蜘蛛子
くもこ
元は地球で暮らす「若葉姫色(わかば ひいろ)」という女子高生だった記憶を持つ。勇者と魔王が争い続ける世界から放たれた壮絶な魔法が世界を越えて彼女らがいた教室で爆発してしまったために死亡してしまい、その救済措置として、蜘蛛の魔物「スモールレッサータラテクト」に転生させられることが同作の始まりである。
「スモールレッサータラテクト」は蜘蛛系モンスターの中でも底辺に属する種族であるため、戦闘能力は極めて低い。人族の設定する討伐危険度は最低のF。しかし人間としての頭脳と、いわゆる転生特典として得た「韋駄天」のスキルを活用して、死と隣り合わせのサバイバルを潜り抜けていくこととなる。
転生前は、学校には居場所がなく、親とは顔すら合わせない……学校以外はネットとゲームだけの底辺女子高生であった。だが、それゆえに蜘蛛としての生活や『ステータスやスキルが存在する世界』に比較的あっさりと順応し、ゲーマーとしての知識を駆使して戦闘能力を徐々に成長させていく。
遭遇するそのほとんどが格上の魔物との戦いで幾度となく死にかけながらも、一定のレベルアップにより進化を繰り返し、やがて産み落とされたダンジョンの中でも上位に位置する力を得ることになる。しかしその過程で効果の不明だった「禁忌」のスキルを最大まで上げてしまったことで、ステータスやスキルの正体、世界の秘密を知ることとなり、自らの未来のために行動を開始する。
日本の女子高生としての記憶を持つため根は善良な性格をしており、危機に瀕している人間を見つけた場合は、何の益にもならないと分かっていても最終的には手を差し伸べることが多い。その一方で過酷な生存競争の経験から、敵意を向けてきた相手には容赦のない面もあり、ダンジョン内で遭遇した人間の精鋭部隊を壊滅させたことで、「迷宮の悪夢」という厨二臭い名前で恐れられることとなった。
その後は血縁上の母親である大蜘蛛「クイーンタラテクト」との交戦や、圧倒的な力を持つ現魔王との敵対、他の転生者との邂逅などといった紆余曲折を経て、人間の上半身と蜘蛛の下半身を持つ魔物「アラクネ」への進化を達成する。
「蜘蛛子」という名前は広報やファンの間で使われている通称であり、シナリオ中での正式名称ではないので注意。物語や歌の中で自分のことをそう呼んだ心の声はあるが、自分の名前は蜘蛛子であるという実感を込めたものではなく、あくまで戯れである。
作中では「私」もしくはとある人物から名付けられた名前(後述)を用いて呼称される。
ネタバレを避けつつ、本作中に綿密に練り込まれたミスリードに抵触しない便宜呼称としては便利なこともあり、作品の外で彼女は広くこう呼ばれ続けることだろう。
基本的に小説版、漫画版の二種類があり、顔つきや身体の色が異なる。
主人公は元々白化個体(アルビノ)であるため、他の蜘蛛の魔物とは濃淡の別で描き分けられており、差異があると表現されることも多い。
小説版は白地を基調に所々にピンク色が配されている。なお、頭胸部と腹部に二分割され、八本の歩脚が頭胸部から生えているなど、現実の蜘蛛の構造にある程度沿ったデザインとなっている。
漫画版の配色は濃淡の差こそあれピンク色そのものとなる。また腹周りが小説版より少し大きい。
身体の構造は頭部、胸部、腹部に三分割されており、歩脚は腹部から生えている。
進化の形態によっては体色が真っ黒であったりと設定にもあるが、その辺に関しては無視されることが多い。
こちらは漫画版作者のインタビューから毎度原作デザインで書くと作画面で苦労すると答えられている。
ただし、これらのデザインは主人公補正でデフォルメが施されたものであることに注意。特に小説版ではリアルなデザイン画が併せ収録されている。
八つある単眼のうち、正面の一対は確かに大きいが、ほかの三対は当然ながら装飾で片づけられるほどには小さくはない。現実の主人公の姿は当然ながら無表情でリアルな巨大蜘蛛そのものである。
作中に流布されている主人公のビジュアルはイメージに過ぎない。あくまで読者・視聴者に向けてグロテスクな蜘蛛を見せないための配慮としてマスコットキャラクターに見せているだけである。
