2007-11年、Podcastボイスドラマの諸相と衰退(個人的記憶に基づく)

この記事で、ドラマ『アンダー・ザ・ブルー』について書きました。

dismal-dusk.hatenablog.com

しかし、このような作品のことを2011年当時の私がどうやって知り、どのような形で聴いたのかを説明していませんでした。

それは決して些細な事情ではありません。どんな作品も、受け取ることができて初めて内容を評価されます。発表の場がなければ知られることはありません。作品と出会えた経緯には当たり前でない状況が含まれ、記録すべき特有の事情があります。

したがって、私が『アンダー・ザ・ブルー』のような音声作品を受取るに至るまでの経緯は、2010年前後のインターネットで創作を行ったり、創作物を受け取ったりする人たちの状況を記した一例になると思います。もはやどこを探しても記録がない情報も含まれるので、ここに記します。私自身の記憶に基づくところがあるため、事実誤認がありましたらご指摘ください。速やかに修正します。

 

私は、『アンダー・ザ・ブルー』を、"Podcast"という仕組みを通して視聴しました。ではPodcastとはどのような仕組みでしょうか。

Podcastとは何か

制作した音声や動画ファイルをWeb上のサーバーにアップロードし、RSSという仕組みを使って配信する活動をいいます。"Podcast"は、Appleが販売していた音楽プレイヤー「iPodアイポッド)」と、「放送」を意味する"broadcast"を組み合わせた言葉です。

RSSという仕組みでは、配信者が設定した「フィード」という特定のアドレスをインターネットブラウザや音楽再生ソフトに登録しておくことで、その配信者の投稿の更新情報を受け取ることができます。

Podcastの仕組みは2004年に考案されていましたが、2005年1月からは早くも国内で紹介され始めます。当時は、Podcastの配信方法を解説する書籍なども10数冊が出版されていたといいます。Podcastの国内における広がりを調査した加藤昌弘によれば、2005~2007年にかけて1度目のブームともいえる状況がありました*1。しかし2007年以降はPodcastに関する書籍も出版されなくなり、ゆるやかに退潮していきます。Podcastが国内で再び注目されるのは、その10年以上後になるそうです*2

 

私とPodcastドラマを出会わせたもの

ただ、私は加藤が調査したような書籍や海外の噂を聞いてPodcastを聴き始めたのではありません。そもそもPodcastがブームだったことすら、この記事のために調べて初めて知りました。当時の私は自分のPCも音楽プレイヤーもない状態で、加藤の言うブームが終わる2007-08年あたりでPodcastのことを知り、その世界を垣間見ることになりました。

なぜ? どのようにして? 物理的な要因と文化的な要因があります。

 

物理的要因:Podcast探索・視聴デバイスとしてのPSP

私がPodcastを聴くために最も活用していた機器は、iPodでもPCでもなく、ソニーの携帯ゲーム機 "PlayStation Portable"(PSPです。

当時、Podcastを聞くためには次のいずれかの手段が使われていました。

  1. Podcast配信の行われているサイトをインターネットブラウザで訪れ、HTTPリンクから聴きたい回の音声ファイルをダウンロードもしくはストリーミング再生する。
  2. 音楽再生ソフトなどのアプリにPodcast配信のRSSフィードURLを登録し、聴きたい回をダウンロードもしくはストリーミング再生する。

PSPには「RSSチャンネル」というデフォルトアプリが組み込まれており、これが2.のようなフィード登録に公式に対応していました*3。また、Wi-Fi接続機能とインターネットブラウザも備えており、1.のように音声ファイルをダウンロードして聴くこともできました。そのため、Podcastを聴くにもよい端末でした。

PSP以外で 2.の聴き方をする場合は、iTunesなどの音楽再生ソフトに自動で最新回をダウンロードしてくれる機能があり、それでiPodにファイルを同期して聴いている人が多かったようです。しかし当時の私は自分のPCもなく、音楽プレイヤーを持っていたとしても毎日PCにつなぐわけでもなく、時間があるときにPSPPodcastを探し、その場で間欠的に聴いていく仕方が主でした。

