AIロボット部(社内サークル)では、子ども向けロボット教室を開催しました。 今年は、懐中電灯の光を利用して進行方向を指示するロボットを制作しました。 偏光板と光抵抗を使った分圧回路を活用し、簡単な電子工作の知識で実現可能な仕組みを採用しました。
こちらは、NTT Communications Advent Calendar 2024の3日目の記事です。
こんにちは、ロボット部 部員の上田です!
本日はロボット部が夏に行った、子ども向けロボット教室の内容を書きます。
※ ロボット部は社内の非公式なサークル活動です。ただいま絶賛部員を募集中です!
なお、以前に書いた記事はこちら
ファミリーデーとロボット教室
NTTドコモグループでは毎年夏にファミリーデーという催しがあり、NTT Comでは社員の家族をオフィスに招いてNTT Comの取り組みの紹介やワークショップを行っています。 このファミリーデーに枠を貰い、我々ロボット部で子ども向けロボット教室を開催しました。
今年のファミリーデーの様子は、NTT ComのX(旧Twitter)アカウントのポストでも紹介されています。
ロボット教室の内容
ロボット部では、昨年(2023年)からロボット制作教室を開催しています。 ファミリーデーの数ヶ月前から、有志メンバーで企画内容の立案や検証、製造などの作業を進めました。
今年は偏光と光抵抗を利用した分圧回路を利用して進行方向を指示するロボット(ラジコン)の工作教室を行いました。
完成品はこちらになります。
手前の懐中電灯と基板上の白いセンサ部分に偏光板を張り付けています。
なお、ロボットの上に乗っているは、gooのキャラクター メグたんをモデリングして3Dプリンタで出力した人形です。
操作方法は、下記の図のように懐中電灯の光をセンサーに当て、懐中電灯を回すことにより進行方向を指示します。
子どもたちが組み立てたロボットを実際に走らせている様子がこちらになります。
工夫したポイントとしては、偏光の性質と抵抗分圧回路、コンパレータ、モータ、ダイオード、トランジスタといった電子工作をする際の基本的な知識のみを使って実現可能な仕組みにしています。
方向指示のしくみ
今回は、懐中電灯と偏向板を使って進行方向を指示する方法に関して解説します。
まずは、偏光板の性質に関する確認です。1
下記画像は偏光板を2枚用意し、一方の偏光板を45度ずつ回転させた際の様子です。
2枚の偏光板のなす角により明るさ(透過率)が変化する様子を確認できます。
上記の画像では、偏光板を2枚重ねていました。では、一方の偏光板を光源側に、もう片方の偏光板をセンサー側に設置したらどうなるでしょうか。 この場合も、光源からセンサーに届く光量は、光源側の偏光板とセンサー側の偏光板のなす角により変化するはずです。
実際に実験した際の様子が、下記の映像になります。光源となる懐中電灯に偏光板を貼り付け、光量により抵抗値が変化するセンサー(一般にCdSセルと呼ばれる光抵抗)にも偏光板を貼り付けています。
懐中電灯(光源側の偏光板)を回転させることによりセンサー側の偏光板の光の透過率が変化し、抵抗値も変化していることを下記映像から確認できます。
これだけで、ロボットに進行方向を指示できそうな気もします。 しかし、普段我々が生活する環境には、懐中電灯以外にも照明や太陽光などが存在します。さらに、これらの光量は同じ部屋でも場所によって変化することもあり、光抵抗の抵抗値を意図せず変化させてしまいます。 このため、光抵抗1個だけでは懐中電灯側の偏光板とセンサー側の偏光板のなす角を検出するのが難しくなってしまいそうです。
それでは、偏光(板)を用いてどのようにロボットに進行方向を指示すれば良いでしょうか?
