「エサ代だけで毎月60万円」…看取り医がみた、鳥マニアの親子が暮らしていた「命を縮める部屋」の凄まじい実態と「恐ろしい病気」

茨城県つくば市で訪問診察を続ける『ホームオン・クリニック』院長・平野国美氏は、この地で20年以上、「人生の最期は自宅で迎えたい」という様々な末期患者の終末医療を行ってきた。患者の願いに寄り添ったその姿は、大竹しのぶ主演でドラマ化もされている。

6000人以上の患者とその家族に出会い、2700人以上の最期に立ち会った“看取りの医者”が、令和のリアルをリポートする。

前編記事「入院先で何度もトラブルを起こし、訪問介護もケアマネも3回交代…!「訳あり患者」に女医も逃げ出した「恐ろしい家」の正体」より続きます。

充満したペットの排泄物のにおい

玄関をくぐると、どこの家も特有の香りというか、生活臭が漂うものだ。味噌汁のようなにおい、タンスの中の防虫剤のようなにおい、犬や猫のにおい、ペットのおしっこのにおい、ミルクのにおい、新築のにおい。

この家にも他家ではなかなかない、何かの香りがあった。何だろう。しかし、どこかで嗅いだことのあるにおいだった。花粉症のある私はすぐに鼻づまりが起きていた。

患者さんの病室に入って、においの正体がわかった。年季の入ったペットショップに入った際に嗅ぐ、あのにおいだ。どこか埃っぽい鳥の羽や排泄物のにおいだった。

部屋の中には、鳥専門のペットショップが顔負けするぐらいの鳥がいた。四方の壁には鳥かごが二段に重ねられて、ほとんどのかごの中に鳥がいる。

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その中央に患者さんが寝ている二段ベッドがあり、上段にも鳥かごが並べられていた。下手なペットショップより鳥がいるように思う。

下段で寝ている84歳の男性患者の鼻には、酸素吸入器の管がついている。間質性肺炎による慢性呼吸不全の苦しみを軽減するために設置された酸素濃縮装置からは、毎分3リットルが流されていた。その男性患者はとても嫌そうな表情で私を見た。

「本当は家で静かに暮らしたいのだが、あなたがた(訪問診療、訪問看護)などがやってきてホント迷惑なんだよ。できたら来ないでほしい」

荒ぶる犬たちの威嚇にも挫けず、鼻水、鼻づまりにもへこたれず、全ては依頼してきた患者のためにと部屋に入ったが、お呼びではなかった。少し悲しい。診察を希望しているのはあくまであの不愛想な息子さんということか。患者は鳥と共生できればそれでいいのかも知れない。んっ? 鳥?

そして我に返った――。

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