「あの川崎の事件の犯人は在日らしいよ」
晴れた日は家にほとんどいない。その日の夕方も買ったばかりのクロスバイクにまたがってちょっと遠くにあるお気に入りの銭湯へ行った。
ひさしぶりのお湯は子どもが入るには少し熱い温度で、湯船のへりには赤い顔をした子どもが座っていて、そのとなりには「この温度こそ銭湯だ」と言わんがごとく、顔色一つ変えず肩まで使っている父親がいた。
小さなときから銭湯が好きだった。父が国道沿いにあるスーパー銭湯によく連れていってくれたからだと思う。
「こうやらないと背中に刺青をいれたとびの棟梁のおじいちゃんに怒られたもんだよ」と思い出話を語りながら銭湯マナーを教えてくれた。
子どもにとって、たまに行く銭湯はちょっとしたレジャーランドみたいなもので、ひとつの湯船だけではなく、さまざまな場所に入ってみたいと思って、大きな浴室をうろちょろしていた。父は「どこへ行くんだ?」と毎回、訊いていた。
落ち着きのなかったわたしと違って、父親の近くでじっと座っている子どもを見て「ちゃんとしてる」と思いながら熱い湯に肩まで浸かった。
風呂から上がると番台さんに150円を渡し、キンキンに冷えた瓶の牛乳を飲む。こういう瞬間をスマホのカメラでおさめて、SNSにあげるのがいまのマイブームだ。
いつものように写真をあげようとTwitterを開くとタイムライン上に「あの川崎の事件の犯人は在日らしいよ」というツイートが流れてきた。
5月28日の朝、川崎市登戸で児童19人が男に襲われた悲惨な事件が起きてから、たびたび流れるようになってきたものだ。