PC(ブラウザ)=探索とiPod=視聴という2段階に分かれずに、基本的にPSP1つで手軽に視聴できたのが、私がPodcastに流れた理由の1つだと思います。

 

隣接文化圏(Web小説・フリーゲーム)から音声作品の検索へ

Podcastを知った頃の私は、インターネット上でオリジナルの小説を公開したり、ゲームを作ったりしている人たちのサイトをよく見ていました。私は、そうした創作を行う人たちの一活動として、ボイスドラマ制作やその配信があると認識していました。

フリーゲームや小説などのお話作りに夢中になっている人たちは当時のインターネット上にもたくさんいて、私もそれに憧れている一人ではありました。そんな当事者の心情から言うと、自分のつくったお話にイラストや声をつけたいという希望が生まれることもよくあるのです。それで活発な創作者だと、絵を描いている人や動画が作れる人、声の演技に自信がある人を集めてきて、イラストをHPに載せよう、ショート漫画を作ろう、キャラクターの会話劇をやろう、という話になる。Podcastドラマは、そうした創作者たちのマルチメディア展開の一つだったわけです。

私が当時ボイスドラマで印象に残っていて、今でも活動されているサークルを一つ挙げると、KAZ氏主催の"DCC-Project" でしょうか。RPGツクールで製作したフリーゲーム「FREEJIA」等で知られているサークルです。

dcc.xxxx.jp

当時はDCCという名前のサークルだったか記憶はありませんが、KAZディレクションの『I'm free...』というフリーゲームRPGツクール2000製)の公式ページが存在しました(現在は消失)。そこに作品の外伝的な音声ドラマが配信されており、私はそれを聴いていました。

ゲームをやるにはPCで腰を据えて何時間かやらなくてはなりませんが、ボイスドラマならPSPで数分で寝ながらでも視聴できます。こういったボイスドラマは、長大なゲームや小説について物語の片鱗を見せてくれる資料としてとても有効でした。

 

当時の私は「FREEJIA」のようなボイス付きのゲームや、関連のボイスドラマの存在を知ったことで、「ネット上で声優みたいなことをしている人たちがいるらしい」と理解します。すると、当時自分で作っていたゲーム等にも、そういった人々の声を使うことができるのでは? という目論見を持ちました。そういうわけで、ネット上で声で活動している人たちやその企画を探すようになりました。

当時もYouTubeニコニコ動画は存在していましたが、私はあまりその2つに馴染みがなかったため、音声分野の創作者や作品を探せるサーチエンジン(リンク集?)を利用していました。よく見ていたのは「◆ボイドラ*OnAir◆」(onair.sakura.ne.jp/top.html)*4や、「VoiceNavi-ネット声優・声優志望・アフレコサークル検索サイト-」(www.voicenavi.org)*5だったと思います(いずれも現在は閉鎖)。「ボイドラ*OnAir」は、2017年時点で登録されている企画数は1700作以上*6もあったそうで、本当に多くの人がボイスドラマを作っていたのです。

当時の私は、非ネット世界にほとんど娯楽の宛てもなく、時間を潰せる(そして安価な)物語なら何でも探したいという気持ちだったので、こういったサイトが宝の地図に見えました。

内向的な中高生ならPodcastなんかじゃなくとりあえず深夜アニメだろという意見を持たれている方がもしいるならば、私は、2000年代終盤ではそうとも限らなかったと証言したいです。そもそもきょうだいがいてテレビが1台しかない家庭で、見る番組を自分一人で決める余地などありません。中学生で習い事などが始まると、落ち着けるのが夜10時とかのこともざらにあり、それでテレビのある部屋で起きていたら早く寝ろと言われておしまいです。当時はインターネットを通じて深夜アニメを見る手段もなかったので、私は高校生になるまで、夕方にやっていたアニメしか見たことがありませんでした。ネット上でフリーゲームを探したりタダで読める小説を探したりするほうが、ずっとハードルが低かったのです。

