政官財の愚かな圧力で、大学は想像以上にヤバいことになっている

なんのための大学か【前編】

文系と教員養成系は廃止を指示

「学術研究を深めるのではなく、もっと社会のニーズを見据えた、もっと実践的な職業教育を行う。そうした新たな枠組みを、高等教育に取り込みたいと考えています」

2014年5月の経済協力開発機構(OECD)閣僚理事会における、安倍晋三首相の発言だ。

講演する安倍晋三2014年5月、OECD閣僚理事会で講演する安倍首相 photo by gettyimages

続いて同年10月、文部科学省の有識者会議メンバーの一人が、「グローバル経済圏」に対応する「きわめて高度なプロフェッショナル人材」を養成できるごく一部の大学・学部のみを残し、それ以外は「ローカル経済圏」に対応する“職業訓練校”に改変すべき、と提言した。

多くの大学のカリキュラムから、学術専門領域の教育研究だけでなく、教養教育をも駆逐し、特に文系学部に関しては全廃すべきというのである。

翌15年3月、文科省は地方国立大学の教育関連学部に設置されていた、教員免許取得以外の人文社会科学系コースを全廃する方針を正式決定。さらに同年6月、下村博文文科大臣(当時)が、全国の国立大学の文系と教員養成系の学部・大学院について、「組織の廃止や社会的要請の高い領域への転換」を検討するよう正式に通知した。

経費をポケットマネーで埋め合わせ

マスコミや世論の批判もあって、文科省は同年9月、「人文社会科学系などの特定の学問分野を軽視したり、すぐに役立つ実学のみを重視していたりはしない」というコメントを出した。

しかし、時すでに遅し。大学運営に直結する交付金の削減に怯えた、国立大学の大多数は、すでに文系の縮小方針を決定してしまっていた。

政府・財務省・文科省は、2004年の国立大学法人化以降、大学への通常の交付金を年1%ずつカットし、各大学が作成する応募書類を審査して支給/不支給が決定される、競争的な補助金にふり替える政策を進めてきた。

その結果、国立大学ではこの10年間、教職員の非正規雇用化が劇的に進んだ。また、任期の定めのない専任教員も、補助金を獲得するための書類作成や会議、補助金プロジェクトのマネジメントなどに膨大な時間と労力を費やすよう求められ、教育・研究そのものにあてるべき時間を奪われてきた。

 

その影響は、明らかな数字となって表れてきた。この10年間、先進国のなかで日本だけ、研究論文の総数がはっきりと減少したのである。

いまや国立大学の文系や基礎科学系の学部では、退職した教員の補充ができないばかりか、図書・雑誌購入費や教員研究費、そしてゼミや実習のための最低限の教育経費さえ、削減を余儀なくされている。

学生を校外実習に引率するための出張費や、ゼミで学生に読ませるための論文のコピー代を、指導教員がポケットマネーで補填するといった、信じがたい事態があちこちで起こっているのだ。

関連記事