doubutugawa’s blog

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話数単位で選ぶ、2024年TVアニメ10選

aninadoさんの「話数単位で選ぶ、2024年TVアニメ10選」に参加させていただきました。よろしくお願いします。

引用ですがルールは

・2024年1月1日〜12月31日に放送されたTVアニメ(再放送を除く)から選定。
・1作品から選べるのは1話のみ。
・順位はつけない。

となっています。

番号は思いついた順番です。

海外アニメのほうの紹介が若干長いのは、知名度の低さに応じてあらすじを長めに書いたからです。

1.トワイライト・オブ・ザ・ゴッズ 〜神々の黄昏〜(原題Twilight of the Gods)
 EP6:罪を着せられた神

 「バットマンvsスーパーマン」や「300」など実写映画で有名なザック・スナイダーがアニメシリーズに初挑戦した作品。北欧神話をベースとしたアニメで、エログロバイオレンスで野蛮な神々に面食らう。雷神トールに一族を皆殺しにされた主人公が、夫と共に復讐を誓い、仲間を集めて神殺しを実行せんとす。神話的なストーリーに派手なバトルと見ごたえがあるがS1で話が終わっていないので全体的な評価が難しい。しかし5話はかなり好きな回だった。
 主人公の夫であるレイフとロキはオーディンによってヘーニルの頭蓋骨に閉じ込められることになる。頭蓋骨の中では自身のトラウマと向き合うことになり、ロキはレイフが父を殺したのは自分が陰でそそのかしたからだという。二人は無事脱出するが、そこでレイフはさっきロキが言ったことが嘘であるのではと詰め寄る。
 スケープゴートの神としてのロキの立ち位置と、狂った半神の頭蓋骨に閉じ込められるといういかにも神話的な話と合わさって大変面白い回。
 

2.X-MEN '97
 EP10:寛容は絶滅 第3部

 1992年に放送された人気アメコミのアニメシリーズが三十数年ぶりに帰ってきた。と言っても私は前作は未視聴。実写映画でキャラクターを知っている程度だった。それでも派手なバトル、高解像度の差別、社会問題を扱った展開とかなり面白いアニメシリーズで、むさぼるように見ることとなった。X-men作品を全部見ているわけではないので断言はできないが、映像化されたX-menの最高傑作というのは過言ではなさそう。
 最終話である10話は40分と少し他の話より長め。そのせいあってか駆け足だと思うことが全くなく、リッチな最終決戦が楽しめる。プロフェッサーXとマグニートの何度目かの和解は「また対立するんだろ!」と思いつつもしっかりと感動できる。

 

3.ネガポジアングラー
 EP9:鍋パ

 借金を抱えて余命宣告をされた主人公が、やけっぱちになってるところを、釣りサークルに出会って心を開いていく話。釣りがテーマと会って全体的にゆったりとした話が多いが、この回は台風で釣りに行けないとあってさらにゆったりとしていて、それでいてわちゃわちゃしている。主人公の心が回を重ねることでほぐされていき、それをほっとできる状況でわかりやすく見せてくれたので好きな回だった。

 

4.終末トレインどこへ行く
 EP1:ちょっと行ってくる


 少女たちが失踪した友達を探しに電車で旅する話。7Gによって変革した世界、動物に変えられた大人たち、膨張した西武池袋線。なんとも奇想に溢れていて、わくわくした1話だった。日本自体が膨張したということで柞刈湯葉の「重力アルケミック」を連想し、コンピューター自体が脳や外部に影響を及ぼす設定は東山彰良の「ブラック・ライダー」を連想した。このノリだと死にはしないだろ、というある程度の安心はあるが(いうほどあったか?)もしかしたら少女たちが動物になって自然に帰っていくラストもありえたので緊張感がある。

 