いくつか方法は考えられそうですが、今回はまず2つの光抵抗と1つの懐中電灯、3枚の偏光板(各光抵抗と懐中電灯にそれぞれ1枚)を使ってみます。
下記画像は、実際の光抵抗と偏光板の画像です。
現存している当時の回路図では、下記のようになっています。
挙動としては、可変抵抗とコンパレータを利用して、2つの光抵抗の抵抗値がほぼ等しい(バランスがとれた状態)場合、左右のモーターを同時に動かします。
バランスが崩れた場合は、崩れた方向に応じて左右どちらか片方のモータのみを動作させます。
このため、ロボットは懐中電灯側の偏光版とセンサーのなす角が一定値以内に収まる方向へ向かって進むようになります。
下記の映像は、実際に走らせた際のものです。
ただ、この回路では懐中電灯(偏光)をあてたときのみ走行させ、懐中電灯を当てていないときは停止させるといった挙動を実現するのは難しそうです2。
そこで光抵抗を2個追加し、4つの光抵抗と1つの懐中電灯、5枚の偏光板(各光抵抗と懐中電灯にそれぞれ1枚)を使ってみます。
具体的には、下記図のように直列に接続した光抵抗を2組用意し、十字に交わるように配置します。
その後、配置した光抵抗の上に偏光板をかぶせます。
下記の図に示す方法で光抵抗に偏光板をかぶせます。
(直列接続した各光抵抗にかぶせる偏光板のなす角が90度となるようにします。)
これにより、偏光が当たっていないときは4つの光抵抗に当たる光量はほぼ等しいため、抵抗値がほぼ等しく(バランスが取れた状態)になるはずです(各光抵抗の距離が近いため、部屋の場所などによって変化する光量の違いは無視できるものと仮定します)。
対して、偏光がセンサーに当たっている場合は少なくともどちらか片方の組の光抵抗の抵抗値のバランスが崩れた状態になります。
そこで、上記画像の青色の組(②と④)の抵抗値のバランスが崩れた場合は直進。緑色の組(①と③)の抵抗値のバランスが崩れた場合は、崩れた方向に従って左右のモーターのどちらか一方のみを回転さる。全ての抵抗値のバランスが取れている場合は、偏光(懐中電灯)が当てられていないと判定し、停止するような回路を作ってみます。
実際の回路図は、下記のようになりました。
なお、最終版の回路には安全装置としてのポリスイッチの追加など、変更が加えられています。
以上が、懐中電灯と偏向板を利用して進行方向を指示する方法の解説になります。
準備に関して
昨年(2023年)のロボットは、有線リモコンを使って機体を操作する仕様でした。 そのため回路がシンプルで、部品点数も少ないというメリットがありました。 しかし、有線リモコンの端子圧着作業が大変(ロボット1台につき8か所の圧着が必要)でした。
そこで、今年はできるだけ圧着作業を減らし、シンプルな構成にしたいということになりました。 最終的に今年のロボットは、懐中電灯で操作するロボットを仕様になりました。
プロトタイプの作成
実際に作成したプロトタイプを走行させた際の様子がこちらになります。
プロトタイプの作成にあたっては、次の点を意識していました。
手軽に入手できる部品で構成する
できるだけシンプルな仕組みにする
ロバスト性の確保
1. 手軽に入手できる部品で構成する
部品は、日本国内(特に秋葉原)で手軽に入手できる部品を利用することを意識していました。 理由は入手容易性にあります。量産時に部品の不足が判明した可能性などを考えると、秋葉原などにある実店舗で直接入手できることが重要です。 実際、昨年は圧着ミスなどにより圧着端子が足りなくなり、秋葉原に急いて買い出しに行ったと記憶しています。
今回は、仮に参加者などから回路を含めて自作したいといったリクエストがあった場合のことも考えて、秋葉原などに実店舗がありオンラインでも注文可能な秋月電子通商さまが扱っている部品を主に利用させていただきました。
2. できるだけシンプルな仕組みにする
マイコンを使わずに、偏光の性質と抵抗分圧回路、コンパレータ、モータ、ダイオード、トランジスタ(MOSFET)といった電子工作をする際の基本的な知識のみを使って実現可能な仕組みにしました。
マイコンを使わなかった理由としては、価格やプログラム作成や書き込みの手間を減らしたかったためです。
ただ、今回は電子回路を主役にしたかったという提案者(筆者)の個人的なわがままの影響もあります。 完全に個人の主観になりますが、昨今のプログラミングブームの影響もあり、マイコンを使ってしまうと電子回路よりもソフトウェアに注目が向かってしまうのではないかと考えました。 そこで、今回はあえてマイコンを使わずに、簡単な電子回路のみを組み合わせてラジコンという一見複雑な仕組みが必要そうなシステムの実現に挑戦してみました。 これにより、電子回路そのものへの興味を持つきっかけになればと思った次第です。
