「社内出世」VS「社会出世」21世紀の出世論
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会社の中で猛烈にはたらき、成果を上げて、上司にも認められ、どんどん昇進を重ねる。
高度経済成長時代の日本は、そんな「出世」のイメージのもとで若きビジネスパーソン同士がしのぎを削り、そこに個人や企業、そして社会や国の成長が絡んでいたのではないでしょうか。
では、今の時代にこの「出世」というものを、ビジネスパーソンはどのように捉えているのか? 彼らはどのような思惑を持っているのか? そもそも「出世」をしたいと思っているのかーー。
今回の記事では、こうした点に関する若手・中堅・ベテランのビジネスパーソン約40名での議論と、イベント後に行った取材の内容をベースに「21世紀の出世論」としてとりまとめ、時代の変化を楽しむうえで求められつつある新しい「出世」について深掘りします。
本内容は、ご自分の「出世観」をどのように揺さぶるでしょうか? 今回のアウトラインです。
- INDEX読了時間:5分
それでは、本文です。
若手社会人の「出世しても生存確率が上がらない」という反応
若い人は出世することに興味がない、出世を目指す人が最近少なくなってきたと聞きますが、本当でしょうか?
今回のテーマを踏まえて、8名の大企業に所属する社会人1〜3年目の面々に「出世についてどう思いますか?」と質問をすると、こんな声が多く返ってきました。
1つの会社の中で昇進を目指していったとしても、生存確率が上がらない。
この捉え方についてもう少し詳しく聞くと、以下のようなニュアンスが含まれていました。
◯「出世」とは
- 自分が所属する大企業に一生とどまり、その中での昇進を目指していくこと
- 自社から外に出る、転職するということは、このニュアンスに含まれない
◯「生存確率が上がらない」とは
- 1つの企業で昇進を目指していくと、自分の将来がむしろ危うい
- その企業の先行きが怪しくなったとき、自分もそのまま危うくなってしまう
- 社外の交流・人脈などが希薄になり、直観的にマズい状態になる
そんな若手の「出世観」を別のフレームワークで捉えてみましょう。
1つの組織で昇進を目指すという古いモデルに限界がある
この話は、奇しくもロンドン・ビジネス・スクール教授のリンダ・グラットン氏が、『ライフ・シフト』で指摘する以下のポイントに合致します。
「20年教育を受け、40年を1つの企業ではたらき、余生の15年を年金で過ごす」というモデルは、寿命が長くなり、変化が激しいため、技術や知識を学び直し続けなければならず、多くの人とのつながりの中で新しい機会を模索する時代には成立しない。
この主張を先ほどの「大企業での出世」という観点で詳しく見ていくと、人が人生の充実を捉える観点として以下の3つが『ライフ・シフト』の中で取り上げられています(※本書の中では、これらの要素に加えて「身体的な充実・気力の充実」が挙げられていますが、今回は議論をシンプルにするため省略しています)
【金銭】:十分な金銭があり、生活が保障されること
【人間関係】:人とのつながりが豊かであること
【学習】:新しいことを学び続けること
冒頭に出てきたいわゆる「大企業での一生」において、この3つの指標は以下のように変化します。
図の上半分の大組織での生活では、
- 自社が推進するコア事業に対して時間のすべてを費やし、その実行者となる
- 新しい内容、直接業務に関係ないものは勉強しない
- 社内での人間関係が中心で、仕事に絡まない社外の人との関係が希薄
となります。一方で、下半分の「自分のビジネス・自分の時間」については、大企業で現役中は収入も人脈も、そして新たな学びもあまり起きない構造となります。
問題点は、もしもその企業が破綻したり、あるいは従来の終身雇用を保障せず、さらには合併・解雇などがあると、下段にあるように個人にはほとんど何も残らなくなってしまうことです。
そして、この傾向にはさらに時代が追い打ちをかけます。
まず第一に、技術の変遷、テクノロジーの変化が激しくなっており、20代のころに身につけた知識・技術は数年で陳腐化してしまうため、若いときだけ「学ぶ」という組み合わせでは太刀打ちできなくなってしまう点。
そして第二に、寿命そのものが90〜100歳まで伸びる中で、60歳付近で定年を迎えても、その後の30年以上の生活を支える蓄え(年金や個人の貯蓄)を現実的に貯められない点です。
「大企業で一生を終える」ことへのさらなる逆風
さらに、若手、中堅ビジネスパーソンの話を聞いていくと、以下のような構造がこの「一生大企業にとどまること」への逆風となります。
まず、少子高齢化に伴い、社内の人口ピラミッドが釣鐘型になることの影響。これを、ある経営者は以下のように指摘します。
友人の話を聞いていると、昔は部下がどんどん増えていったので、上司になれば楽ができる、時間とお金のどちらも使えるという点は見過ごせないように思えます。今は社内人口ピラミッドが壺型の大企業が多く、昇進のハードルは下がっているものの、昇進したところで部下が増えないので仕事量が増えてしまい、最も大事な資産である時間がなくなってしまう、給与上昇幅も小さい。そのためメリットが少ないのではないでしょうか(株式会社フライヤー 取締役CFO/COO 苅田明史氏)
この指摘は、大手金融機関に勤める若手もこんな形で語っています。
