映画「燃ゆる女の肖像」

 ギリシャ的結末の映画。それは作中でオルフェウスの悲劇が語られる様に明白。そして静かで、美しくて、悲しい映画だ。

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 私はセクシャルマイノリティ当事者ではないので、この映画を見ても退屈なのではないかと思ったらそんなことはなくて、すごく見やすかったです。純愛だからなのかな?

 

 この映画の舞台となる時代が18世紀後半なので、セクシャルマイノリティという存在すら認められないから、二人の恋は成就されない。だからこそというか、ひどいけど恋の炎が文字通り「燃え上がる」。

 

 中絶のシーンが出て来るけど、男の私から見たらキツく感じられました。上手く言語化出来ないけど、すぐ横に赤ん坊を配置する演出は私にはひどく残酷に感じられましたが、女性はあれをどう受け止めたのでしょうか?

 

 もちろん、当時はコンドームもピルもないので、女性が望まない妊娠をしてしまうのは致し方なく、それ故中絶をこっそりとしなければならないんでしょうけど、なんで隣に赤ん坊を配置するという演出をしたのかは説明が欲しいかなと。

 

 それと、映画の終わり方が個人的にはちょっと違うかなと思って、エロイーズの「28の数字が見える肖像画」をマリアンヌが見てニコッとして終わった方が、なんかこちらもほろりと来るのではないかと思った。

 

 どちらにしろ思いがけずいい映画を見た余韻がありました。

ドラマ「FBI: 特別捜査班」

 新しく職場に来た方が好きで見ているとのことなので、ちょっと見てみました。

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 本国での放送が2018年で、内容としてはかなり「政治」が入っている。これが地方の刑事物ならまたテイストが違ったのでしょうけど、政治を題材にしているという意味もあるのだけれど、配役にすごく「政治」を感じてしまう。

 

 邪推という訳ではないのだけれど、かなり意図して金髪白人男性が出て来ない感じが私にはする。もちろん、時代の移り変わりとともにドラマの登場人物の配役も変わるのだけれど、ちょっとというか、かなり露骨さを感じずにはいられないかなと。

 

 それと、少女がイスラム過激派に勧誘される話で、原因については結局深掘りはなされずに、事件は解決してしまうので、やっぱりというかドラマに深みが無い。つまらなくはないのだけれど、そこまでこちらもつきあってみようという気にはさせてくれない。

 

 海外ドラマの凄味を感じないんですよね…まあレーティングの関係もあるからなんでしょうけど、もっとこちらを戦慄させて欲しかったなと。

映画「トワイライト・ウォリアーズ」

 なんだろう、すごく見たいとか思ってなくて、なんか見に行くかくらいの気持ちで見たらこれが大当たりでした!

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 香港ノワールアクション映画であり、かつて九龍城という、周辺化された存在の受け皿だった場所を記録する映画でもある。

 

 九龍城内は、特に殺伐とした場所ではなく、世のはぐれ者達が身を寄せ合って生きているようなところ。

 

 そこで移民の主人公が包摂されるも、実は彼にはある因果があって…というのがあらまし。

 

 私、途中まではラスボスがサモハン・キンポー演じる大老闆だと思っていたのですが、まさかそのNo.2の王九だったとは読めませんでした。私がおっさんだからそういう勘違いをしてしまったと。そして世代交代の話でもあって、次の世代が因果を断つ、だからタイトルの意味がそこで出て来る。王九が権力を手に入れて、カラオケをするシーンがあるんだけど、「ソウルの春」でも全斗煥(をモデルにした奴)が同じことしていてデジャヴ感じましたね。

 

 そうなんだけど、香港の現状を見るだに、これは若干ファンタジーな感は否めないかな。それと、主要登場人物が男性のみというのもどうかと。まあ、アクションの出来る女優さんがいなかったのかどうか知りませんが。肉体を駆使したアクションに飢えている方にはとてもオススメ出来る映画で、今年のベスト10に加える方もいらっしゃるでしょうね!

映画「白雪姫」

 実写版がなんか公開前に炎上しているでお馴染みの作品。なので、元となる(?)アニメ版をこの機会に視聴。おそらく昔見たのだろうけど、とっくに内容忘れていますしね。

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 うわー、すごい変な話!そう思ってwikiを見たのけれど、この作品は子供向けにチューニングされていて、元の童話はかなりおぞましい内容なんですね。まあ童話ってそういうものだけれど、ディズニーの嫌なところが出てしまっていると思う。

 

 王妃がディズニー版では継母だけれど、実母という設定もあって、そうなると王妃は毒母な訳だ。継母の場合も、彼女が美しさに固執するのって、あれでしょ、劇中出て来ないけど、王様が白雪姫を見染めたりしたら自分の地位が脅かされるからでしょ?

 

 それと、もうとっくに突っ込まれているのでしょうけど、王子様あれ何?

