2013年 03月 09日
北朝鮮をつぶして朝鮮半島を統一せよ |
さて、東アジアの地政学的な状況についての中国側からの視点による興味深い論説記事を。
著者は中国共産党中央党校の発行する「学習時報」の副編集長です。
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中国は北朝鮮を見捨てよ
By デン・ユウェン
●北朝鮮の三回目の核実験は、中国にとって金王朝との長年にわたる同盟関係を考え直すいいチャンスだ。
●いくつかの理由から、私は北京政府が平壌政府を諦めて、朝鮮半島の統一を進めるように圧力をかけるべきだと考える。
●その理由の第一:イデオロギーを基盤にした国同士の関係というのは危険だからだ。もしわれわれがイデオロギーだけで同盟関係を選んでいたら、今日の中国が西側諸国ともっている関係というのは存在しなかったはずだ。中朝両国はたしかに同じ「社会主義国家」であるが、その間の違いは西側諸国と中国のそれよりも大きい。
●第二の理由:中国の戦略的安全保障における、地政学的な「同盟国」としての北朝鮮の価値というのは、すでに時代遅れになっている点。たしかに冷戦中は北朝鮮は有益な友好国であったが、今日もひきつづき有益であるかどうかは疑わしい。
●たとえば平壌政府の核兵器開発と先制攻撃の能力を獲得したおかげで、アメリカが北朝鮮を国家安全保障上のさらなる脅威だと真剣に思い始めた場合を考えてほしい。
●この場合、中国は「同盟」という理由から北朝鮮を助ける義務があるのだろうか?これは自分に炎を向けてしまうことにはならないのだろうか?もしそうであれば、そもそも「緩衝国」の意味はあるのだろうか?このような場合、中国にとって最も信頼できるのは自国の強さとオープンさであろう。
●第三の理由:北朝鮮が改革を行って開国することは今後も見込めないという点だ。国際社会は2011年に金 正恩が政権を掌握した時にこれから改革を行うかもしれないと期待し、実際にそのような動きも見えた。
●ところが彼が個人的に小規模な改革を行う意志があったとしても、北朝鮮の支配層はそのようなことを彼に行わせないだろう。改革の動きが始まってしまえば政権は崩壊してしまうからだ。遅かれ早かれ失敗する国の政権と、中国が関係を維持しつづけなければならない理由はどこにもないのだ。
●第四の理由:北朝鮮が北京から距離を置きはじめているという点だ。中国側は、現実よりも「朝鮮戦争で一緒に戦った同士である」という視点から中朝関係を見たがっている。つまり「血で固められた友好関係」ということだが、北朝鮮はこのような感情を中国にたいして全く持ってはいない。
●すでに1960年代から北朝鮮は朝鮮戦争の歴史を書き換えており、建国の父である金日成の絶対的な権威を確立するために、中国側の兵士たちが命をかけて現在南北朝鮮を分断している38度線まで国連軍を押し戻したという事実を抹殺しているのだ。
●中国の多くの義勇兵たちの墓地は完全に破壊されてしまい、その功績はすべて金日成に与えられてしまったのだ。北朝鮮の国民にとって「中国との絆」を断ち切ることは、自国の自主独立のひとつの表現であると見なされたからだ。
● 第五の理由:北朝鮮が核兵器を持てば、気まぐれな北の政権がいつ中国にたいして核兵器を使ったブラックメールを行わないとも限らないのだ。
●スタンフォード大学のある学者によれば、クリントン元大統領が2009年に平壌を訪れた時に、北朝鮮は自分たちの経済の失敗を、中国の「自己中心的な戦略」とアメリカの経済制裁に原因があるとして非難したという。
●その時のリーダーである金正日は、六カ国協議から手を引いた動機として、自国の武器開発計画を進めることによって北京から自由になれるからだとほのめかしたという。つまりこれは、アメリカに対する兵器の開発ではないということだ。
●金正日は、もしワシントン政府が手を差し伸べ続けてくれれば、北朝鮮は中国にたいする最強の防護壁となると示唆したというのだ。そして平壌政府は、中国を強要するために核兵器を使えることを明かしたというのだ。
●北朝鮮の核開発の動機の一部には、アメリカと対等な立場になってワシントン政府に妥協を迫ることができるという幻想がある。
●ところが同時に核武装をした北朝鮮は、もし自分たちの要求が通らなかったり、アメリカからよい反応が得られなかった場合には、中国にたいして無理を迫ってこようとする可能性があることは全く否定できない。
●これらの議論を考慮すれば、中国は北朝鮮を見捨てることを検討すべきである。平壌政府を見捨てるための最適な方法は、朝鮮半島の統一を中国から働きかけて進めることだ。
●半島統一の遂行は、日米韓の戦略的な同盟関係を弱めることになるし、アジアの北東部からの地政学的圧力を緩和できるのだ。そしてこれは台湾問題の解決にとっても有用となるはずだ。
●その次に良い解決法は、中国の影響力をつかって北朝鮮に親中政権を育てて安全保障の担保を与えることであり、核兵器を諦めさせて普通の国としての経済発展に向かわせることだ。
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「朝鮮統一を進めてしまえ」というのはけっこう過激ですね。
中国と朝鮮半島の微妙な関係をあらわしている、非常に地政学的な意見ですな。この記事からも中国側の様々な動機や事情(歴史問題も含めて)が見えてきて勉強になります。
ただし、「この“統一”は中国の主導の元に行われるべきだ」という前提で書かれている点は要注目。結局のところはこの半島は大国のパワーバランスから逃れられない、という地政学的な事実が見え隠れしております。
