ボストンのトイレ表示から、「LGBTの権利」を考える

橋爪大三郎の「社会学の窓から」⑫

改造が進むアメリカ

アメリカで、そして世界中で、トイレの改造が急ピッチで進んでいる。

いままでの「MEN」「WOMEN」ではだめなのだ。多様な性別に対応しなければならない。手探りの、でも本気の取り組みである。

ボストン美術館を訪れたら、トイレに立派なメッセージが掲げてあった。美術館のポリシーを示している。参考になるので、紹介しよう。

ボストン美術館のトイレにあるメッセージ
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最初の段落にはこうある。1887年、マサチュセッツ州は全米で初めて、働く女性に「十分な数」の独立したトイレを設けるよう、事業所に義務づけました。男女別のトイレは、女性が公共の場で、安全で快適に過ごせるための運動でした。

そのあとの段落がとても大事なので、まるごと翻訳してみる。

「それから一世紀あまり、ジェンダーについての理解は前進しましたが、トイレはそのままでした。

 

歴史的な、男性/女性の二分法(伝統的服装の、ズボンとスカートの絵がついている)では、そんな二分法に合わない人びとが、たとえば、トランスジェンダーやノンバイナリーやジェンダー・ノンコンフォーミングの人びとが、使えません。

それに、障害のある人びとが使いにくいトイレも多いのです。当美術館では、あらゆるジェンダーの人びとが障害のあるなしに関わらず、トイレを自由に使っていただけるよう、取り組みを進めています。」

トランスジェンダーとは、生まれたときとそのあとの性別が、一致しないひと。ノンバイナリーとは、男性/女性のどちらにも入り切らないひと。ジェンダー・ノンコンフォーミングとは、性別に不適合なひと。どれもすっきり日本語にならないが、それは、こういう現象を日本人がまだしっかり考えていないので、よい言葉がないのだ。

そのあとは、こう続く。

「まず第一歩として、これまでのトイレに、新しいサインをつけました。これは、当美術館の、今後変わらぬ方針を示すものです。すなわち、<来館者のみなさまは、現在のジェンダー・アイデンティティ(そして/または、見た目)に従って、ふさわしいトイレをお使いください。> 車椅子対応の便座も、一室には備わっています。」

半身がズボンで半身がスカートのサイン
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一室だけのトイレの場合は、サインが新しくなった。三人、人間が並んでいる。ズボンとスカート、そして三人目は、半身がズボンで半身がスカートになっている。このサインは、最近あちこちで見かけるので、普及しつつあるようだ。

別な場所には、オール・ジェンダー・レストルーム(すべての性別向けのトイレ)が新設された。サインをみると、便座と小便器、になっている。

最後に、ご意見のあるかたはどうぞこちらへ、とメイルアドレスrestrooms @… がのっている。美術館にチームがあって、組織的な取り組みをしているのだ。

実際に、美術館のトイレのサインを見てみると、いちおうMEN/WOMENとは書いてあるのだが、その下に self-identified(自分で決めてください)と書いてある。これなら改修しなくても、この看板をつければ、大部分のトイレですぐ対応できそうだ。

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