衝撃的誘惑スパイラル

2024年出会えて良かった本

読書管理アプリ「ビブリア」によると、2024年は158冊の本を読んだらしい(漫画含む)。

年が明けるまでに微増しそうだけれど、今年読んだ本の中で特に印象的だったものを5冊紹介します。
あくまで私が今年出会った本なので、2024年刊行の本ではないことをご了承ください。

断片的なものの社会学/岸政彦

今年の初めに読んで自分の中に大きな変化をもたらしてくれたのがこの本。1冊だけあげるとしたら本作を選びます。

社会学者である筆者が、フィールドワークの中で出会う「分析できないもの」を拾い集める。インタビュイーの淡々とした語り口や筆者の思考の過程を一緒に辿ることで、自分もそこで一緒に立ち止まっているように錯覚してしまう。

強烈な体験をした人や厳しい環境で生きることを余儀なくされている人も登場するので、ともすれば政治的な主張や議論に結びつけやすい。それにも大きな意味と役割があると思う。でもこの本に感じたのは、そんな事実の連なりを一般化したりラベリングしたりすることなく、人生の他愛ない時間をそのまま教えてくれる懐の深さと温かさ。他人と向かい合って生きていかなければならない社会というものの輪郭。

大きな声で何かを主張しているわけではないのに、読んだあとはっきりと世界の見え方が変わりました。

ヘルシンキ 生活の練習/朴沙羅

こちらも社会学者である朴沙羅さんが、自身のヘルシンキでの生活を綴るエッセイ。

ぐいぐいと読んでしまう関西弁も交えた親しみやすい文章。そこから自ずと社会や国家、戦争、福祉などについて考えさせられてしまう。

私は「社宅があるなら、最初にそう言ってくださいよ……めっちゃ困ってたんですよ……」と言った。すると担当の人は「大変でしたね。でも、困っているなら困っているとおっしゃってください。そうでなければ、私たちはあなたを助けることもできません。」と言った。(文庫版P.34)

ギクリとしたあと、筆者と同様に「そりゃそうだ」と思った。でもこの考え方(はっきりと周りに助けを求めずに一人でなんとかしようとする)は日本人が美徳とする部分でもあるのだと思う。

フィンランドは理想郷でもないし、とんでもなくひどいところでもない。単に違うだけだ。その違いに驚くたびに、私は、自分たちが抱いている思い込みに気がつく。それに気がつくのが、今のところは楽しい。(文庫版P.128)

朴さんの視点のするどさにハッとさせられ、自分たちの日常からシームレスに社会に目を向けることができる。社会学をかじったこともないような自分でも、身近な事象から考えを深められるような道のりを示してくれる。他国での経験から色々な気づきを一緒に経験したような気持ちになれた一冊でした。

密やかな結晶/小川洋子

未読だった名作と目が合った。人々の記憶が少しずつ消滅していく島を描いた小説。

小川洋子さんの文章は「静謐」という言葉がぴったりで、読んでいるのに耳心地が良いような、頭にそのまま流れ込んでくるような不思議な感覚に陥る。

「失う」というのはどういうことなのか。どうして人は適応してしまうのか。作中はずっと不穏な空気と色彩のない風景が広がっているのに、会話の中から時折漏れ出る光が希望を保っている。何かを失い続けるというのは、作り出し続けてきた人間史を遡るような心地がして、消失に胸がしめつけられた。

これからの人生の中で、また何度も読み返すんだろうな。

鉄鼠の檻/京極夏彦

今年の春、ついに手を出した百鬼夜行シリーズ。この記事を書いている時点では、「姑獲鳥の夏」「魍魎の匣」「狂骨の夢」「鉄鼠の檻」「絡新婦の理」の5作を読了。この年末年始で「塗仏の宴 宴の支度」「塗仏の宴 宴の始末」を読もうとしているところです。

シリーズを通してすごく楽しめているので、全てまとめて「出会えて良かった本」ではあるのですが、特に印象的だったのがこの「鉄鼠の檻」。百鬼夜行シリーズを勧めてくれた友人と話していたのですが、雪の箱根に殺人事件が映えすぎる…!(どの季節の殺人事件が好き?という物騒な会話をしていました)

雪降る箱根・明慧寺に次々登場する坊主たちという舞台設定が好みすぎて一気に読み切りました。仏教には全く詳しくないのですが、禅宗のことを(さわりだけでも)理解しなくては読み進められない骨太さ。作者の筆が乗りまくっていて読みながらにやついてしまいました。

読了後にミュージカル「鉄鼠の檻」を観劇したことで更なる発見もあり、良いタイミングで読めました。禅宗の成り立ちを解説する劇中歌や、オープニング曲での「箱根山♪連続僧侶♪殺人事~件~♪」というフレーズが頭から離れない。

日本異界図鑑/朝里樹

7月に浅草で開催された「BOOK MARKET」で購入した1冊。

ちょうど前述の百鬼夜行シリーズを読んでいたので、怪異や妖怪にアンテナが立っていたんですよね。その中でも「異界」という切り口が面白く、即決しました。

人は自分たちが住む世界と、その向こう側の世界を分けて生活してきました。 その境目に当たるのが「境界」であり、 境界の向こう側に広がるのが「異界」です。 自分たちの生きる世界の外側は、 どんな存在や出来事があってもおかしくない 「異界」 として認識されたのです。 そして、わたしたちは古代より、その見えない世界をたえず想像し、恐れ敬い、「異界」を創りあげました。(「はじめに」より)

この本では異界を「空間」「モノと暮らし」「行事」 「芸能」 という4つのカテゴリに分けて紹介しています。異界の入り口は私たちのすぐそばにたくさん存在していて、「神社」「辻」「お彼岸」といった確かに~と頷くものだけでなく、「茶道」「職」といった一見異界っぽくない(?)ものまで。

日本古来の儀式や祭祀に興味がある人や、「岸部露伴は動かない」が好きな人なんかに楽しんでもらえそうな一冊。

作者が「あなたが異界へ近づくための入門書として手に取っていただければ」と言って私たちを異界に誘ってくれる姿勢も面白い。索引もあるのでこれ異界かも?!と思ったら逆引きもできます。

BOOK MARKET、いい出会いが多かったので来年も行きたいな。

www.anonima-studio.com

 

以上の5冊が、私が2024年に出会えて良かった本でした。

2025年もたくさんの出会いがありますように。
(あと百鬼夜行シリーズを完走できますように。)

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