去る9月19日に放送された、NHK「クローズアップ現代+(プラス)」が話題を呼んでいる。テーマは「50代でも遅くない!中年転職最前線」。41歳以上の転職者数がこの5年で2倍近くに急増しているという人材紹介会社の調査結果を受け、変わりゆく企業の実態に迫ったものだ。取材にあたった同番組の田邉裕也ディレクターによる、転職の現場からの報告をお届けする。
崩れ去る「35歳の壁」
長く人材の流動化を阻んできた「35歳の壁」。35歳を超えると一気に企業からの求人が減り、40歳を超えると転職はほとんど無理、というのが転職市場の常識だったが、その常識に変化の兆しが見え始めている。
今年2月に発表された総務省の労働力調査によれば、転職者の数は300万人の大台を突破。とりわけ目立つのは、ミドル世代の増え幅だ。45~54歳の転職者は、この5年で40万人から50万人へと大幅に増えた。
転職・求人情報サイト「リクナビNEXT」の編集長を8年務め、ミドル世代の転職支援を長年行ってきた黒田真行氏によれば、ミドル世代を含む転職者が急増している背景には、企業の間で広がる人材不足があるという。
一つは、人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)の導入が進むなど、産業構造が変化したことにより、ITを中心とした異業種の人材を取り込もうという動きが広がっていること。もう一つは、昨今の景気回復を受けて、専門職のみならず、営業や管理部門でも人手不足感が増していることだ。また、中小企業やベンチャー企業では、ベテラン人材の不足も言われている。
番組取材の過程で感じたのは、こうした動きに付随して、働き手の意識も目まぐるしく変化しているということだ。中高年に長く染みついてきた終身雇用の幻想が取り払われ、「会社にしがみつかない」生き方をみずから選ぶ人が増えている。
「人生二毛作」社会の到来
労働のあり方といえば、「人生100年時代」の生き方を説いた本『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』が話題だ。超長寿社会においては人生が「マルチステージ化」(=「教育→仕事→引退」という固定化された人生設計ではなく、「教育→仕事→教育」といった変化が起きること)し、過去のロールモデルは役に立たなくなるという。
終身雇用が一般的になり始めた1960年ごろ、男性の平均寿命は65歳前後だったが、現在は80歳以上。定年した後も平均して20年以上残りの人生があるわけだ。こうした状況を受け、再雇用や定年延長に踏み切る企業も増えているが、大企業を中心に起きているのが「中高年層のだぶつき」だ。
リクルートワークス研究所の調査では、企業に雇用されているものの、能力に見合った業務を与えられず、その能力を持て余している人々は400万以上にも上ると推計されている。そして、膨れ上がった人件費を抑えるために、企業はミドル世代の賃金にメスを入れざるをえない状況に陥っている。
実際、大企業・中堅企業に勤める45~54歳のサラリーマンの給料は減っている(前年比、厚生労働省「平成28年 賃金構造基本統計調査」)。終身雇用、年功賃金を夢見て就職したものの、長引く不況により(昇給につながる)ポストは減り、景気が上向いても給料が伸びる気配はない。
人生の折り返し地点に差しかかり、「残りの人生をどう生きるか」「何のために働いているのか」を問い直したミドル世代が、やりがいや活躍の場を得られる中小企業やベンチャーに軸足を移し始めている。いわば「人生二毛作」を志向する人たちが、ここに来て一気に増えているのである。