「サラリーマンこそ会社を買って、一人の経営者になるべきだ」――こんな提言を一年前から続けているのが、日本創生投資の代表・三戸政和氏だ。日本が大廃業時代に突入するいま、『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』を著した三戸氏が、改めてその真意を説く。
相次ぐ黒字廃業に胸が痛む
ちょうど一年前のいまごろ、「サラリーマンは退職金で会社を買いなさい」という記事を書かせていただいた。20年もサラリーマンをやっていた人なら、基本的なマネジメントの能力は持ち合わせているから、会社の経営者になる十分な資格がある、という視点から書いたものだ。
一方、日本は「大廃業時代」に突入しており、会社を売りたいと思っている経営者が増えている。下手に会社に居座るよりは、とっとと退職して、その退職金で会社を買って、経営者になるべきだ、という論を展開した。
一部で不興も買ったが、大変多くの人に関心をもっていただき、その後の「姉妹編」である「飲食店はやってはいけない」シリーズも併せて、累計500万PVも読まれる「人気記事」となった。
筆者の想像をはるかに超えた反響であったものの、なにも思い付きで書いたわけではないし、あれから一年が経った今こそ、「やはりあの時書いたことは間違いではなかった」という思いを強くしている。
たとえば日経新聞では「大廃業時代」と銘打って、度重なる特集が組まれた。「売り先」に悩む中小企業の経営者は増えるばかりだ。2018年1月27日号の週刊ダイヤモンドでも、「廃業or承継」という特集が組まれている。筆者も驚きだったのは、「痛くない注射針」で脚光を浴び、中小企業の星とまで呼ばれた岡野工業が黒字ながら廃業という選択をしたことだった。
この、日本経済を下支えする中小企業の大廃業の問題について、いま一度、整理したい。
8割近くが「後継者不在」
日本の中小企業の多くは同族経営であり、かつては息子や娘婿、弟や甥が、家業として会社を継ぐ親族内承継がほとんどだった。ところが最近では、子どもが跡を継がなくなっている。
大学を出て、大手企業に就職し、それなりの給料をもらって都会で生活している子供たちは、わざわざ実家に戻って町工場や工務店などを継ぐという選択をしたがらなくなったのである。
中小企業の社長も、自分たちの子供に会社を引き継いでもらうことを強制したくないという意識が強くある。そのため、新陳代謝が生まれなくなっている。実際に、日本の社長の平均年齢は高齢化の一途を辿り、1990年の54.0歳から現在は59.2歳に上昇。来年にも中小企業の社長全員が定年退職という状況になっている(ちなみに、一番多いのは66歳)。
帝国データバンクの『2016年社長分析』によれば、国内企業の3分の2にあたる66.1%が後継者不在で、その割合は上昇傾向。社長の年代別に見ると、社長が60歳代の会社で54.3%、70歳代で43.7%、80歳以上でも34.7%が後継者不在となっている。事態は深刻なのである。
中小零細ほどこの傾向は顕著で、売上高10億円~100億円未満の会社で57.5%が、売上高1億円~10億円未満の会社で68.5%が、売上高1億円未満の会社で78.2%が後継者不在ということなのである。