3. ロバスト性の確保
計画当初では、懐中電灯は参加者自身で用意していただく予定でした。そのため、懐中電灯の光のスペクトルが分からず、広範囲の波長の光に反応するセンサーを利用する必要がありました。
また、時間や天気により会場に差し込む太陽光の光量も変化するという問題があり、比較的明るい部屋でもセンサーが飽和することなく、偏光を検出できる必要がありました。
そこで、フォトダイオードやフォトトランジスタ、CdSセルなど複数の光センサーから条件を満たすセンサーを探したところ、CdSセルを利用するのが良いとの結論に至りました。 可能であれば、欧州のRoHS指令等で規制対象となっているカドミウムを含むCdSセルの利用は避けたかったのですが、CdSセル以外のセンサーを使って安定して動作する回路の実現には至りませんでした(こちらは今後の課題です)。
基板作成、調達
ブレッドボードを利用したプロトタイプ作成後のプリント基板作成は、経験のある部員が行いました。 また、一部の部品は3Dプリンタを利用して作成しました。 モデリングツールは部員やパーツによって異なりますが、BlenderやFreeCAD、OpenSCADを利用しているとの認識です。
昨年の反省は活かされたのか?
昨年(2023年)は、大量のハンダ付け、大量のケーブルの圧着、大量の部品の仕上げ加工、のように準備が大変でした。
では、今年はどうだったのかというと、改善したのは、ケーブルの圧着作業が1台当たり8か所から2か所に減ったのみでした。 ハンダ付けの量はむしろ悪化し、基板1当たり30分以上の時間がかかるようになってしまいました。
ただ、部員の増加や分業、昨年の経験を踏まえたスキルの向上、リード部品を効率よく曲げるための治具の作成により、当初の想定よりスムーズに準備が進みました。 おかげで、今年は昨年よりも比較的余裕を持って準備を進めることが出来ました。
当日の様子
ロボット教室は、1日2回、各回15名で2日間にわたって実施しました。
こちらが当日の様子になります。参加者は小学生の方が一番多かったです。
なお、組み立て作業などは、保護者の監督の下で行っていただきました。
実際の走行の様子はこちらになります。
なお当日は、組み立てまで完了し無事に動かせるようになった方がいる一方、ハードウェアの不具合や調整不足などにより、思ったように操作できない車体なども出てきてしまいました。
ハードウェアの不具合の原因としては、はんだ付け不良によるものと思われるものが多くありました。 こちらは、事前に動作確認を行い不具合を見つけ次第修正したのですが、一部は見つけきれ無かったようです(予備基板と交換しました)。
調整不足の原因としては、単純に調整手順が多く難しいという問題があります。
今回制作した機体は下記図の方法で半固定抵抗の調整する必要があります。
しかし、センサーの一部のみに手などの影がかかると正確な調整が出来ずに、上手く調整できないといった問題が多く発生してしまいました。
上記のような問題もあり、盛り上がりや満足度としては昨年(2023年)のロボット相撲大会より落ちてしまったのではないかと感じています。
おわりに(+社外イベントへの出展のおしらせ)
最後まで読んでくださりありがとうございます。 また、本イベントに参加してくださった皆さま、支援してくださった皆さまに感謝申し上げます。 もし来年も機会がありましたら、(内容は未定ですが)今年の反省もふまえてより良いものを提供できればと思います。
最後に、こちらのロボット(ラジコン)は、2024年12月07(土)にdocomo R&D OPEN LAB ODAIBAで開催される 【20th 記念展示会】Mashup Award & #ヒーローズリーグで展示予定です。 直前の案内となってしまいましたが、もしご興味がありましたらお立ちよりください。
但し書き
- 本記事には欧州のRoHS指令等で規制対象となっているカドミウム(有害物質)を含む電子部品(一般にCdSセルと呼ばれる光センサ)が登場します。該当センサを破砕すると有害物質を曝露することになります。また、廃棄する際は自治体の指示に従って廃棄してください。本記事の内容を実践する場合は、左記の内容に留意ください。
- 本記事の内容を参考にされる場合は、自己責任でお願いします。