「麻布競馬場」とは何者か?「中流の悲しみ小説」で大バズりの作家が「中流、東京、地方都市」への思いを語った
「麻布競馬場」というツイッターアカウントを知っていますか? Twitterにツリー形式(複数のツイートをつなげて読める投稿形式)で小説を投稿する匿名アカウントで、毎週のようにバズを巻き起こし、爆発的に拡散されています。
そんな麻布さんのツイートから傑作を集めたショートストーリー集『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』がついに発売されました。収録されている話の多くに、地方出身者の東京での「挫折」が描かれています。どうして執拗に「地方と東京」のギャップに苦しむ人間を描き続けるのか、麻布さんに聞きました。
(取材・構成/長瀬海)
「流山おおたかの森」イジリから始まった
——麻布競馬場さんがTwitterに小説を投稿することになったきっかけをお聞かせください。初めての投稿はいつだったのでしょうか?
麻布競馬場(以下、麻布) 2021年の10月頃が初めてのツリー形式での小説の投稿でした。あの頃のツイートは全部消しちゃったんですが、いま書いている物語よりももっと俗っぽいものでしたね。最初は完全にお遊びのつもりで書いてたんです。たくさんの人に読んでもらおうという意識もありませんでした。
ちょうどその頃、窓際三等兵さんというアルファツイッタラーの方がTwitterに小説を書いてバズり始めたんです。彼はタワマンに住んでる人の悲哀を物語に仕立ててたんですけど、それに影響を受け、現在のスタイルの原型ができました。
——じゃあ、最初は反響も特に期待せず、気軽に書いて投稿していた?
麻布 ええ。単行本にも収録されている、流山おおたかの森に住む元カレに会いにいく女性の話を書いたらそれがバズって驚きました。
当時SNSで、千葉の人気新興住宅地である「流山おおたかの森」をいじるのが流行っていて。
ざっくり言えば、「上昇志向の強かったビジネスパーソンが、自分は東京では圧倒的成功を収められないことを悟り、そのことに悲しみを抱きつつも、意地でも東京にしがみつき、流山おおたかの森に住む人たちことを『都落ち』だと見下すことで半ば無理やり自分のプライドを守ろうとするが、実際にはタワマンの狭苦しい部屋とは大違いの広い戸建てや緑豊かな環境、そして何より、競争を降りてパートナーや子供と暮らす人たちの幸せそうな表情を目の当たりにして、人生に関する価値観が揺らぐ場所」みたいないじりですね。