ジェームズ・ガルブレイスが何年も前に言ったように、「重要なのは金利なのだ、愚か者!」
先週、ドナルド・トランプ次期米大統領は、イーロン・マスクとビベック・ラマスワミを、無駄遣いを根絶し連邦政府機関を見直すために新設された「政府効率化省(DOGE)」のトップに起用すると発表した。トランプは特定の削減額を約束しなかったが、イーロン・マスクは連邦予算から「少なくとも2兆米ドル〔約300兆円〕」を削減すると約束した。するとリベラル系の評論家はすぐさま汗をかき始め、アメリカの弱者に多大な痛みを与えるような極めて厳しい歳出削減を断行しない限り、そんなことは到底不可能だと断言した。
『アメリカン・プロスペクト』誌に寄稿したティム・アイワイエミは、「イーロン・マスクが言っているような歳出削減を行う唯一の方法は、メディケア(高齢者・障害者向け公的医療保険制度)とソーシャル・セキュリティー(社会保障年金)を激減させることだ」と述べた。 マンハッタン研究所のブライアン・リードルも同意見であり、次のとおり警告している。「政府の3分の1を削減するには、米連邦政府(中央政府)の全機能を劇的に廃止しなければならない。 社会保障年金、メディケア、国防、退役軍人年金などのプログラムを大幅に縮小しなければならない。」
『ニューヨーク・タイムズ』紙のコラムニスト、マデリン・ンゴとデビッド・ファーレンソルドによれば、すべては数学に帰結する。 彼らは以下のとおり述べている(以下の太字は筆者(ケルトン)による強調)。
2023年の予算に基づいて計算すると次のとおりとなる。 連邦政府支出の約3分の1は、アメリカの高齢者を支援するプログラムであるメディケア(医療保険)とソーシャル・セキュリティー(年金)に使われている。 トランプ氏はこれらを削減しないと明言している。 そのほか予算の13%は国防費が占めている。 これまでのトランプ氏の実績からすると、国防費も大幅に削減することはなさそうだ。 トランプ氏は1期目に軍事費を大幅に増やし、2期目でも「軍の強化と近代化」を約束した。
このほか10%の連邦政府支出が既発の政府債務への利払いに充てられている。 マスク氏はすでにこの利払費を無駄遣いのエリアとして挙げており、また彼の「アメリカPAC」 [1]訳者注:イーロン・マスクが立ち上げた特別政治活動委員会(スーパーPAC)。関連報道。 もX(旧Twitter)での投稿で同「PAC」が「修正」できる予算として利払い費を挙げており、マスク氏もその投稿を拡散している。しかし、削減を追求するにはリスクの高い分野だ。 政府は最初に借入を行ったとき、すでに利払いを約束した。 もし米国が突然利払いを止めれば、デフォルト(債務不履行)となり、平均的なアメリカ人に課せられる金利負担が上昇し、不況に陥る可能性がある。
残るは予算の約40%だ。 行政府機関。 退役軍人年金。 貧困層や障害者に医療を提供するメディケイド。 この分野だけで2兆ドルを削減するには、アメリカ人が依存しているサービスを大幅に削減する必要がある。 過去には、トランプ氏も議会の共和党議員も、これらのプログラムの一部について(それが巨額に上ろうとも)削減を要求してきた。 しかし、マスク氏が約束したような規模の削減にはまったく意欲を示していない。今年の保守派の最重要ターゲットであった教育省でさえ、全米の学区を支援しており、議会の両派に味方がいる。
以下では、利払い費が「削減を追求するには危険なエリア」であるという議論を取り上げたい。
利払い費は明らかに削減すべき対象
本日(11月22日)未明、イーロン・マスクとビベック・ラマスワミは、『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙の論説で彼らの包括的な目標を示した。 目標は3つから成り、トランプ(次期)大統領が大統領令によって撤廃できる規制を特定すること、数えきれないほどの(しかし相当数の)連邦政府職員を解雇すること、そして連邦政府の支出額を削減することを掲げている。 「政府の委員会や諮問委員会とは異なり、私たちの仕事は報告書を書いたり、(式典で)テープをカットしたりすることだけではない。 私たちの仕事はコストをカットすることだ。」
マスクらはさらにこう続ける。「批評家たちは、メディケアやメディケイドのような給付金制度に狙いを定めなければ、連邦政府の財政赤字を実質的に削減することはできないと主張する。 しかし、これでは、無駄や不正、濫用の全容から目をそらすことになる。…DOGE(政府効率化省)は、即座に節約につながるようなピンポイントの大統領令を特定することで、上記の問題に対処することを目指している…」
不正や濫用を根絶することが良いことだということを頭ごなしに否定する人はいないだろう。私も今回の「Odd Lots」(ブルームバーグのポッドキャスト番組)のエピソードを大いに楽しんだ。このエピソードは、連邦政府がさまざまな公的制度における不正や濫用行為の多くを洗い出し、抑制する上で、新設の政府効率化省がどのように役立つかという内容である。(奇妙なことに、ペンタゴン(米国国防総省)の予算における不正や濫用についての議論はなかったが、本題から逸れるのでやめておこう…)。
しかし、〔「不正」や「濫用」と違って、〕「無駄(waste)」をなくすのはもっと難しい。 例えを借りれば、「無駄」は「見る人の目の中にある」〔基準が人によって異なることの例え〕。 連邦予算が6兆7,500億ドル積み上がった時点で、その予算規模はすでに大きいとされる。そして何千とある給付制度や補助金、その他の支出項目は、DOGE(政府効率化省)の委員会の目には無駄で不必要な支出に見えるかもしれないが、多くの共和党議員を含む連邦議会議員の目には地域社会に有益な支出、あるいは不可欠な支出であるとさえ映るだろう。
では、マスクとその仲間たちはどのような「無駄」を削減しようとしているのだろうか?