PSPは本来ゲーム機なのでゲームもしていましたが、1本5千円とか6千円かかるわけで、中学生にとっては大金です。1つ買ったら1ヶ月もしないうちにクリアしてしまい、その後は新しく買えるチャンスが来るまで飢えることになる繰り返しでした。そんなとき、私はインターネットの無料の創作物に助けられていたわけです。

 

まとめると、PCブラウザでもiTunesでもないPSPという第3のアクセス経路があり、フリーゲームやWeb小説という一次創作界とアマチュア声優界が隣接していたために、私はPodcastのボイスドラマに触れることができたということです。

 

劇団系Podcastドラマと「ケロログ」

これまではボイスドラマについて、ゲームや小説など1次元・二次元のネット文化とのつながりを強調してきました。しかし先のような音声作品の検索エンジンには、少し雰囲気の違う人たちも登録していました。もう少し日常的な内容やスタッフ同士のアフタートークなども公開していて、三次元でもおそらく声優や俳優として活動していた人たちです。「劇団」と名乗っている団体も多かったので、ここでは「劇団系」と仮に称しましょう。

劇団系の人たちは、Podcastの配信に「ケロロ」(voiceblog.jp)というプラットフォームをよく利用していました。これは、はてなやFC2みたいなブログを立ち上げられると同時に、簡単にPodcastで音声配信を行えるプラットフォームでした。

私はケロログで配信する側になったことはないですが、RSSの記法などを調べなくても簡単にPodcastを更新できる仕組みだったようで、使う人も楽だったのでしょう。また、ブラウザで聞く人のために、FlashPlayerを使った埋込み型の音声プレイヤーを投稿に付与する機能もありました。

しかし、ケロログは2016年に閉鎖しました。そのため私が知っていた劇団系作品の情報ページはほとんどが消滅しています。Wayback Machineなどを利用すれば見られるものもありますが、どれくらい残存しているのか確認はできていません。

 

劇団系の作品として印象深いのは、「メリケン サックリドラマ!」というPodcastでした。もともと、ドラマというよりはトーク番組をやっていた人たちが、ボイスドラマも作っているようでした。「ケロログ」利用のPodcastだったため現在聴くことは困難ですが、mixiに更新記録が残っています。

mixi.jp

彼らの制作した作品の中で、今も記憶しているものがあります。『六姉妹』という題で、「インタラクティブドラマ」と銘打たれていました。これは、ストーリーが0~78まであり、途中で選択肢が存在します。選んだ番号のストーリーを聞くことで、少し違った物語を楽しめるというものです。いわゆる「ゲームブック」を音声化したものに相当します。時間と投稿回数の縛りがないPodcastだからこそ成立した、野心的な作品でした。

 

また、ボイスチャットや声の評価ができる「こえ部」というSNSが2007年から存在しており、ネット上のボイスドラマの盛り上がりを準備したとする意見があります。私はこちらは全く知りませんでしたが、たぶん劇団系の方たちと関係があるのではと思っています。(↓参考記事※有料)

premium.kai-you.net

 

非ネット世界と関係があるPodcastドラマでは、元はラジオ局が制作したものをPodcastで公式に配信した作品もありました。例えばFM福岡の『月のしらべと陽のひびき』(2007)を私は見かけたことがありますし、ダウンロードしたファイルが今も残っています。

ただ当時は、こうした作品も特に劇団系の作品群と区別はしていなかったように思います。当時の私にとっては、プロが作ったかアマが作ったかなどどうでもよく、手が届くところにあったかどうか、そして面白かったかどうかだけが重要でした。

 

