『修道女エミリー 鉄球姫エミリー第二幕』

修道女エミリー―鉄球姫エミリー第二幕 (集英社スーパーダッシュ文庫)

 新人賞デビュー作の続編。前作では真の黒幕に対して一矢もなく現場だけで戦いが完結していたので、あまりすっきりしていない終わり方ではありました。歴史の大きな流れに個人の小さな物語が押し潰されていく非情さ描くならこういう突き放した終わりもありかと思いますけど、そういう中で人がどう生きるかを描くのが八薙さんの作風であるように思えます。そういったわけで、本作のシリーズ化は蛇足とも思わず単純に嬉しかったです。

 凄絶な皆殺し劇を描いた前作と比べれば、本作の展開はたしかに大人しいものでした。新キャラクターを出てきた先から殺していくことも可能だったんでしょうけど、本作は無闇にそういう方向に持って行く必要のないお話です。変に虐殺が目的化するよりは、本作のような抑えた展開の方が好感の持てるものでした。

 だから今回目を見張るような派手さはないんですけれど、それでもちゃんと読めるのは地力のある証拠だとも思います。お話の展開はゆっくりで半分を過ぎるくらいまで事件らしい事件も起きないんですけれど、それで退屈さを感じないのも本作が戦闘描写だけで成り立っているわけでないことを示しています。

 本作は"もう一人の主人公"グレンさんを登場させるための一冊だったと思います。配役を揃えるため、本作が大人しめだったのはそういうところもあるのでしょう。お話が動き出すとしたら次巻からかな、と思うので、その先の展開にも期待したいです。読んでる全体量が少ない分、ライトノベルで素直に好きになれる新人さんが見つけられたのは本当に久しぶり。それがとても嬉しいです。