先週の時点で、イーロン・マスクが設立したPAC(特別政治活動委員会)は「無駄」と考えられる支出の一部をいち早く公開しており、事前にその内容を見ることができる。群を抜いて大きい支出項目は、連邦政府が米国政府証券(米国債)の保有者に支払う利子である。米国政府証券には、トレジャリービル〔償還機関が1年以内の割引債〕、トレジャリーノート〔1年超10年以内の利付債〕、トレジャリーボンド〔10年超の利付債〕 が含まれる。
2023年に米国政府が無駄遣いした皆さんの税金9000億米ドル〔約140兆円〕の内訳がこちらです。
政府効率化省(@DOGE)がこの無駄を正します。
アメリカには賢明な支出を優先する指導者が必要です。
イーロン・マスクが立ち上げた「アメリカPAC」Xアカウントによる投稿
この「無駄」な支出のリストは、あらゆる政治的立場から非難を浴びた。 最も否定的な反応は、利払い費が削減可能な「無駄」な支出だと見なされたことに起因する。
(冒頭で引用した)『ニューヨーク・タイムズ』紙のコラムニストは、政府が「すでにこれらの利払いを約束」しているため、「突然利払いを停止」すれば大惨事になりかねず、〔利払費の〕「削減を追求するのは危険だ」と苦言を呈した。『ワシントン・ポスト』紙のコラムニスト、ヘザー・ロングも同様に激しい怒りを露わにし、DOGEが公開したリストを「茶番劇」と呼び、連邦政府が毎年数千億(あるいは数兆)ドルもの利払いを回避するのは並大抵のことではないとの見解を示した。
茶番劇にも程があります。最大の支出項目は、政府債務への利払い費6,590億米ドル〔約100兆円〕。(「無駄」とされる支出の75%近くを占める額です。)
米国政府は債務を返済しなければなりません。利払い費を削減するなんてできません。
(政府が債務返済を試みる可能性はあるかもしれませんが、このリストでは返済の話はしていません。)
ヘザー・ロングのXへの投稿
マンハッタン研究所のブライアン・リードルのような保守派も、この削減案を嘲笑した。
DOGEの削減案は素晴らしい考えだ。DOGEは国家債務の利払いを削減する…って、ええっ?
ブライアン・リードルのXへの投稿
しかし、問題はここからだ。
(ブライアン・リードルが『ニューヨーク・タイムズ』紙に提案したように)政府(government)の3分の1を削減することと、2兆ドルの支出(spending )を削減することには違いがある。また、タイミングの問題も存在する。私が見逃しているだけかもしれないが、ドナルド・トランプもイーロン・マスクも共和党議員も、単年度の予算から2兆ドルを削減すると公約しているのを見たことがない。もし連邦政府支出を(ある程度短い期間にわたって)2兆ドル以上削減することが目標なら、かなり簡単に達成できる。政府機関を廃止したり、メディケア(高齢者・障害者向け健康保険)、ソーシャル・セキュリティー(年金)、メディケイド(低所得者向け健康保険)のような必要不可欠なプログラムを削減したりする必要はない。つまり、利払い費こそが節約の対象としてはまさにうってつけの支出項目であるということだ。
また、利払いを減らす(reducing)ことと、期日になったら支払いを止める(stopping)ことにも違いがある。マスクとラマスワミは新しい論説で1974年〔議会予算及び〕執行留保規制法 [2]議会の予算編成に対する規律する立法。大統領と議会の予算編成権をめぐる対立を背景に制定された。 に違反する可能性を挙げているが、利払い費を大幅に削減するためにトランプ大統領が議会に逆らう理由はない。トランプ大統領は、議会がこれらの支出を長期にわたって抑制するための適切な措置を取る必要があるだけだ。
MMTの学者たち(フルワイラー、モズラー/フルワイラー、レイ、ケルトンなど)が以前から指摘しているように、国債発行は政策上の選択であり、米国財務省が発行する証券への金利の支払いも政策上の選択である。そしてイールドカーブが政策上の選択であることは、MMTのコミュニティ以外でも認識されつつある。
