積読書店員のつくりかた

とある書店員が気ままに書く、本と本屋さんとそれをつなぐ人々についてのつぶやき。書店と読書とイベントな日々、ときどき趣味。

書店員が本を並べるということ。本を売るということ。


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ちょっとした前置き

町の本屋さんの灯がまたひとつ消えようとしている。数々のフェアを打ち出して、読者に対して熱心に訴えかけていた本屋さんがなくなることは驚き共に、実に残念でなりません。

くすみ書房さんが気になる方は空犬さんの記事をどうぞ
→『空犬通信 くすみ書房はやっぱりすごかった!』

 

本を出すということ。本を売るということ。

そんな中、昨日から私のTLも賑わせている某書籍のニュースを見ながら、ネットの反応を見ながら、諸先輩方の反応を見ながら……一書店員として悩んでいます。

固有名詞は出しません*1

がしかし、ネット書店最大手でも、さっそく1位を獲得しております。ネットで話題になる見込みがあれば強気に刷ればいいものでしょうか。これまでにも加害者側の手記というものは何度も出版されていました。昔の出版物は書店員でなかった時のものも多く、正確な部数は把握しておりませんが、それを抜きにしても今回の部数は異例と言っても良いのではないでしょうか。

今回の案件は、入荷数をチェックして、「えっ…?」っとなり、刷り部数を聞いて「えっ…………?」っとなりました。10万部です。ちなみに村上春樹氏新刊でも初版20万部とかですからねっ。一般的な文芸作品、ノンフィク作品などの部数を知ればこれがどれほど稼ぐ気満々なのかお分かりいただけることと思います。
「個人の嗜好は抜きにして、読者が欲するものを売るべし」との先輩方のお声も頂戴しそうですが、(仮に棚ジャンル担当であったとしても)今回の出版タイトルを並べます。しかし目立たせることはしないと思います。

書店出版業界への問いかけ

「本が売れれば、なにを出版しても良いのか?」
「書店は、並べる本を『選別』するべきか?」

↑この論題に集約されるのではないか、個人的にはそう思うのです。商業優先であるとしても、倫理上いかがなものかというタイトルは出版業界でも尽きることはありません。つい最近もありました、事件を起こした教団の肉親の手記であるとか、昨年来話題になっているヘイト本関連、IS関連のタイトル。好ましくない本を撤去するチェーンはございます。えぇ、実体験から申しますと。

そして、例えばIS関連や黒子事件では、他店を含めて大手書店チェーンの中でも対応が別れました。「お客様の安全を考慮して」撤去する店舗、「店頭出しせずに客注・お取り寄せ対応のみ」の店舗も複数確認しました。

『加治隆介の儀』に「私は政治家であって、道徳家ではない*2」というセリフがあったと思うのですが、彼の発言を借りれば「(書店員は)商売人であって道徳家ではない」というセリフになるのでしょう。

「売れる本があるからこそ、売りたい本を売ることができる」

これは尊敬する書店員の先輩による発言です。「個人の思想で、その作品を『売る』、『売らない』という判断をするべきではないのではないか」という問題提起は至極ごもっともだと痛感します。知っていていただきたいのは、

「本屋が本を並べている」イコール「その言論に賛成している、もしくは反対している」

訳ではないことです。あくまで判断材料を提供する場であると考えております。多様な意見がある中で、さまざまな視点から考えた本を併売しつつ、読者が考える素材を揃えることでしょう。

まぁ本当に「問題提起」をするのであれば、新聞への手記投稿なり、ネットで公開するという形もある中で「出版」という形を、そして10万部も刷る必要があったのかとは思います。

「批判はあるだろうが、事実を伝え、問題提起する意味はある」

http://www.47news.jp/CN/201506/CN2015061001001863.html

下記リンク先にて、font-daさんがお書きになっていることは分かります。事件を知ること。当事者の声を目にすること。それが大事なことであることは理解しております。

かれらを少年院や刑務所に追い払ったり、死刑にして殺したりしても、社会から「犯罪」という問題はなくならないし、改善もされないだろう。「被害者のために」「新たな被害者を生まないために」できることとは、まずは「今まで起きた事件を知ること」が必要なことは言うまでもない。

http://d.hatena.ne.jp/font-da/20150610/1433910920

 

結論

本屋は本を並べることで、本を売っている。
「文化」と呼ぶ人もいれば、「商売」という人もいる。
我々は本を売ることで、その言論を擁護する、非難する目的で販売しているのではない(少なくとも書店員の一人としてそう願っている)。
その一方、応援したい作品もある。読者の人生を変える作品もある。
我々は本を売ることしかできない。それは最大限の、そして唯一の武器である。諸刃の刃にもなりえることを自覚して。

私たちは店頭で援護するのか。極論を言えば、届いてすぐ返品することも可能ではある。少しだけ試されているような気持ちになる。難しく考え過ぎだと思われるかもしれないが、僕にとってはそれなりに覚悟がいる。

普段はどうしても忘れがちになるけど、書物を陳列することはとても思想的な行為だ。そういう認識いても間違ってはいないだろうと思う。少なくとも明日は、そういう“意味”が含まれることをお客さんも理解して見るだろう。

酒鬼薔薇聖斗の手記『絶歌』が発売されることについて書店員として思うこと - 無印都市の子どもBlog @shiomiLP

 

【余談】結局伝えるべき相手はどこにいるのか

最後に 

もし判断材料としてお読みになる方がいらっしゃるならば、ぜひとも合わせて読んで欲しい作品*3

淳 (新潮文庫)

淳 (新潮文庫)

 

*1:と思ったが結局各所にリンク張ってる…

*2:多少うろ覚え

*3:本をご紹介してお金をいただくのは性に合わないのでアソシエイトはやっておりません。ご安心して?リンク踏んでください(はてなに入るけど)

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