5.ジェントリー・チャウvs魔界のモンスター(原題Jentry Chau vs. The Underworld)
 EP8:ひみつの大作戦

 ジェントリー・チャウは韓国の学校に通っていて、両親は中国人である。しかし突如帰宅途中にキョンシーに襲われたことがきっかけで大伯母に連れられてテキサスに移り住むこととなる。ジェントリーには黄皇(イエローエンペラー)の力が封印されており、その力を巡って魔界のモンスターと戦っていく。
 日本アニメとアメコミを合わせたような派手なバトルも楽しいし、中国文化が元のモンスターも多彩だ。ジャンルである『ホラーコメディ』のホラーの部分も演出的に力が入っていて見ごたえがある。
 6話以降の展開はめまぐるしくてどれも名回なのだが、一番好きなのは8話の「ひみつの大作戦」。ジェントリーは大伯母に不信感を持ち始め、キッドを頼る。キッドはジェントリーに化けて、大伯母の秘密を探っていく。
 このキッドがジェントリーに化けるための皮を作るシーンがなんとも印象的だった。巻物のように丸めた皮膚を広げ、中国風の棚から目玉を取り出すのは猟奇的ながら、どこか雰囲気がある。
 またジェントリーに化けたキッドは普段彼女がしない表情をするので蠱惑的で皮モノTSの良さがある。

 

6.メタリックルージュ
 EP6:名前のない客

 2128年、人造人間と人間が混在する世界。主人公ルジュは、バディのナオミと共に火星で政府に敵対する9人の人造人間「インモータルナイン」を殺害する任務に就く。
 2話が昔のOVAのような雰囲気で、全体的にこういう話を期待していたが、脚本家の癖だったのか以後は雰囲気の違う話が続く。しかし6話は別で、この回だけ異様にテンポがいい。それでいてトリックスターとして場をかき回していた敵を早めに一回倒したこどで後のキャラの面白さに効いてくる重要な回であったと思う。

 

7.真夜中ぱんチ
 EP4:次の企画の主役は Who?

 吸血鬼と配信をする話。このアニメ好きな人はこの回みんな好きなのでは、と主語の大きい話は置いておくとして……どこか懐かしいノリのアニメなのでノるのに時間がかかったが、この回で一気に好きになれた。人と吸血鬼という交わらない存在を『配信』というテーマでしっかりとつなぎ、綺麗に歌で締めたのですごい良い。フーの後と比べてのギャップもいい。

 

8.銀河系で2番目にイケてる病院(原題 The Second Best Hospital in the Galaxy. )
 EP3:明日の死は昨日の問題だ

 スペースオペラ病院アニメ。倫理観がおかしい二人の女性医師が場をかき乱す。物語冒頭、一人の人間の治療をしているのかと思えば、実はそれに寄生していた生物を助けている途中だったと明かされる。人間っぽいのは死に、これはもしや別の銀河の倫理観を表現したのだろうかと私は納得しそうになる。しかし話が進んでいくと毒親や仕事あるあるなど結構地球と似たような倫理観で動いていることも多い。単純に一部の人間がおかしいだけだった。
 3話では主役二人は時間のループに巻き込まれ、その原因を作った社長と契約してループをビジネスに使おうとする。
 ループに巻き込まれたらやることと言えば? そう、患者や自分が死ぬタイプの人体実験だ。いかれてんのか。それでいて次の回で、「私仕事を自分一人でやろうとして失敗する癖があって……」みたいな普通のお仕事モノあるあるみたいな回やられても困る。

 

9.ダンジョン飯
 EP23:グリフィンのスープ / ダンプリング 1

 ダンジョンで飯食う話。ダンジョン飯は全話好きでかなり迷ったが、この回はウミガメのスープを下敷きに人情話をして、センシの掘り下げもしていて大変良かった。血なまぐささを感じる回想から、ミステリーの様に真相を看破し、次のコメディへとつながる。とてもダンジョン飯らしくも話の上手さが光る回だった。

 

10.負けヒロインが多すぎる!
 EP:1プロ幼馴染八奈見杏菜の負けっぷり

 EP:1プロ幼馴染八奈見杏菜の負けっぷり
 振られた女子と友達になる話。ここ数年ライトノベル原作のアニメ、特に青春ラブコメ、特にガガガ文庫の作品に力が入っているものは少なかった気がする。私は作画のことはよくわからないが、ファミレスの席に投げられるバッグや、直方体の白米の跳ねなど見ていて飽きない動きで、すごいアニメが始まったと感動した。

ドラマ「インテリア・チャイナタウン」とお約束いじりミステリー

 



