2024年の本

 毎年恒例の新刊本振りかえりである。今年は「満を持して」と思うような著作が続いた一年であったと感じる。意識的に、冊数と分野は絞り込んで紹介することとした。

 

■日本政治・外交

 個人的に最も関心ある日本の政治・外交の分野では、以下の本を取り上げたい。

濵沙孝弘『安保改定と政党政治―岸信介と「独立の完成」』(吉川弘文館)

(+松浦正孝編『「戦後日本」とは何だったのか』ミネルヴァ書房)

潘亮『日本の国連外交―戦前から現代まで』(名古屋大学出版会)

波多野澄雄『サンフランシスコ講和と日本外交』(吉川弘文館)

船橋洋一『宿命の子(上・下) 安倍晋三政権クロニクル』(文藝春秋)

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白洲次郎はサンフランシスコ平和条約受諾演説にどのように関わったか

1.問題の所在

 NHKが11月25日放送した「映像の世紀バタフライエフェクト 吉田茂 占領下のワンマン宰相」を観た。占領期に焦点を当て、内閣総理大臣吉田茂の統治を追ったものである。

 テレビ番組にあまりそうしたことを言うのも詮無いことではあるが、多少この時期の日本史に関心を持つ人間として色々と疑問を抱く描写のある番組であった。細部はさておくとしても、占領期吉田政治最大のキーパーソンとして白洲次郎を描くというストーリーは、あまりにも現実離れしているのではないかと思わざるを得ない。

 もちろん歴史の描き方というのは解釈が伴うため、そうした方法もあり得ないわけではない。ただし現時点で明らかになっている事実に基づいて描写を行う必要があろう。その中でも、一点わかりやすいエピソードについて看過し得ない描写が存在したので、本エントリーではそれを論じてみたい。サンフランシスコ平和条約の受諾演説が日本語で行われた経緯に関する説明である。

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2023年の本

 例年通り新刊本の振りかえりである。毎年、書き出しは色々と言い訳を書き連ねるのがならいであるが、2023年は公私ともに色々落ち着かず、読書への差し支えが顕著にあった。評判となった本で買いはしたが読めなかったという本も少なくない。諸般の状況を勘案し、今回は例年より本を絞り込んで取り上げることとした。

 

■日本政治・外交
境家史郎『戦後日本政治史―占領期から「ネオ55年体制」まで』(中央公論新社[中公新書])
中山俊宏『理念の国がきしむとき―オバマ・トランプ・バイデンとアメリカ』(千倉書房)
竹内桂『三木武夫と戦後政治』(吉田書店)

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2022年の本

 年末に一年を振り返り、どんな新刊本を読み、何がおもしろかったかを投稿するだけとなって久しい本ブログだが、例年通りその投稿をする。
 今年は少し読書の方法や時間の取り方が変わり、関心のある本をきちんと読む時間を比較的確保できた(とはいえ本リストのとおり、読めなかった本も多い)。また昨年取り上げた本が多くなりすぎてしまったという反省もあったことから、今年はこれらの点に留意して紹介を行うこととした。
 基本的に自分の場合、その時々の関心の束に合わせてまとめていくつかの本を読むことが多い。これを反映して便宜的に「日本政治」「基地問題」「外交史・政治史」「国際政治・比較政治」「回想録・伝記研究」という塊として、印象に残った本を紹介することとしたい。

  • ■日本政治
  • ■基地問題
  • ■外交史・政治史
  • ■国際政治・比較政治
  • ■回想録・伝記研究
  • ■復刊
  • ■おわりに

■日本政治

アジア・パシフィック・イニシアティブ編『検証安倍政権―保守とリアリズムの政治』(文藝春秋[文春新書])
濱本真輔『日本の国会議員―政治改革後の限界と可能性』(中央公論新社[中公新書])
蔵前勝久『自民党の魔力』(朝日新聞出版[朝日新書])

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2021年の本

 年末に今年の新刊本の振り返りをするのが個人的な恒例行事となって久しい。今年は多少自分なりに分野という脈絡をつけて扱うこととした。

 

■外交史
 外交史というより防衛・安全保障政策史というカテゴリがふさわしいが、まず取り上げたいのは真田尚剛『「大国」日本の防衛政策―防衛大綱に至る過程 1968~1976年』(吉田書店)と千々和泰明『安全保障と防衛力の戦後史1971~2010―「基盤的防衛力構想」の時代』(千倉書房)の二冊である。1976年に初めて策定された「防衛計画の大綱」の策定過程、そして同大綱の基本的考え方として、その後の度重なる改定の後も維持された「基盤的防衛力構想」の実態をそれぞれ分析したものである。

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