ウォーレン・モズラーは、利払いは「すでにお金を持っている人々」を圧倒的に利する所得補助であり、一種の「金持ちのためのベーシック・インカム」であると述べているが、この考えに同意するなら、利払いを「無駄」な支出に分類するのは比較的容易かもしれない。このままいけば、政府は今後10年間で数十兆ドルを金融機関や裕福な投資家に支払うことになる。これは大規模な(かつ逆進性の高い)財政刺激策である。モズラーは、この利払いによる財政刺激が、インフレが「粘着性」を増している理由、あるいはインフレが再加速する可能性すらある理由を説明する一助になると考えている。
連邦準備制度理事会(FRB)が単独で、あるいは政治的圧力に応えて急激な利下げに踏み切れば、財政による大盤振る舞いの一部は消えてしまうだろう。そして、巨額の節約を達成するのにそれほど時間はかからない。
トランプが1期目の大統領だったときに何が起こったかを見てみよう。
トランプ大統領(1期目当時)がFRBに対し金利を下げるよう圧力をかければ成果を得ることができます。CBO(米国議会予算局)が算出した10年間における正味の利払い費の推定値は1月以来7兆ドル(約1,070兆円)から5.8兆ドル(約890兆円)に減少した。議会が正味の利払い費をゼロに削減すれば、1回の支出削減でメディケア・フォー・アメリカ(4.5兆ドル)、ユニバーサル・デイケア〔高齢者、幼児、病人などを預かって、日中に世話または介護をする公共サービス〕(0.7兆ドル)、有給家族休暇(0.3兆ドル)を賄うことができるでしょう。
カルロス・ムカ(1兆ドル硬貨の鋳造案を提唱している米国アトランタの弁護士)のXへのポスト
では、大統領がFRBに圧力をかける代わりに、米国第119連邦議会 [3]米国の議会では、それぞれの議会期には、1789年に開会した第1議会からの通算で番号が付けられている。1つの議会期は2年間。 が連邦予算のこの部分(利払い費)について一層強固な支配力を行使することを決めたらどうなるか、想像してみよう。そのためには、議会は連邦準備制度理事会(FRB)に対し、オーバーナイト(翌日物)金利を恒久的に0%にまで引き下げるよう指示し、一層広範な経済に影響を与える他の手段に頼ることができる。利払い費が長期的にゼロになるようにするため、議会は米国財務省に対し、満期3ヶ月のトレジャリービル(短期国債)を超える期間の国債発行を停止するよう指示すればよい。すると、ヴォワラ!(仏語:じゃじゃーん!)こうすれば単発で2兆ドルを節約できるだけでなく、長期的にも数十兆ドルもの節約が達成できるだろう。
CBO(米国議会予算局)が算出10 年間の正味での利払い費推定額は現在 12 兆ドルです。いつの日か、議会は金利を0%に固定し、FRBに他の金融政策ツールの使用を命じることができることに気づくでしょう。それは支出削減となり、12 兆ドルを他のニーズに使えるようになるでしょう。いつの日か、ね。 @EconCharlie @IrvingSwisher
カルロス・ムカのXへのポスト
終わりに
確かに、これは多くの議員、学者、評論家、ジャーナリストだけでなく、中央銀行家からも憤慨と大騒ぎを買うだろう。しかし、我々が今いる場所を考えてみよう。ドナルド・トランプは、世界一の富豪(イーロン・マスク)に、押し付けがましく、面倒で、無関係と思われるものは何でも切り刻んで燃やす努力をさせている。彼は少なくとも2兆ドルをどこからか切り出そうとしている。 その削減は連邦政府機関を弱体化させる可能性があり、マスクは300もの連邦政府機関や、SNAP(補助的栄養支援)、メディケイド、ヘッドスタート(就学支援)、WIC(食料補助)、LIHEAP(光熱費補助)、SSI(日本の生活保護に近い制度)など、何千万人ものアメリカ人が生活のために頼っているプログラムの廃止を検討していることを示唆している。あるいは、ドナルド・トランプに選挙勝利をもたらした有権者層、つまり年収10万ドル以下の有権者への害を最小限に抑える方向に共和党を誘導することもできる。
リベラル派はほとんど敗北を受け入れてしまっているように見える。これは単なる「計算」の問題であって、弱い立場のアメリカ人に大きな痛みを与えずに2兆ドルを削減する簡単な方法はないのだ、と。しかし、方法はあるのだ。 重要なのは金利なのだ、愚か者!
[Stephanie Kelton, “How to Cut $2 Trillion in Federal Spending Without Breaking a Sweat”, The Lens, Nov 22, 2024]