著者は中国共産党中央党校の発行する「学習時報」の副編集長です。
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中国は北朝鮮を見捨てよ
By デン・ユウェン
●北朝鮮の三回目の核実験は、中国にとって金王朝との長年にわたる同盟関係を考え直すいいチャンスだ。
●いくつかの理由から、私は北京政府が平壌政府を諦めて、朝鮮半島の統一を進めるように圧力をかけるべきだと考える。
●その理由の第一:イデオロギーを基盤にした国同士の関係というのは危険だからだ。もしわれわれがイデオロギーだけで同盟関係を選んでいたら、今日の中国が西側諸国ともっている関係というのは存在しなかったはずだ。中朝両国はたしかに同じ「社会主義国家」であるが、その間の違いは西側諸国と中国のそれよりも大きい。
●第二の理由:中国の戦略的安全保障における、地政学的な「同盟国」としての北朝鮮の価値というのは、すでに時代遅れになっている点。たしかに冷戦中は北朝鮮は有益な友好国であったが、今日もひきつづき有益であるかどうかは疑わしい。
●たとえば平壌政府の核兵器開発と先制攻撃の能力を獲得したおかげで、アメリカが北朝鮮を国家安全保障上のさらなる脅威だと真剣に思い始めた場合を考えてほしい。
●この場合、中国は「同盟」という理由から北朝鮮を助ける義務があるのだろうか?これは自分に炎を向けてしまうことにはならないのだろうか?もしそうであれば、そもそも「緩衝国」の意味はあるのだろうか?このような場合、中国にとって最も信頼できるのは自国の強さとオープンさであろう。
●第三の理由:北朝鮮が改革を行って開国することは今後も見込めないという点だ。国際社会は2011年に金 正恩が政権を掌握した時にこれから改革を行うかもしれないと期待し、実際にそのような動きも見えた。
●ところが彼が個人的に小規模な改革を行う意志があったとしても、北朝鮮の支配層はそのようなことを彼に行わせないだろう。改革の動きが始まってしまえば政権は崩壊してしまうからだ。遅かれ早かれ失敗する国の政権と、中国が関係を維持しつづけなければならない理由はどこにもないのだ。
●第四の理由:北朝鮮が北京から距離を置きはじめているという点だ。中国側は、現実よりも「朝鮮戦争で一緒に戦った同士である」という視点から中朝関係を見たがっている。つまり「血で固められた友好関係」ということだが、北朝鮮はこのような感情を中国にたいして全く持ってはいない。
●すでに1960年代から北朝鮮は朝鮮戦争の歴史を書き換えており、建国の父である金日成の絶対的な権威を確立するために、中国側の兵士たちが命をかけて現在南北朝鮮を分断している38度線まで国連軍を押し戻したという事実を抹殺しているのだ。
●中国の多くの義勇兵たちの墓地は完全に破壊されてしまい、その功績はすべて金日成に与えられてしまったのだ。北朝鮮の国民にとって「中国との絆」を断ち切ることは、自国の自主独立のひとつの表現であると見なされたからだ。
● 第五の理由:北朝鮮が核兵器を持てば、気まぐれな北の政権がいつ中国にたいして核兵器を使ったブラックメールを行わないとも限らないのだ。
●スタンフォード大学のある学者によれば、クリントン元大統領が2009年に平壌を訪れた時に、北朝鮮は自分たちの経済の失敗を、中国の「自己中心的な戦略」とアメリカの経済制裁に原因があるとして非難したという。
●その時のリーダーである金正日は、六カ国協議から手を引いた動機として、自国の武器開発計画を進めることによって北京から自由になれるからだとほのめかしたという。つまりこれは、アメリカに対する兵器の開発ではないということだ。
●金正日は、もしワシントン政府が手を差し伸べ続けてくれれば、北朝鮮は中国にたいする最強の防護壁となると示唆したというのだ。そして平壌政府は、中国を強要するために核兵器を使えることを明かしたというのだ。
●北朝鮮の核開発の動機の一部には、アメリカと対等な立場になってワシントン政府に妥協を迫ることができるという幻想がある。
●ところが同時に核武装をした北朝鮮は、もし自分たちの要求が通らなかったり、アメリカからよい反応が得られなかった場合には、中国にたいして無理を迫ってこようとする可能性があることは全く否定できない。
●これらの議論を考慮すれば、中国は北朝鮮を見捨てることを検討すべきである。平壌政府を見捨てるための最適な方法は、朝鮮半島の統一を中国から働きかけて進めることだ。
●半島統一の遂行は、日米韓の戦略的な同盟関係を弱めることになるし、アジアの北東部からの地政学的圧力を緩和できるのだ。そしてこれは台湾問題の解決にとっても有用となるはずだ。
●その次に良い解決法は、中国の影響力をつかって北朝鮮に親中政権を育てて安全保障の担保を与えることであり、核兵器を諦めさせて普通の国としての経済発展に向かわせることだ。
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「朝鮮統一を進めてしまえ」というのはけっこう過激ですね。
中国と朝鮮半島の微妙な関係をあらわしている、非常に地政学的な意見ですな。この記事からも中国側の様々な動機や事情(歴史問題も含めて)が見えてきて勉強になります。
ただし、「この“統一”は中国の主導の元に行われるべきだ」という前提で書かれている点は要注目。結局のところはこの半島は大国のパワーバランスから逃れられない、という地政学的な事実が見え隠れしております。
by masa_the_man
| 2013-03-09 11:56
| 日記