高校無償化からの朝鮮学校排除について(柏崎正憲)

 黒い彗星のバナーには、「民族教育の権利を守るぞ!!」というメッセージが含まれています。彼が昨年12月4日に直接対峙した「主権回復を目指す会」「排害社」「在特会」などは、じっさいに在日外国人の教育を攻撃しています。いっぽう、日本国家・社会・市民全体もまた、「日本人」ではない者の教育を受ける権利を侵害しています。その一例が、いわゆる「高校無償化」政策からの朝鮮学校排除です。1月23日の報告集会では、排除に反対する運動に参加している柏崎正憲(かしわざき・まさのり)より、この問題についての発言がありました。
 以下、柏崎発言に、当人がじゃっかんの修正をくわえたものを掲載します。柏崎個人の意見であること。また、1月23日時点の発言であることにご留意ください。

柏崎と申します。
この救援会にも初動には関わらせてもらいました(彼が釈放されたあとは、いろいろ他の仕事もあって、特になにもしていなかったんですが)。


今日発言を求められたのは、僕がたとえば救援にちょっと関わったとか、あるいはヘイトスピーチに反対する会で活動してることとかはとは、やや別の理由です。
朝鮮学校の高校無償化排除に反対する市民運動に僕もコミットしてるから、その点からなにか言ってくれないかと、つねのさんから発言を求められました。
そこで今思ってることを簡単に申し上げたいと思います。


この無償化排除の件は、あまり詳しく言わなくても、みなさんご存知のことだと思います。
他にもたとえば不認可のブラジル人学校とか排除されてる学校はありますが、もともと適用範囲に入ってたのにも関わらず、名指しで排除されたのは朝鮮学校だけで、これはあきらかな差別。
2010年2月に民主党の中井洽(なかいひろし・当時は拉致問題担当相)が、朝鮮学校の排除を言い出したことがきっかけでした。
4月に「高校無償化法」が施行された時点で、朝鮮学校の「適用保留」は決まってしまったのですが、その後さまざまな働きかけがあって、夏ごろから適用に向けたプロセスが進められてきました。
にもかかわらず、たとえば「朝鮮学校は反日教育をしている」といった口実をつかって、プロセスを揺り戻す動きが、何度か起きています。
そのなかで一番最近に行われたのが、2010年11月、朝鮮と韓国の軍事的衝突というものをダシにして、今の菅首相の差し金で、朝鮮学校への適用プロセスが「一時停止」させられているわけですね。


それで、昨年3月から、首都圏でも多少大きめな市民運動の動きができて、朝鮮学校に即時に無償化を適用せよとそれをしないことは差別だということで、何度か集会やデモも行われてきました。「『高校無償化』からの朝鮮学校排除に反対する連絡会」です。
11月の適用プロセス停止のあとにも、2回ほど申し入れをやっています(2011年1月23日現在)。


そこで本題ですが、その申し入れのときにどんな要求を突きつけるかについて、会のなかで多少議論になりました。そのことをちょっとお話しようと思います。


外交の問題を教育と絡めないと言ったじゃないか。その舌の根も乾かぬうちに、そうやって外交問題を教育権に絡めるつもりか。
基本的にはそのような形で、朝鮮学校への適用をストップすることを批判するようなスタイルの申し入れ文案でした。


それにつけくわえて、わたしが言ったのは、あきらかに構造的な問題があるのではないかとういうこと。
アメリカ、日本、韓国と軍事的な協力が半世紀以上あって、今も韓国であるとか、そしてアメリカであるとかの偵察機は、朝鮮民主主義人民共和国の領空をバシバシガンガン侵犯していて、つまり構造的な敵対的な軍事行動を行っている。
日本の自衛隊も、その(昨年11月の)延坪島衝突のあとに、たとえば自衛隊の軍艦を配備して戒厳状態を作って、アメリカと韓国の軍事演習に協調している。またそれ以前からも、日韓での軍事演習とかを最近は強めています。
朝鮮の側は、そういう挑発をやめろと何度も要求していた。


ここ1年だけを見てきても、そういう流れが、構造的な対立があるなかで、11月の衝突も起きた。
それを無視してはいけないというか、そのこともちゃんと言及しつつ、今回の「適用プロセス一時停止」も批判しなきゃいけないのではないかと。日本がまったく無関係な立場から、あの件は朝鮮が悪いとか、あの件は韓国も悪いねとか言うんじゃなくて。
外交判断を教育政策に含めるか含めないかの問題だけではなくて、そもそも11月のあの軍事衝突について、日本の政府は無関係な第三者ではないでしょうと、そういうことを入れようかどうかで議論しました。


最終的にはこうなりました。
どんな理由であれ、朝鮮学校への「無償化」適用を遅らせることは差別だということを強調して、そのことについて詫びを入れろと、早く適用しろという点。
あとは、外交問題についてこちらから言及することは、向こうの、政府側の考え方に加担することになるので、延坪島衝突の件の政治的な判断や評価については、この会では一切しないということになり、結局わたしの提案は流れました。
外交的なこと一切を無償化排除の件と結びつけるべきではないというこの判断が正しいのかどうかというのは、ちょっとわたし自身、結論を出せてません。


なにが言いたいのか。
もちろん差別という問題に反対するのは重要であって、朝鮮学校に無償化が適用されるかどうかは、それ自体が大きなかけがえのない問題です。
しかし他方で、構造的に朝鮮に対する敵対政策という問題もある——日本が独自でやってる側面もあれば、冷戦時代から韓国、アメリカと組んでやってる要素もあり、また植民地時代からの日本の構造的差別も絡み合っています。
そういう大きな政治問題についても、おかしいと言っていくことが大事ではないか。


それは、別に無償化からの朝鮮学校の排除という問題を無視するとか、副次的な問題とするという意味ではありません。
あきらかに差別する側が、構造的な政治対立(朝鮮民主主義人民共和国)と社会的な差別(在日朝鮮人に対する)というものを連動させているのだから、両方とはっきり戦っていかなければいけないのではないか、ということです。
反差別と反帝国主義、両方きちんとやっていきましょう。


参考リンク
http://www1.korea-np.co.jp/sinboj/j-2011/03/1103j0226-00003.htm
2.26朝鮮学校への「無償化」即時適用を求める大集会
2011-02-23