ガ島通信

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本当に困らなければ人は動かない、NHKスペシャル「社員みんなで会社を買った」を見て

NHKスペシャル「社員みんなで会社を買った〜地方発EBOの挑戦〜」は素晴らしい出来でした。リストラされ閉鎖された工場の従業員が、自ら資金を出し合うEBO(エンプロイー・バイアウト)によって工場を買収、再建に挑むという話。

突然、工場の閉鎖を告げられた福岡大牟田工場の100人。最初は呆然となったが、彼らは自らの手での工場存続に立ち上がる。その手段となったのが、日本では殆ど実例のない、「EBO」 “従業員自身による企業買収”だった。工員たちは自ら資金を出し合いながら、老練の工場長を中心に結束。工場のものづくりに共感した元銀行マンも、司令塔として仲間に加わった。

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番組の宣伝を見るとまるでドラマ「ハゲタカ」の続きのようです。最終回で芝野と鷲津は従業員らと協力しあい、大空電機の創業部門であるレンズ事業部をEBOしました。もしその後があれば… 番組から垣間見えた現実は、ドラマのように凄腕ビジネスマンたちが競い合うものではなく、人々が泥臭く、一歩ずつ前に進んでいくものでした。
この手の番組は従業員たちの奮闘にお涙頂戴というストーリーになりがちですが、カメラは工場の人間模様を浮かび上がらせます。
工場再開時から「世界最高品質」を目指さなければ世界から脱落してしまうという危機感を持つ経営陣と「そこそこの品質」でなぜ出荷しないのかと不満を募らせる従業員。
テレビの前の第三者的な視点だと、EBOしたとはいえ、熟練工も去り、ブランド力もない状況では、これまで以上に品質を高めていかねば、厳しい国際競争を生き残っていけないのでは?と思うのですが、従業員は工場で働けるという以前と同じ状況を取り戻したことに安堵しているように見えました。リストラされ、自分たちで資金まで出したのに…です。
結局、国際展示会を見て危機感を持った従業員が世界のライバル企業に立ち向かおうと自ら立ち上がるというところで番組は終わるわけですが、人が高みを目指して進むということがいかに難しいか思い知らされました。
当事者たちが本当に困った(困るかもしれない)と心の底から思わなければ人は動かないのです。
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それは地方の活性化などにも同じことが言えます。「パラダイス鎖国」をキーワードに日経IT-PLUSで連続コラムを書きましたが「地域活性化しなければ」「地方が困っている」などと言っているうちはまだ余裕があり、そういう地方は本当に困ってはいない、もしくは国が何とかしてくれた昔よもう一度と思っているのです。「パラダイス」だからこそ真の改革は難しい。
番組の舞台となった工場は大牟田で、コラムで紹介したのは徳島県上勝町、先日のモバイルフォーラムでご一緒したのは和歌山県北山村です。都会だから地方だから、大企業だから地方の中小企業だから、というのではなく、危機感こそが改革やイノベーションを駆動するのです。

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