 

 物語を終わらせる為だけに出現して、死体に口づけ(!)して白雪姫が特に説明も無く蘇る。なんかこれってただの「デウス・エクス・マキナ」だよね彼。

 

 私ディズニーのこういうところが嫌なんですけどね。DEIに気を使う様になったのも、時代の空気を読んだだけだし、トランプが当選して、どうせ手のひら返すのが見えているので、その主体性の無さというか、欺瞞が嫌いなんですよ。

 

 アニメーションは素晴らしいけど、それ以外がやはりいただけない。距離を取りたくなる。

映画「キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド」

 事前に予習が必要で、完全に一見さんお断りの内容だとは思います。MCU作品は「エンドゲーム」以降いっさい見ていなくて、この映画の予習としては「キャプテン・アメリカ&ウィンター・ソルジャー」は必須。

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 あんまり評判が良くないのは知っていて、確かにお話がとっちらかっています。サムこと2代目キャプテンアメリカは、ずっと事態の収拾に動き回っていて、そこに特に現実の批評とかメタな感じはあまりない。サムが黒人で、彼を見る目が厳しかったり、大統領を演じるハリソン・フォードが現実の大統領ドナルド・トランプと歳が似通っていたり、最後の場面で出て来るラスボスが「赤い」くらいしか現実と被る処が無い。

 

 だけど、私はサムが「キャプテン・アメリカ&ウィンター・ソルジャー」で、偉大な先代の後を継ぐまでの話を見ているので彼を応援せざるを得ないといいますか、この作品がもはや2重の意味でのファンタジーになってしまっていて、客席はガラガラでも頑張っている彼を支援する為にも今回は配信待ちをせずに、劇場で金を払って見ました。

 

 いいところはちゃんとあって、序盤のと中盤過ぎ、そして終盤のアクションシーンは見ごたえはあります。特に中盤過ぎの空中戦は2代目キャプテンアメリカが翼を持っているからこそ可能なシーンで、これだけでも見る価値はあるかと。

 

 サムは自分が血清を打っていない、ただの普通の人なのがコンプレックスなのだけれど、逆にその持っていないことこそが彼の持ち味なのだと気づいて話が終わるのも良かったです。

 

 それとこの映画、私の見立てが間違っていなければ、タイトルに反して主人公はロスだと思う。「共感出来る、もしくは共感出来ないタイプの主人公が追い詰められ、殻を破り、反転攻勢をする」という、アメリカ映画の脚本の原則(?)に従えば、ロスが当てはまる。そして、サムはいわゆる「マジカルニグロ」の役目を背負わされている感は否めませんね。

ドラマ「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」

 「キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド」を見る前に、予習しとかないとと思い視聴。

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 優秀な先代の後を継ぎかね、一度はキャプテン・アメリカの象徴でもある盾を手放すも、やはり盾は彼の元に戻って来る。それはつまり2代目キャプテン・アメリカであるところのサムの「使命」な訳だ。

 

 サムと彼がコンビを組む、元「ウィンター・ソルジャー」ことバッキー・バーンズ両者とも「未精算の過去」を抱えているも、話が終わる頃には清算される。

 

 ヴィランの「カーリ・モーゲンソウ」は、この世界で割をくわされている者の代表で、「イザイア・ブラッドリー」は、虐げられてきた黒人の代表。バッキーは「アメリカ白人が過去に犯して来た罪」の代表。

 

 アメリカ政府が担ぎ上げた「暫定2代目キャプテン・アメリカ」こと「ジョン・ウォーカー」だけど、私はてっきり彼が裏返って最終的なラスボスになるかと思いきや、ちゃんと踏みとどまったのは意外だと思いました。

 

 この作品、既に公開から4年が経過しているので、最後にサムが心情を吐露といいますか、「世界のあるべき姿」を、激昂せずに抑制を効かせて話すのは今見ると悲しく感じたり。今世界は「ジャングルのルール」で動いてしまっていて、彼の声は残念だけど空しく響いてしまっている感は否めないかなと。

 

 もちろん私は彼を応援する。彼は、というかキャプテン・アメリカの資質って、「ワンパンマン」の「無免ライダー」だと思っていて、まず第一に精神が気高いからです。

映画「PERFECT DAYS」

 ヴィム・ヴェンダース作品はお初。

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 一人の男の繰り返される日常を淡々と綴る。男(役所広司演じる「平山」)はトイレ掃除を生業とする、いわゆる「ワーキングプア」。彼はあまりテクノロジーに頼らず、音楽はカセットテープで聴き、自然をアナログのカメラで撮影する。

 

 「男が淡々とした日常を送る」点を抜き出すと、ジム・ジャームッシュの「パターソン」を連想する方もいるでしょうね。カセットテープは彼の「生きて来た記憶」、アナログカメラで写真を撮るという行為は「生きて来た記録」、何度も映し出される東京スカイツリーは「神の視点」、陽光や木々のざわめきは「自然からの贈与」なのは分かる。

 

 でもね、この映画はっきり言って非常に不快だ。「なんちゃってワーキングプア描写」がすごく鼻につく。以下、どれだけ作中の貧乏描写がなってないかを列挙する。

 ・今の日本で自動販売機でコーヒーを飲むのが、いかに贅沢な行為であるのかがわかってない。

 ・コンビニのサンドイッチでお昼取ったりしません。コスパ最悪ですよあれは!

 ・コンロがカセットガスじゃない!

 ・銭湯一回いくらすると思ってんの?公開当時でも500円近いよ!

 ・コインランドリーで洗濯も駄目!中古の洗濯機買って節約するよ普通!

 ・酒場で酒を飲まないよ!ていうか飲めないよ!高いんだから!

 ・買い物袋持って無いのこの人?

 ・たとえ1冊100円でも、本は図書館で借りて読むよ!

 特に私がイラッとしたのは、開始5分の自販機のシーン。あれで私はこの映画を嫌いになることを決めましたね。

 

 スタッフを見たら、共同脚本に電通が絡んでいて、これが非常に嫌さを増している。

 

 そして、この映画を仮に日本人が監督したらどうなっていたと思います?

 

 たぶん炎上するでしょう。「貧乏なめてんじゃねーぞ」って。

 

 「金持ちが上から目線で偉そうに作った感」が出ていて非常に不快。スノッブさすら感じる。公開当時そこらへんにツッコミがあったのはすごく健全だと思う。不快だもんこの作品。