終わらない歌を口ずさむように

生まれも育ちも昭和の人間なので、今日はお墓参りに行きました。悪そうなヤツは、だいたい赤の他人です。母方のほうのお墓は神戸にあり、父方のお墓はこりん星にあります。車だと2時間半もあれば、両方回れます。まず高速道路を利用して神戸までひとっ飛びし、それからこりん星へとんぼ帰りするというプランでしたが、神戸でお線香を箱ごとがっつり忘れてきたようでした。こりん星に着くなり、4人であっ!てなりました。父と母は責任をなすり合いました。「なんだよもお、ボケてきてんじゃないの?」「その言葉、そっくりそのままお返ししますわ。このインポ野郎!」「口を慎め、マグロ女!」などと罵り合い、収拾がつかなくなりました。頭の悪そうなヤツは、だいたい身内です。なぜお墓には収納スペースがありませんか?引き出しのひとつもついていれば、ポテトチップスを備蓄しておけるのに。リッツやワインを収納しておくだけで、ちょっとした立食パーティも楽しめるし、ベレッタやトカレフ、もしくは戦車などを収納しておけば、墓荒らし対策も万全です。お線香を収納できたら、今だって…。という僕のつぶやきを耳にした母は突然、左手に持った柄杓を僕の後頭部めがけて振り下ろしました。ボコン、ベキッ、バタッ。柄杓の柄は真っ二つに折れて、僕はゆっくり倒れました。「お墓にそんなことをしたら、バチが当たるに決まってるわ。このブタ息子!」と母はぷりぷり怒り、しばちゃんはころころと笑いました。父は目をつぶったまま、がむしゃらに手ぬぐいのようなもので墓石を拭きはじめました。墓地なだけに、ぼちぼちでした。こりん星を後にして、いったん自宅に寄りました。母としばちゃんを降ろしてから、父とパチンコ屋へ行きました。初老らしからぬ軽やかなステップで必殺仕事人のシマへ向かう父を見送り、僕はパチスロコーナーへ向かいました。そして立ち尽くしました。「ARIA」は見ました。「スケッチブック」も見ました。「新人ギリモザ」などは昨日も見てしまいました。「関西弁で誘惑する、ドエロな新人デビュー!」とパッケージに書かれてありましたが、まさしくその通りでした。「図書館戦争」と「狼と香辛料」は見てません。「バッカーノ」もまだですし、いろいろ見てません。「かんなぎ」と「夜桜四重奏」は見るかもですが、最近は原作モノのアニメをとんと見なくなりました。「アニメ化!」と単行本のオビに大きく書かれているのを本屋で目にしても、アニメか…とつぶやいて、おもしろいダジャレを言うたった顔をするのが関の山です。わくわくする気持ちも、お線香のようにどこぞに置き忘れてきたのかもしれません。GONZOてチミ…どうせまた…みたいな気持ちになる夜もありました。見るのかい(ヒクッ)。見ないのかい(ヒクッ)。どっちなんだい(ヒクッ、ヒクヒクヒクッ)。アニメ化の発表があるたびにアナルーレットに頼る日々でした。悲観的な思考に明け暮れ、埋もれ、後世に語り継いだ挙句、見るのが怖くなり、原作に思い入れがあればあるほど見れなくなっているという、なんともまあ、ひどくさびしいアニメ道を歩んでいます。大人は忙しいのだ。時間が惜しい。しょうもないやつを見ているヒマはないのだ。そんなものはすべからく言い訳です。オモロニメーションと出会う確率における分母を、自ら下げているにすぎません。呼ばれもしていない合コンに飛び入り参加してまで桃色確率における分母の限界に挑み続けたこの僕が、なんたるざまか。目に見える形で生命を吹き込まれた自分の大好きなキャラクターが動いて、声を発する。そのことにいちいち感動していたあの頃の僕は何処へ…。