 2024年11月よりディズニー+で「インテリア・チャイナタウン」というドラマが配信された。(アメリカだとhulu配信となる)
 原作は「SF的な宇宙で安全にくらすっていうこと(円城塔訳)」を書いたチャールズ・ユウの未訳の小説で、総指揮を「マイティ・ソー:バトルロイヤル」「ジョジョ・ラビット」のタイカ・ワイティティが務めている。
 私はSF小説が好きなので、かなりこのドラマを期待していた。(と言うと語弊があって、正確には『SF的な~』はドラマを見た当時はまだ未読だったがいつか読みたいリストに入っていた本なので、それでも同作者の小説のドラマ化なので期待していたということ)
 そしていざ見てみると、これがかなり面白い。ジャンル的にはメタフィクションにあたるのだが、アメリカの刑事ドラマのお約束が支配する世界になっており、そのお約束
に翻弄される人々を描く話と言える。私はそういう話が大好だ。

 

あらすじとか

 

 ウィリス・ウーはチャイナタウンにあるレストランのウエイター。日々自分は何かやれるはずだと思っていたが、現状でくすぶっている人生を過ごしていた。そんなある日、ウィリスは女性が誘拐されるのを目撃する。彼はレストランを訪れた事件担当の刑事ラナ・リーにそのことを話し、彼女に協力することになる。そしてウィリスの兄、ジョナサンはラナのかつての仲間であり、彼女は失踪した彼を探していた。こうしてウィリスは事件に巻き込まれていくこととなる。

 

メタフィクションとして

 

 このドラマは「ブラック&ホワイト」という作中ドラマの世界であることが視聴者には演出でわかるようになっている。登場人物がそれを認識しているかは途中段階では結構曖昧だ。しかし何かおかしいことは理解しており、登場人物はたびたびドラマの「おやくそく」に阻まれることになり、そして現実の問題とメタ的な構造の問題が重なって描かれる。
 例えばウィリスが「Bigになりたいが出来ないようにできている(意訳)」みたいなことを言うと、『アメリカでの中国系としての生きづらさや、生まれの地位によってステップアップできない』との意味を持っているが、ドラマ世界としてみると『中国系の俳優は主役にはなれない』『背景モブなので、主役にはなれない』と言う意味が重なって表現される。
 これを聞くと私は『撮影に時間かかったからか、もう過去の話になってるのでは?』と一瞬考える。タイカ・ワイティティ監督つながりでMCUから『シャン・チー』を連想し、またアカデミー賞作品賞を受賞した『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』を連想した。
 しかしながらこのドラマではそこまでも皮肉に含まれている。主人公の父親はカンフーの道場の師範をしており、ウィリスもジョナサンもそのれを習っていた。そして兄はカンフーの腕を見込まれて活躍しており、主人公も「カンフーがあれば活躍できる」と日々カンフーの鍛錬をしていた。言い換えればこれは「アメリカで中国系の登場人物はカンフーがなければ活躍できない」という話になっている。上記の二作はその条件に当てはまっているというわけだった。もちろん例外は沢山あり、2020年に日本でも上映されたルル・ワン監督の「フェアウェル」は中国移民の話を描いた映画だが、カンフーで戦ったりはしない。作中でも「時代は変わっていく」と言うセリフも出てくる。(もっともこのセリフも皮肉だったが)

 

お約束のルール化(※2話のネタバレ)

 

 主人公は事件にかかわっていくが、ここで問題が出てくる。ウィリスは「ブラック&ホワイト」のモブキャラにあたる。しかし、モブキャラの行動範囲は決まっているし、主役には透明人間のように認識されなない。いわゆるアジア人透明化問題だが(透明化は見通しをよくする意味だろ!というのは私もそう思うが置いておいて)、それを解決しなければ先には勧めない。ラナに協力するためには警察署に入らなければならないが、不思議な力が働いて入れないし、こういう時だけしっかりと警備員に認識される。どうすればいいかというというのが序盤の課題だ。
 ここからは2話のネタバレになるが、ウィリスは出前の品に目を付ける。海外ドラマの刑事といえば変わった形の箱に入った、謎の出前中華料理を食べているというあるあるネタがある。Twitterでもそのあるあるネタを使った1ページ漫画を見たことがあるので、一部では浸透している話だろう。
 そしてウィリスは自分の働いているレストランから料理をくすねて警察署に出前配達の体で上手く入ることができるのだった。
 いわばこれはお約束がルール化された世界でのルールハックである。
 そこまで見て私はこれはある種のアンチミステリーなのではと考えた。

 

お約束いじりミステリー

 