漫画版、アニメ版ではこれら認識の差を用いた演出が行われており、読者・視聴者にとっては愛らしく見えた彼女が作中における一般的な人間目線に立てば恐るべき魔物であることをいかんなく教えてくれる。
原案を担当する輝竜司が描くおまけマンガでは漫画版、小説版の二匹の蜘蛛子が登場し冒険している。
アニメでは小説版をベースにしつつ、漫画版の意匠も組み込まれた折衷案じみたデザインになっている。
なお、同級生サイドのストーリーに織り交ぜて転生前の授業風景なども描かれた後発のアニメ版とは違い、漫画版では完全に「私」サイドしか描かれない都合上、転生前の容姿はアラクネに進化する展開が描かれた2021年6月まで完全なシークレットとされていた。
アラクネに進化した直後、互いに打算を抱きつつも魔王と和解。戦争に巻き込まれて故郷を滅ぼされた転生者及びその従者と共に魔族領へと向かうことになる。
魔王からは「白」と名付けられ、以後それが通称となった。
その後、旅の途上で発見した古代遺跡にて、封印されていた戦略兵器が暴走するという事件が発生する。激戦の末に無力化に成功するが、その際に膨大なエネルギーを宿した爆弾を取り込んだことで「神」へと至る神化を果たし、肉体も完全な人型となった。しかし潜在能力こそ増大したものの、逆に神となった事で邪神Dが作ったシステムの庇護から離れてしまう。
つまり今まで使っていたスキルを全て失い、一般人と同程度の能力しか持たないポンコツとなってしまった。ちなみに邪神Dの思惑ではシステムの最終目標に「人工的に神を生み出すこと」を企図していたようだが、白のみが唯一の成功例となった。
こうしてしばらくの間一行のお荷物と化していた白だったが、スキルの副作用で暴走していた転生者との交戦などを経て、一部ではあるがかつての能力を再現できるようになる。特に空間魔術の能力は他の星への転移すら可能になるほど向上しており、それを使って日本への帰還を果たす。そして――。
実は、主人公の前世が若葉姫色と言うのはミスリードである。
若葉姫色の正体は、教室で死亡した人々を異世界に転生させた張本人で、主人公が魔物だった頃からたびたび介入してきた「邪神D」こと「管理者D」である。
(なお、宇宙の管理者であるDは、前述の星の神よりも格上の存在であり、神化した主人公も神としてはペーペーもいいところである)。
Dは神としての仕事をサボるため、完璧な戸籍を持ち、魂の管理でも存在していることになっている架空の人物「若葉姫色」をでっち上げ、人間になりきって女子高生生活を満喫していた。
物語の事の発端となった壮絶な魔法も流れ弾などではなく、管理者としての仕事を投げ出して女子高生生活を満喫していたDを先代の勇者と魔王が協力して抹殺しようとして放ったものである(ただし彼らが攻撃した理由は「世界をもてあそんでいる」と思ったからであり、仕事放棄は関係ない)。
しかしDは無傷であり、巻き添えで死亡した先生・生徒に対し(面白半分でもあるが)責任を取る代わりに異世界に転生させた。
さらに死亡者数と転生者数が一致していないと仕事をさせようとする部下に居場所を特定されてしまうため、身代わりとしてたまたま教室に巣を張っていて巻き込まれた蜘蛛に、自身が「若葉姫色」として過ごしていた間の人格や記憶を植え付けて人間の魂に偽装し、数合わせのために同様に転生させたのである。
それが主人公「私」である。つまり「蜘蛛に転生した女子高生」ではなく、「蜘蛛に転生した女子高生、と思い込まされた蜘蛛」だったということであり、他の転生者と比べてボーナスポイントが少なかったり、ステータス画面で前世の名前でなく「なし」と表記されていたのはこのためである。
ただし上記の経緯から「若葉姫色」なる人物は本当は存在せず、その名を騙って女子高生として暮らしていた神がいただけに過ぎないため、証拠隠滅のために蜘蛛の「私」が人格と記憶を植え付けられた時点で「若葉姫色」という存在は譲渡されたとも言える。
主人公も薄々自分の正体は察していたのだが、「仕事をサボり続けるため」というあまりにも下らない出生の秘密に拍子抜けし、開き直って自由に生きていくことを決意するのであった。
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