600億のムダな公共事業を削減したら「殺すぞ」と殺害予告され……泉房穂前明石市長が明かす「市役所という伏魔殿」
4月いっぱいで明石市長を退任した泉房穂氏の新刊『政治はケンカだ!明石市長の12年』発売即3刷が決まるなど大反響を呼んでいる。「暴言王」と言われることもあったが、本人いわく「在任中は奥歯にモノが挟まった上に口をグルグル巻きにされてるくらい」言いたいことが言えなかった。その口がついに完全開放されたのだから、同書はまさに本音・放言のオンパレードだ。前回の「政党編」に続き、今回は「市役所編」をお届けする。地方の「お役所仕事」の実態は、市長就任当初はひどいものだった。(聞き手=『朝日新聞政治部』の著者で政治ジャーナリストの鮫島浩)
連載『政治はケンカだ!』第6回前編
「お上至上主義」「横並び主義」「前例主義」
鮫島 泉さんが市長に就任した当初、明石市役所の職員たちの反応はどうでしたか?
泉 半端じゃなく大変でしたよ。職員で投票用紙に私の名前を書いた人なんて、ほぼいませんでしたから。シーンと静まり返っていて、みんな腫れ物に触るような感じで。
部長クラスが30人ほど集まる最初の懇親会で、乾杯の音頭を取った市役所の幹部が「みんなー、市長が誰であれ、気にせず頑張ろう! かんぱーい!」とか言いだして。私が真横にいるのに、ですよ。もう、ビックリしちゃった。すごいとこ来ちゃったなと。
鮫島 泉さんが黙ってたとは思えませんが(笑)。
泉 さすがに最初は黙って見てました。「そこまでやるか」って。
鮫島 そんな状態で、どんなふうに仕事を始めたのでしょうか。
泉 とにかく最初は、何をやろうとしても「できません」のオンパレードでした。平気でウソつくし。まあ、ウソというか凝り固まった思い込みなんですけどね。
彼らの思い込みは、基本的に3パターンに分類できます。まずは「国の言う通りのことをしなきゃいけない」という思い込み。国が言ってないことは禁止されてると思っている。「お上至上主義」ですね。それから「隣の市ではやっていません」も彼らの常套句。今でこそ明石市が「全国初」となる施策が増えましたが、基本的に役人は他の自治体がやってないことはやったらいけないと思っている。「横並び主義」です。3つ目は「前例主義」。何か変えようとすると、すぐに血相を変えて飛んできて「これまで20年、このやり方でやってきました。変える必要ありません」と言う。そのたびに「時代は変わってるのに、何を20年間同じこと繰り返してんねん」と思いました。
市役所というのは、この3つをほぼ全員が確信的に信じ込んでしまっている組織で、一種の宗教に近い。
鮫島 そこに利権が絡んでいる、というわけでもないんですか?
泉 ええ、そういう話とは別に、彼らの行動原理は宗教だと考えるとわかりやすい。役所の人たちはみな、「お上至上主義」「横並び主義」「前例主義」を教義とする宗教の信者なんです。その教義を守り通すことが、公務員の務めだと純粋に信じていて、ある意味、生真面目なんです。
それで、4年に一度の選挙で、たまに変な奴が市長になることもあるけど、市役所という組織は守り通さないといけないと。今の杉並区とかもそんな状況だと思いますよ。想定してなかった市長がくると、完全なお飾りに祭り上げて、役所組織自体は副市長以下で回そうとする。そういう組織の防衛本能がものすごく働くところなんです。