「私のホームは『地球』、かな」
世界最大の仮想通貨取引所である「バイナンス」に興味津々だという人は多い。
かつてバイナンスが拠点としていたアジアで、暗号通貨について語る際には、バイナンスと趙長鵬(ジャオ・チャンポン)CEOに触れないわけにはいかない。
「CZ」という呼び名で知られているジャオについて、人々は畏敬と羨望の念を抱き、疑念を持つ。そして皆が知りたがるのは、「ジャオは一体、どこにいるのか」ということだ。
CZはこの質問があまり好きではない。「みんな、いまだに会社の所在地や、誰がどこにいるのか、ということを気にしすぎている」とCZは言い、「会社や組織というのは、概念にすぎない」と述べる。
ならば「どこがあなたのホームだと思っているのか」と聞くと、「その質問の答えは分からないな。地球、かな?」と答えた。ご想像の通り、実際に対面することは難しかったため、シンガポールにいた私は、台湾にいるCZとビデオ電話でやりとりした。
CZは、仮想通貨の理想を体現していると言ってもいいだろう。結局のところ、仮想通貨で重要なことは「非中央集権的」であるということだ。ビットコインを例に見ると、どこの中央銀行も絡んでいないし、ビットコインが国境を超えて流れていくのをどこの政府も止めることができない。そんな仮想通貨の世界のなかで、とくにバイナンスを縛ることは難しいだろう。
バイナンスは、ケイマン諸島とマルタで会社登録されている。だが銀行口座を持たず、同社のスタッフは世界中に散らばっている。
CZは、バイナンスが国から国へと「逃亡している」と勘違いしている人たちがいると言う。彼に言わせれば、どちらかといえば、リスクを軽減させるためにいろいろな国へ多角化しているというのだ。
「ひとつの拠点や規制環境に固執することは絶対にしない」と、CZは述べる。バイナンスがマルタに会社を設立した理由は、マルタ政府が仮想通貨に対して好意的な規制を行っているためだ。政府はさらに、バイナンスに仮想通貨の空間でどう規制を行うのがベストなのかについて相談すらしている。
バイナンスの分散型戦略はうまく行っている。CZと彼のスタッフは、もともと上海に拠点を置いていた。
2017年9月に中国は仮想通貨の取引所を禁止にしたが、CZはその兆候を察知して、当局の取り締まりより前にスタッフとサーバーを国外に移動させていた。
「中国政府が仮想通貨取引所をよく思っていないと察したとき、我々は、それならそれで仕方ががないし、目の敵にはされたくないと考えた。拠点を移せばいいだけのことだしね。結果的に、その決断は幸運をもたらした」
現実に起こったことは、「幸運」などという言葉では言い表せないほどだった。バイナンスは中国当局の取り締まりから、長期的なダメージを受けることがなかっただけでなく、爆発的な成長を享受した。
昨年10月、バイナンスは750万ドルの4半期利益を記録した。そして今年4月に発表された直近の4半期では、バイナンスは1億5000万ドルの4半期利益を出した。ざっと、20倍増である。