と現実から目を逸らし続けたところで、目の前にあるパチスロ ザ・ブルーハーツはやっぱりパチスロ ザ・ブルーハーツでした。いつまで経ってもパチスロすかんちになったりはしません。ああ、とうとうこのあたりにまで手をつけられてしまうとは。もう終わりです。とことんまで下手な鉄砲を打ち続け、食い物にし尽くされるのです。パチンコ・パチスロ業界による聖域なきタイアップ。痛みを伴うのはいつだって僕たちであり、そこに愛はありません。「CR華麗なる小林幸子の世界」という名前の長っちょろさには、もううんざりです。うっかり「小林幸子」と略したりなんかすると、ひどい目に遭います。「小林幸子って、結構ええな」「うんうん、僕も小林幸子、好きやわ」「なんか、ドキドキするねん…」と何食わぬ顔で話したが最後、あらぬ誤解を受けます。紅白歌合戦を見ていて、ん?なんでこんなところにデンドロビウムが…と驚いていたら、それは幸子でした。でも、それだけの関係です。幸子フォロワーでもなく、ましてや熟女に対してなみなみならぬ興奮を覚える性癖の持ち主でもありません。どこにでもいそうな、平凡なロリコンです。ブロガーを次から次へと木製のゴルフクラブで殴っては葬り殴っては葬りしながら、ワイは猿や!ブロゴスフィア猿や!とわめき散らかしたくなるほど、僕のはらわたは煮えくり返っていました。猿谷猿丸という名前は微妙です。弟たちの大丸・中丸・小丸という名前はもっと微妙です。でもセルジオ越後のほかに、セルジオ越前とかセルジオ越中はいません。いないんだって!それほどにパチスロ ザ・ブルーハーツの完成度は凄まじく、あんまりにもあんまりというか、ああしようとしても、なかなかああはならないというか、イカ天世代あたりのみなさんの怒髪が天を突く勢いでした。でも天を突けたら御の字でした。怒髪の量はかなり少なめのようでした。ロックよ、静かに流れよ。ややあって、僕の所持金も静かに尽きました。二度と打つまいと思いました。3万円なくなったところで痛くもかゆくもありませんでしたが、しばちゃんへの説明責任を果たすという、大きな問題は残っていました。ロト6で3憶2千万円当たらない男だろうが、僕とてポイズンのはしくれです。ビーチの主役にはなりえませんが、ビーチクはたいていピンピンです。先っちょから虹色の玉を出す役ならおまかせください。CGもモザイクも要りません。カンガルーの母親のごとく、ほどよく余った皮の中に忍ばせておき、あたかも先っちょから出てきたかのように演じてみせます。そんな僕でさえ、彼女を納得させ、穏便にすませるような説明を生み出すのは困難でした。怒られるのは嫌。でも嘘をつくのはもっと嫌。嘘をつくのは日記の中だけにしておきたい。でないと、泥棒のはじまりです。舌を抜かれます。でもヌキはナシです。きゃー。なにせ相手は人間の皮をかぶった鬼嫁です。むしろ嫁鬼です。嫁のような鬼です。鬼の皮をめくれどもめくれども鬼、マトリョーシカ型の嫁鬼です。いずれにせよ、チンコに皮をかぶっている程度の僕では歯が立ちません。むしろ歯を立てられるのがオチでした。痛くされるのはわりと好きなので、ちぎれない程度であればウェルカムではありますが。「ごはんにします?お風呂にします?それとも…うふふ」と帰宅するやいなや両頬を朱色に染めて、このように問いかけるのが一般的な幼な妻と聞いていますが、彼女はさにあらず。パチスロで3万円負けたなんてことがバレたらきっと、「ごはん抜きにします?お風呂抜きにします?それとも…離婚?」みたいなことになり、紙きれを突きつけられます。籍まで抜かれたところでヌキはナシです。きゃー。ごめんなさい。今月もプロのお店に行ってしまいました。告白は、続きます。

不戦勝

不戦勝

  • 作者: せきしろ
  • 出版社/メーカー: マガジンハウス
  • 発売日: 2008/08/21
  • メディア: 単行本