新世代の作品:iTunesニコニコ動画YouTubeで配信

これは今振り返っての感想ですが、2010年に入った頃くらいから、インターネット上のボイスドラマの配信方法の主流が変わってきていたようです。これまで語ってきた個人HPやケロログなどのブログ型のプラットフォームに音声ファイルが置かれるのではなく、Appleの運営するiTunes Storeの一角や、ニコニコ動画YouTubeなど現存する動画配信サービスに音声ファイルが預けられ、そこから配信・視聴がされる形が多くなっていきました。

 

ニコニコ動画iTunes Storeを通して視聴された有名なボイスドラマの代表格が、前回言及したドラマ『アンダー・ザ・ブルー』でしょう。同作は2011年2月から配信が始まり、同年7月に完結するとiTunes Rewind 2011に選出されました。その年に、iTunes Podcastの中で最も再生されたPodcastになったということです。

www.undertheblue.org

『アンダー・ザ・ブルー』は、もともとボーカロイド巡音ルカ」の歌う曲『_theBlue』に触発されて作られた物語のようです。この曲はニコニコ動画で公開されたものでした。このような発祥からして、それまでのボイスドラマとは何か違った背景が感じられます。

そもそも同作品は「オーディオドラマ」と呼称されていて、従来の「ボイスドラマ」とはジャンルが違うのだという主張も読み取れます。またiTunesPodcastは、個人HPのPodcastと比べて明らかに音質が良いという違いもありましたが、その点も「オーディオドラマ」という打ち出し方と関係していたとどこかで読んだ記憶があります。

ニコニコ動画と関係の深い『アンダー・ザ・ブルー』ですが、私は、同作品をニコニコ動画で知ったわけではありません。他の従来の作品のように音声作品の検索エンジンを通して知りました。PSPしか自由に使えるものがなかったので、ニコニコ動画YouTubeについてあまりよく知らなかったためです。ただ、他とは何か様子の違うものが出てきたな、という雰囲気は感じていました。

ちなみに、ニコニコ大百科に「ボイスドラマ」という項目が作られたのは2010年3月*7らしく、ちょうど2010年になった頃から動画サイトでもボイスドラマの制作者が目立ち始め、健介さんの諸作品のような新世代の企画も立ち上がり始める、という流れがあったのではと睨んでいます。

 

『アンダー・ザ・ブルー』など新世代のボイスドラマが出てきた後も、個人HPやケロログ上のボイスドラマの発表・更新は続いていたと思います。後者がほとんど絶えるまでは、どちらの形式もPodcastという視聴スタイルのもとで並存していました。

ただ、『アンダー・ザ・ブルー』以降つまり2011年以降の状況は、私にとって急に不透明になります。私が動画サイトであまりドラマ作品に触れなかったこと、そもそもインターネット上を探し回る時間がとれなくなったことが原因としてありました。そのため2011年以降の固有名の掘り出しについては、別の人に任せたほうがよさそうに思います。

 

2016年:サイト閉鎖と旧世代ボイスドラマの消失

私が知っていた旧世代のボイスドラマ(小説やゲーム一次創作関係、劇団系)のほとんどは、現在のWWW上に残ってはいません。こうした消失に関係していたのは、個人HPとプラットフォームサイトの相次ぐ閉鎖です。

個人HPの閉鎖は、それぞれの運営者やサーバー所持者の考え方にもよるため一概には言えませんが、SNSという概念が国内に浸透し始めた頃から、ゆるやかに閉鎖に向かうサイトが増えたという印象はあります。

また、音声作品に関わるプラットフォームサイトは、何の偶然か2016年に閉鎖されたものが多くあります。「こえ部」が2016年9月に、12月に「ケロログ」が相次いで閉鎖。これによって、多くのボイスドラマやそれを作っていた人たちの音声サンプルなどが消失しました。

www.itmedia.co.jp

takimari.seesaa.net

また、音声作品の検索エンジンである「ボイドラ*OnAir」や「VoiceNavi」も、10年代のうちにほぼ更新を停止していただろうと思われます。ホームページの技術からして、SNSスマートフォンの時代に対応していなかった印象です。

