庵野秀明が語っていたこと
―「これだけ世の中にいろんなものが出ちゃったら、今『ものを作る』っていうのは、映画に限らずあらゆるものがコラージュになる」と鈴木さんは本書でお話されています。この点、詳しくお伺いさせていただけますか。
昔はコンテンツが少なかったじゃない。ウディ・アレンを見てると面白いんだよね。彼は何十本も映画を作っているんだけど、どれもいろんな名作の翻案なんだよね。なんかのインタビューで見たんですけど、彼自身もそれを告白しているんですよね。「あらゆる映画は作られてしまった。僕はものすごく映画が好きだ。でも新しい映画は作れない。だとしたら、リメイクしかない」みたいなことを。
あの人の映画をよく見てると分かりますけど、みんなリメイクなんですよ。だから一人の人間なのに、いろんな幅があるんです。当たり前だよね。次から次へと、いろんな名作を自分なりに解釈して、再構築するわけだから。
新しく作るってのは、どうしたってコピーになるでしょ。庵野秀明がそれに近いことを言ってたよね。彼も「自分はそういう時代の子である」と告白してましたよ。
―そういう意味では、宮﨑さんは「映画を観ないから映画を作れる」といった話も本書で出てきますね。
そうなんですよ。いろんな映画を観たら作れないよね。彼はねえ、映画は若い時に見たものだけなんですよ。いろんな映画を観てマニアだったら困るよね。その人が映画作れるかと言ったら作れなくなるよね。だって、そのままになっちゃうもん。それが良い映画だと思ったら。宮さんはほとんど映画を観ないですね。
だから、映画を観てるのは押井さんでしょ。押井さんは観ていることを武器にした。自分の映画の中を引用だらけにしたんだよ。
―今の文脈で言ったら、押井さんの映画は「コピー」ということになりますか。
まあねえ。みんなが最初もてはやした『うる星やつら2ビューティフル・ドリーマー』っていうのは、僕はなんにも知らなかったけど、スタッフが「今度押井さんがこういう映画を作るみたいですよ」というので、ちょっとだけさわりを聞いたの。「ということは、こういうストーリーにならない?」って言ったら、「なんでわかるんですか」って言われた。それは(引用の)元を知っているからなんですよね。表を変えれば、分からなくなるじゃん。
じゃあ新しい映画はどうやって作るの?となったら、これは難しい問題なんですよね。高畑(勲)さん、あの人は面白かった。いろんな映画を作る時に、いろんな人が映画でこれだけはやってはいけないっていう本がいっぱいあるんですよ。(高畑さんは)「映画ではこういうことをやってはいけない」というのをわざとやるんですよ。それによって新しい映画を作ろうとする。『おもひでぽろぽろ』なんか、ナレーションだらけなんですよ。モノローグにしろナレーションにしろ、映画では絶対やるなというのは、昔の映画ではみんなそうだった。それをあえてやるんですよ。それが面白かったんですよね。