(今いる組織での)出世に対して興味が持てないのは同感です。これは、出世したとしても職務の内容が大きく変わらないことにある気がします。自分より経験が長い先輩も結局役割は同じなので、出世してもできることが多くならないと感じることが理由です(20代・男性・大手金融機関)
人口ピラミッドがいびつになることで、結果的に自分が見える上司・先輩の仕事内容もさして膨らむことがなく、いわゆる手本、ロールモデルとなる存在が見えにくくなっているのも、この構造の裏側に潜んでいるという指摘が相次ぎました。
大組織で「出世」するタイプも大きく変わってきている
それに対して注目を集めつつあるのが、社内外で新しくテーマを追いかけ、チャレンジを続けるというキャリアの積み方です。『ライフ・シフト』で紹介されるこのモデルは、簡単に模式化すると下図のようになります。
あるタイミングでは大企業に所属するが、一定時間が経過し、大企業で学べることが天井を迎えると、自分で事業に取り組む(本書では、主に自分で事業を立ち上げるという前提)。
そこでゼロベースで仕事を立ち上げていくことで、新たな人とのつながり、新たな学びが発生する。数年取り組んだら、今度はまた大企業にM&Aで吸収されたり、新たに身につけたスキルや能力、人間関係をベースとして転職し、また新たなことを学ぶ。
これをずっと、活力ある年齢まで交互に続けるというのが、『ライフ・シフト』で提唱されている新たな仕事のモデルです。
実際に大きな組織で出世してきた方々に取材をすると、上記に類似したキャリアを歩んできた人が少なくありません。こうした人の特徴としては、
- 自分自身の興味・関心を軸として企業外の新しい流れを感じ、取り組み続けている
- 日々、とてもよく勉強している
- 社内外で新しいつながりを作り続けている
そして、結果的に自社で新規事業の立ち上げに従事することで、類似的に上図のようなキャリアになる。あるいは、数年から十数年に一度、新しい会社に移り、そこで影響力を増しながら新たな学び、人間関係を構築していく。
リンダ・グラットンモデルにあるような、組織を変えて転々とする人生のパターンは、大企業の組織の中でも、「転々と、新しいことに挑戦し、取り組み続ける」という形で実現されつつあるケースがあります。
そして、そういう人たちは総じて、「単一の組織の中ではなく、社会全体に対して影響力が高まる」という意味で「出世」を実現し、それを楽しんでいることが見受けられました。
あらためて考える21世紀の魅力的な「出世」
以上のことを踏まえると、21世紀における魅力的な「出世」とは、以下のような要素を満たすものだとまとめられます。
- 常に外部環境・外部変化に対して学び続けられる
- 継続的に新たな人間関係が構築され続ける
- そのうえで、大きな影響力を社会に対して行使できる
このうち、3点目の要素について、ある大企業の中堅ビジネスパーソンは、以下のような指摘をします。
僕の感覚としては、せっかく大企業に入社したのだから、その価値は最大限活用しなければと考えます。事業規模、予算、豊かな顧客網、技術、相対的に優秀な人材など。それを活用するためには社内出世は必要な手段であり、そこをサボタージュするくらいなら大企業を辞めてしまったほうがいい。ただし、社会出世を同時に考えるようにならなければ、この記事にあるとおり八方塞がりになってしまう可能性がある。なので「社内出世にも社会出世にも興味がある」状態になるか、「社会出世が社内出世にリンクする状態」を自ら作り出す、という考え方が重要だと思います(30代・男性・大手不動産会社事業企画)
大企業の中で、もしも「外部環境・外部変化を継続的に学べる」「社内外に新たな人間関係が構築される」という2つの条件を満たすことができれば、この指摘のように大企業の大いなるリソースを使い、社会への影響力を増すことができることになります。
【収入】【学習量】【人間関係】の3つの指標を可視化してみることから始めよう
以上の話を踏まえて、
- 常に外部環境・外部変化に対して学び続けられる
- 継続的に新たな人間関係が構築され続ける
- そのうえで、大きな影響力を社会に対して行使できる
という条件を満たす「21世紀の出世」をもし目指すなら、どんなアプローチから手をつけられるでしょうか?
それには、「まずは自分自身の現状を可視化してみるべし」というのが、多くの方がオススメする方法です。この点について、ある経営者は以下のような指摘をしています。
組織内にいると、どうしても目の前の仕事を優先させてしまって将来の機会(私は「種まき」と呼んでいます)がおろそかになると思っています。自分が「それまで知らなかった、新しいこと」をどれだけ学んでいるのかを、自分自身でモニタリングしてみるという行為とまさにリンクするのですが、週末に◯冊本を読む、月に2回はビジネス上付き合いがある人と勉強会を兼ねた飲み会を行うなど、「機会のKPI」を自分で定めることが重要ですね。意識的にせよ、無意識的にせよ、種まきを普段からできている人は、人間関係も仕事もお金も充実しているように思います(30代・男性・会社役員)
「出世」という言葉についてあえて考え、自分自身の現在とこれからについて一度上記のような観点でレビューを行ってみると、今日からの仕事の捉え方、これからの行動の仕方に大きな変化が訪れるかもしれません。
[編集・構成]doda X編集部
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