参考にGoogleトレンドで「Podcast」「ポッドキャスト」「ボイスドラマ」を調べてみると、大体どれも2016年あたりに最も落ち込んでいたことがわかりました。サイト閉鎖が先か人々の活動低下が先かはわかりませんが、たしかに2016年にPodcastのボイスドラマは力を失ったと言ってよさそうです。

trends.google.co.jp

また、自身も配信を行っていた佐藤新一によると、2008年~2011年に企業のPodcastサービス撤退が相次ぐとともに、「ケロログ」が2012-2016年の間に起こしていた不調や、TBSラジオの独自アプリ移管が日本ポッドキャスト業界に大きなトラウマを残したそうです。佐藤もまた「2012年以降、日本のポッドキャスト業界が徐々に衰退に向かっていき、2016年には終末を迎えた空気感がありました」と、2016年を一つの区切りとしています。

www.office-mica.com

 

こうしてインターネットアーカイブの古層に沈んだ音声作品のうち、別のサーバーにファイルを移管して存続した例を私はほとんど知りません。10年代には、ほとんどの管理者がサイトを放置していたのでしょう。消失を免れたのは、閉鎖したプラットフォームを使わず、個人HPも閉鎖せず更新を続けていたサークルの作品のみです。

紹介するにも資料が残っていないのですが、「NERVE WORK STUDIO」などはPodcast時代にも配信を行っていて、現存しているサークルの一つです。

nwstudio.org

他方、健介さんの企画のようにiTunes Storeやニコ動経由で配信していた新世代の作品については、2016年の大絶滅の影響は限定的だったと考えられます。新世代のボイスドラマ作品は、当時から現存するSNSや配信プラットフォーム内でも視聴者を呼び込んでいたためです。個人HPや音声作品検索エンジンからの流入もあったでしょうが、仮にそちらがなくなっても、音声ファイルは残るのでクオリティが高ければ聴かれ続けたのでしょう。

また制作者たちのつながりも、「こえ部」等のコミュニティサイトよりSNSや動画配信サイト、もしくはチャットツール上で確保されることが多くなっていただろうと考えられます。推測なので、このあたりは創作者側の事情を聞きたいところです。

 

以上のように、前時代を支えたサービスの基盤が崩れ、ボイスドラマ作品と製作者たちの世代交代が進行しました。

 

ちなみに、2010年代も折り返しになると視聴側の環境も様変わりしていました。私はさすがにPSPを触ることは皆無になっていました。大画面のスマートフォンが普及し、4G以上の高速通信でどこでも動画が見られるようになっていました。また各社が動画のサブスクリプション配信を始め、名作から最新作まで異様な数がレンタルでき、どこでも見られるようになりました。私も多分にもれずアニメなど見ていました。

スマートフォンと4G通信の普及で、プラットフォーム企業による動画配信とSNSの時代が始まっていたのです。

 

いま、ボイスドラマはどこで発表されているのか

正直、私が把握していたのはギリギリ2011年までで、それ以降のネット上の一次創作や音声作品にかかわる状況について、記憶から言えることは特にありません。

現在、小説書きの方はPixivや小説家になろうに多い気がしていますが、ゲーム制作やイラスト、声の仕事(同人声優・劇団所属)の方が集ったり発表したりする場所はどこなのか、私はほとんど知りません。

ただ次の記事によれば、現在ボイスドラマをやりたい人たちは、CDに焼いて即売会で売るという形で活動することが結構多いそうです(特に2010年以降)。

premium.kai-you.net

なぜそうなるかというと、ボイスドラマは完結まで制作しきるのが非常に大変なので、界隈で固定メンバーが徐々に決まっていき、リアルでのイベントで顔を合わせる機会も出てくるのだそうです。

確かに、旧世代の(おそらくネット上のつながりだけで作られた)ボイスドラマは、2話くらい公開されて更新が途絶えるみたいなことも非常によくあったので、必然かなと思ったりもします。すると、現在はクオリティが高くて完結までしっかり続いたボイスドラマ作品が増えているのだろうと想像できます。それは良いことだろうと思います。

