いつも口数の少ない人ほど、キレたらなにをするかわからない。決められないと笑われていた岸田が、追い込まれた末に決めたのは「みずからの手で自民党を焼き払って、更地に戻す」ことだった。
まずはアンタからだ
異様な光景だった。
口をへの字にした麻生太郎と、仏頂面の茂木敏充のあいだに挟まれて、岸田文雄はこらえきれずに笑みをこぼしている。
宏池会(岸田派)に所属していた中堅代議士は、党の「政治刷新本部」で岸田が見せた表情に、なかば怯えてさえいた。
「怖い。あの人がなにを考えているのか、本気でわからない。先のことを考えているのかどうかも、わからない……」
「正気なのか」「あとは野となれ山となれ、か」
いまだ自民党内では、「派閥の破壊」を決めた岸田への怨嗟が渦まく。
――知ったことか。
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岸田派解散を知った日、麻生は「聞いたぞ。なんだこれは」と、岸田に電話をかけてすごんだ。が、腹を決めた岸田の耳には、間の抜けた「遠吠え」としか響かなかった。
――どうせアンタに根回ししたところで、口をとがらせて文句を言うのがわかりきってる。言う意味がない。
そもそもこれは、麻生を潰すために岸田がしかけた、乾坤一擲の政局なのである。