攻撃に対して行ってくる対応や反応が決定的な意味を持つ、ということなわけです。
私の先生のグレイはこのルトワックの説明を、「戦略に時間という概念を入れたという意味で革命的だ」と解説しておりましたが、これはたしかに鋭いところをついているかと。
どうも戦略というものを考えた時、われわれは「相手がこう動いてくる」ということを忘れがちなのですが、このような例を聞くと、「逆説的論理」などと難しい言葉を使われなくても、なんとなくその戦略の複雑さと面白さが理解できる気がします。
ちなみに『…戦略論』の中にはチャーチルの良い言葉が引用されております。それは、
「力の等しい国家間で行われる今回の戦争、あるいはあらゆる戦争に勝利する確かな方法があると考える者は、無分別な人間である。唯一の計画は耐えることである」(p.93)
というものです。
たしかにこれは、戦略の「逆説的論理」というものを上手く表現できておりますね。
http://ch.nicovideo.jp/strategy
さて、またしても久々の更新ですが、今日はここ数日間に連続で話を聞いてきたエドワード・ルトワックの話を。
私が『自滅する中国』を監訳したことはすでにご存知の通りだと思いますが、彼の戦略書としては主著となる『エドワード・ルトワックの戦略論』という本を出したことは、私が最近始めた動画生放送でもご紹介させていただきました。
ただしこの本は、彼の文体の難しさもあって、非常にわかりづらいところがあり、彼の理論の核心となる戦略の「逆説的論理」(パラドキシカル・ロジック)というものが、正直なところうまく解説されているようには思えません。
ところが彼が口頭で説明すると、このパラドックスというものを実にわかりやすく説明してくれます。
今回の来日では食事を囲みながら彼がこの戦略の「逆説的論理」を自身でうまく説明してくれたのでその要約を。
まず、ルトワック自身は、史上優れた戦略家としてその優れた性質が「文書」として残っているのはたった二人だと言います。それは、ナポレオンとチャーチルです。
そしてルトワック自身が実例として使うのは、このチャーチルの方。
チャーチルというのは、ご存知の通り、それほど学校での成績はよくなく、むしろ落ちこぼれの部類に入る人間でしたが、軍に入ってからメキメキとその才能を発揮。
そういう意味で、彼は戦略の本質というものを本能的に直感で理解していた人間の典型だ、というのがルトワックの見解。
ではその戦略の才能がどこにあらわれているのかというと、ルトワックによれば第二次大戦中の1941年9月末の英空軍幹部との会話。
この時にチャーチルは、ポータル元帥の進言する爆撃機のみによるドイツ戦の勝利の綿密な計画について逐一論破していくことになったが、これがまさに彼の戦略についての直感をよくあらわしているとのこと。
なぜなら、たとえば英空軍が後にハンブルグを空襲で全滅させて大成功したように、最初に何かを成功させると、それは「今日成功したがゆえに、明日は失敗することになる」という戦略の逆説的論理を、チャーチル自身がよく理解していたから。
ではチャーチルは何をわかっていたかというと、最初に空爆が(ハンブルグなどで)成功すると、その効果は次の目標都市では半分、そしてその次の都市ではさらにその半分というように落ちていってしまうということ。
なぜならドイツ側もまな板のコイではないわけですから、一度爆撃されると、それに対抗して工場を分散したり、代替品を開発(ゴムなど)したりして、次の攻撃には備えることができるわけです。
結果として、ドイツはイギリスからの空爆後のほうが軍需産業の生産性が効率化したというデータもあるくらい。
なぜチャーチルはこのようなことを見越せていたのかというと、それは彼が「敵の反応や対抗措置」というものが戦略を行う上で決定的になることをよく理解できていたからです。
つまり戦略というのは敵がいるからこそ成り立つものであり、しかも敵がその攻撃に対して行ってくる対応や反応が決定的な意味を持つ、ということなわけです。
私の先生のグレイはこのルトワックの説明を、「戦略に時間という概念を入れたという意味で革命的だ」と解説しておりましたが、これはたしかに鋭いところをついているかと。
どうも戦略というものを考えた時、われわれは「相手がこう動いてくる」ということを忘れがちなのですが、このような例を聞くと、「逆説的論理」などと難しい言葉を使われなくても、なんとなくその戦略の複雑さと面白さが理解できる気がします。
ちなみに『…戦略論』の中にはチャーチルの良い言葉が引用されております。それは、
「力の等しい国家間で行われる今回の戦争、あるいはあらゆる戦争に勝利する確かな方法があると考える者は、無分別な人間である。唯一の計画は耐えることである」(p.93)
というものです。
たしかにこれは、戦略の「逆説的論理」というものを上手く表現できておりますね。
http://ch.nicovideo.jp/strategy
by masa_the_man
| 2014-05-23 23:43
| 日記