 

もちろん、引き続きPodcastの仕組みを使って配信する方たちもいます。近年はSpotifyGoogleなどの企業の参入、スマートフォンアプリで聞くという環境の変化もあって、Podcast自体は盛り上がりを見せています*8。ただ、現代の国内のPodcastではトーク番組やラジオ番組的な作り方を指向している人が多く、フィクショナルな音声はそこまで多くなさそうな感触を持っています。一次創作や劇団系の方など「創作したい人たち」とPodcastとの連絡が一度途絶えた結果、むしろそんな意図はない方に馴染みのある活動として広がっているのかもしれません。

 

現在まで見ていくと、ボイスドラマが制作・発表される場には、ここ20年だけでも激しいトレンドの変化があることがわかりました。大体、

(2000-2010年ごろまで)個人HPやブログ→
(2010年以降)iTunes Store・動画サイト
 またはリアルイベント

というようになっているようです。肌感覚だけでいうと、20年代以降はYouTubeニコニコ動画で宣伝し、作品をDLsiteBooth(Pixiv)等で売る、という人も多いような気がしますが。

好例としては、サークル「ぽすといっと」があります。こちらは『Another Puzzle~時の旅人~』というボイスドラマを2012年に個人サイト上で発表していました。ケロログと同じサーバーに作品をアップしていたようですが、同時にiTunes Podcastにも作品を上げていたようで、そちらは今も視聴可能です。

そして現在は、Wix.comでHPを構えXで広報を行い、Booth上やイベント「M3」で作品を販売しているようです。これが、現代のボイスドラマの発表の仕方なのですね。

postit0512.wixsite.com

 

 

マネタイズのしやすさとクオリティの向上

ネットを介したボイスドラマ発表の環境で大きく変わったのは、音声作品でマネタイズできる仕組みがきちんと整えられたことです。Podcastについては、登録やダウンロードの際に課金する仕組みや、視聴までに広告を入れる仕組みが当初は存在しませんでした。だから音声作品をどれだけ作って公開しても、カンパとか募らないかぎり制作者に入るお金はゼロでした。作品制作の持続を難しくしていたのは、そういった事情もあったのではと思います。

音声作品でなくとも事情は似ています。例えば小説でも、2000年代中ごろには「小説家になろう」や「Pixiv」の存在感はそこまでなかった。個人のHPに出すのが王道みたいな雰囲気でした。しかし、現在はそういうプラットフォームを使ってファンがつけば、マネタイズの道が開けます。もちろん、質の高いものを作れればの話でしょうけども……

私の感性が変わったのもありますが、発表の場のトレンド変化が、個々の作品の雰囲気にも影響があると感じることがあります。例えばボイスドラマをイベントでお金とって売るなら、中途半端にはしたくないからちゃんと作りこんで、しっかり完結させて、ビジュアルで訴求して広報もしっかりすることが多いでしょう。Spotifyの配信なんかは音質もいいですし、録音も適当にはできないなという感じがするでしょう。手探りで創作をするハードルはちょっと高そうです。

Podcastでドラマが流行っていたころは、ホワイトノイズバリバリの作品とか、人物ごとにボリュームが揃っていないとか、イメージ画像がなく全く内容がわからないとか、よくあったものですが。今は逆に貴重かもしれませんね。

 

ボイスドラマ文化の連続性

10数年前と比べると、音声作品を楽しむ環境も整備されて便利になり、作品のクオリティも上がって、全体的にとても良くなった気がします。狭すぎる不便な経路を一生懸命探して漸く作品が見つかったと思ったら、普通に途中で終わっていたりあまり楽しめなかったりした時代に比べれば、スマートフォン一つあれば音声だろうと動画だろうと(広告と引き換えに)いくらでも自室で見られるのですから、いい時代になったものだと思います。