 アンチミステリーとは「推理小説でありながら推理小説であることを拒む」という一ジャンルを指す。全体を語るにはいくら紙面があっても足らないので省略するが、代表的な作品だと『読者を混乱させて回答を拒む』『推理行為自体を批判し回答を拒む』とうものがり、後者の中にはお約束をいじって笑うユーモアミステリーがある。後者をアンチミステリーに分類するのは意見の分かれるところかもしれないが、私は間違いなくそうだと思っている。
 そしてお約束をいじるミステリーといえば下記のがある。

 

名探偵の掟(東野圭吾著)

 

 人気作家のユーモアミステリーだ。自らを本格ミステリー小説の登場人物だと自覚している登場人物が、密室殺人やアリバイトリックなどユーモラスに本格ミステリーあるあるに突っ込みながら事件を解決していく連作短編小説集である。20年以上前の作品なので大オチ自体は今だと通用しないし、ノリも古い。しかしながら個々のトリックは小粒ながら楽しい。作風の幅が広い著者の模索の面も見られる好きな小説だ。私はこれを中学生のころに読んでミステリーに対する視点をかなりこじらせてしまった。

 

大癋見(おおべしみ)警部の事件簿(深水黎一郎著)



 

 堅実な芸術ミステリーや挑戦的なメタミステリーを書くことで有名な作家のミステリー。いつも勘違いで空気の読めない大癋見警部の活躍を描く短編集。こちらもお約束いじりミステリーだが後期クイーン問題や叙述トリックなど現代ミステリーの寄りディープな面に注目して書かれている。あるあるいじり以外のユーモアも多彩な小説である。10年前の小説だがノリは名探偵の掟と同じくらい古い。

 

No推理、No探偵? (柾木政宗著)

 

 第53回メフィスト賞受賞作。推理が出来なくなった名探偵のアイと助手のユウのコンビでおくるメタミステリ。ノリは上記二つと同じくらい古いが、お約束あるあるに加えて、そのお約束をルール化して特殊状況化しているのが挑戦的なミステリーだ。微妙にピンとこないあるあるも多いが、推理モノで探偵が途中アクションをするときに頭を使って解決しているのを見ると、この小説が思い浮かぶようになった。

 

「エラリー・クイーン数」「法則」(『超動く家にて』収録)(宮内悠介著)



 

 こちらは短編二つ。「エラリー・クイーン数」は新本格界隈に蔓延る「いかにロジカルであるか、いかにエラリー・クイーンの様であるか」を皮肉に書いた小説。「法則」はヴァンタイン二十則が法則として支配している世界を書く。あとがきで著者が表題作も併せてこの3作を「ミステリ研の学生が書いたような小説」と自虐しているのが印象的だった。

 

未読、未視聴のもの

 

 こういう話をするなら「水曜日のダウンタウン」の人気企画「名探偵津田」は外せない気がするし、「涼宮ハルヒの直観」もメタミステリーのようだ。ヨーロッパ企画の舞台「切り裂かないけど攫いはするジャック」も予告を見たところ、お約束いじりの雰囲気があるとみている。海外小説だとハードボイルド好きが主人公の「俺はレッド・ダイアモンド」がある。いつか見たい、読みたい。

 

話を戻して

 

 こうしてみるとお約束いじりミステリー様々な変化を辿っている。ただいじって笑いに変えるのは過去に遡れば皆やってるので、そこからどうするかが肝になっているようだ。「インテリア・チャイナタウン」はお約束をルール化してそのルールをハックするというのが数回出てくるし、ポリティカルな部分に注目されているので「お約束いじりミステリー」としてはかなりアップデートされたドラマと言えるだろう。しかしながらルール化自体は主題ではない。非本格(日本固有の区分)のミステリーとしてみても証拠を偶然見つけたり、メタフィクション故の緩さで解決している部分もあるし、ルールハックも6話がピークであり「これまでのルールを総合して大きな謎を解く」というのもない。
 しかしこのドラマはアイデンティティを語るメタフィクションだとうことがわかる。ウェリスはモブからステップアップして主役となるものの、心の穴は埋まることはない。「兄の消息を得るために友達や両親に嫌われたのに一向に真相が見えることはない」と叫ぶ彼はとても痛切だ。最終話は駆け足過ぎてカタルシスも何もないが、移民や友情、家族の物語として良作のドラマには違いない。