ただ私は、今は消えてしまった昔の音声作品たちのことを忘れてしまってよいとは思えず、この記事を書きました。発表の場所のトレンドはあれど、「音声作品を誰かに聴いてもらいたい」という同じ願いのもと「ボイスドラマ」という文化が様々な人を巻き込みつつ続いてきた連続性を記したいと思ったからです。

2005年、国内にPodcastが紹介されると、たくさんの人が「(プロではない)私も、音声作品を作って誰かに聴いてもらいたい」という願いを(まずは個人HPやPodcastを通して)爆発させました。それは――私の思い出補正もありますが――すごい熱量だったのです。ちょうど今のYouTubeやBoothやDLsiteのような盛り上がりようでした。ただ当時はレコメンド機能もSNSもないので、聴きたい人は一つ一つサイトを見ていかなくてはいけませんでしたが……それはそれで、違う国を自力で探索していくかのようで楽しかったものです。

現在、「創作者のアリーナですけど」みたいな顔をしている動画サイトや作品投稿プラットフォームも、最初からそうだったわけではありません。あの熱量をもっていた人たち、死に物狂いで創作したりそれを探したりしている人たちの一部に目をつけられたから、今はそうなっているだけのことです。いつかは閑古鳥が鳴くようになるかもしれませんし、そうなったときには別の場所がごった返しているでしょうね。

続くのは人々の熱であり、場所は熱がなくなれば廃れます。実際に廃れたサイトを知って、そのことをわかってもらいたかったのです。

 

他ジャンルとの交差

また今も昔も、音声作品の展開には違うジャンルの創作者や受容者を結びつける効力があると感じます。フリーゲーム界隈の人と小説界隈の人。声優志望の人と歌い手の人。イラストを描く人、HPを作る人など。視聴者も、動画サイトを見る人も見ない人も、PCを持っている人も持たない人も。

例えば私はPodcastでドラマを聴いていた当時、ボカロ曲やその周辺の文化に全く興味を持っていませんでした。それは自分とはノリの違う、もっと人付き合いが好きで流行り物に敏感な人たちの文化なのだろうと思っていました。

しかし、私は『アンダー・ザ・ブルー』を"Podcast" として聞くことで、ボカロの曲やその周辺の文化で人気が出るような価値観や物語の類型に、知らないうちに触れていたのです。

今では、人々を引きつけるもの、ポップな場に本来垣根はないのだと思うようにもなりました。誰も、発表の場に殺到している人々の影響からは逃れられません。例えばVtuberがこれだけ珍しくなくなっているので、特に何も興味がなかった私のもとにも様々な迂回路を経て情報が入ってきます。こうした網の目を織り込み済みで、自分の位置取りを決めていきたいと今は思っています。

 

 

昔話はお楽しみいただけたでしょうか。こういった話を伝えていくことで、当時お世話になった制作者の方々に対して、10年越しに恩返しをしたことになればよいのですが。

 

 

*1:cf. 加藤 昌弘 (Masahiro Katoh) - ポッドキャストはラジオではなかった:日本における黎明期(2005∼2007年)の入門書を事例とするメディア史研究 - 論文 - researchmap, p.5.

*2:加藤, p. 11.

*3:cf. PSPの新システムソフトが公開、WMA再生やポッドキャスト番組登録に対応 - PHILE WEB
アーカイブされた 2024年12月15日 01:44:23 UTC

*4:アクセス不可。2023年までは存続していた?

web.archive.org

*5:消失時期不明。web.archive.org

*6:参考:

新世紀の音楽たちへ - ボイスドラマの変化と『即売会』の役割(KAI-YOU Premium)

*7:2010年には、シューティングゲーム「東方」のキャラクターを使った二次創作ボイスドラマが公開され、ニコニコ動画上でかなり話題になっていたという情報もあります。しかし先ほど知ったことなので、私が特に語れる点はなさそうです。

*8:www.pen-online.jp