アザトース
あざとーす
クトゥルフ神話に登場する宇宙の原初であり万物の王。通称「魔王(Daemon Sultan)」。
無限無窮の宇宙の最奥、沸騰し湧き立つ原始の混沌の中心、あらゆる次元から切り離され、時間を超越した無明の閨房に坐す。ぐぐもったフルートとオーボエ、野蛮な太鼓の連打に合わせて踊り続ける蕃神に囲まれて無聊を慰め、白痴の夢を見ながら増殖と分裂を繰り返し、飛び散りながら冒涜的な言葉を吐き散らして玉座に寝そべり、齧り付く盲目白痴にして全知全能、万物の創造主、敢えてその名を口にするもののない魔王(長い)
兄弟にウボ=サスラがいるほか、副王ヨグ=ソトース、使者ナイアルラトホテップ、黒山羊シュブ=ニグラスを生み出したとされる設定が有名。原初の混沌の核と言われるように、宇宙の第一原因とされることが多い。この辺りに関しては下記の関連性も参照してほしい。
現在主流のリン・カーター系の家系図ではクトゥルフは孫にあたる(ラヴクラフト系ではひ孫)。
ダーレスの属性分類では地の属性に類し、ナイアルラトホテップを使役するものでもある。
この魔王の思考によって世界が創造されたとされている。
我々のいる宇宙は、アザトースの思考が物質化される空間で、この世の全ての現象や物事は全てアザトースを起源とし、全ての「存在」は彼の思考によって創造される。だが、思考と言ってもアザトースには知性がない。ゆえに宇宙はこうあるべきなどという目的意識は全く持っておらず、生まれたばかりの赤子に宇宙を作る力が与えられたようなものである。なので、この宇宙は混沌で出鱈目だといういうのが真実であり、科学や論理で宇宙は解明できるなんていうのは人間の単なる勘違いである。
この事からこの世はアザトースの見ている夢であるともされ、つまりアザトースが眠りからさめたとき、この世は一瞬にして消滅するのである。
全ての宇宙を作り続ける知性のない、この魔王の周りには、数えきれない「外なる神」が腐敗し、同じく知性のない踊りを踊って自分たちの王をあやしている。
彼の眠る無明の房室のどこかに強壮な使者ナイアルラトホテップが待機しており、主人を軽蔑し、眺め、嘲笑しながら魔王のあらゆる気まぐれを即座に実現させる。
アザトースは、太古の地球に飛来したクトゥルフやナイアルラトホテップとは違い、直接に地球の人間の前に姿を現すことはないし、おそらく彼は、普通の地球人の五感によっては感知できる存在ではないのである。
もっとも仮にアザトースの一部でも宇宙の何処かに出現すれば、残るのは破壊だけである。
アザトースとは当然、仮の名であり、もし聞いたとしても人間には発音不能で、敢えて本当の名前を口にするものはいない。
「アザトース」とは二つの言葉が複合してできた名前でアザ(aza)とトース(Thoth)である。
「アザ」は力を意味し、「トース」は魔術師たちがナイアルラトホテップを表す暗号名として秘密に使っていた名前である。したがって「アザトース」という名前は「ナイアルラトホテップの力」という意味となる。これもナイアルラトホテップがアザトースの命令を全て実行するからである。
小説『未知なるカダスを夢に求めて』では、カダスを探すランドルフ・カーターの存在に気付いて居ながら「外なる神」の意思を待ってナイアルラトホテップが妙に回りくどい手を講じている様子が描かれた。
ただ、白痴のアザトースと使者ナイアルラトホテップの関係は、明言されておらず、ナイアルラトホテップの為すがままなのか、アザトースが絶対の主なのかは不明。
しかしどちらにしてもナイアルラトホテップがアザトースを見下していることは間違いない。
アザトースを崇拝するものは、シャン達以外、ほとんど確認されておらず、他の旧支配者や外なる神のように特定の奉仕種族、眷属もほとんどいない。
ただし、途方もない数の下級の神々(それでも旧支配者が足元にも及ばない強力な怪物たち)や外なる神に崇拝に近い形で奉仕されているようである。
これは彼から得る恩恵は何もなく、魔王がもたらすものは破壊しかないからである。
またアザトース自体が魔術師達の間においても禁忌とされているという事情がある。
シャン(シャッガイからの昆虫怪物)だけは、複雑な儀式と体系的な拷問によってアザトースを崇拝している。
それぞれのシャンの神殿(宇宙船)には、生きたアザトースが異界の科学技術によって置かれている。シャンはアザトースが定期的に産み落とす種子のエネルギーを使い道具を作ることがある。彼らのアザトース信仰は、アザトースの化身ザーダ=ホーグラがその中心的役割を果たしている。
「この宇宙はアザトースが見ている夢であり、目覚めると宇宙は消失する」という設定が主に使われる作品が多い。しかし、これはラヴクラフトが作った設定ではない。誰が最初に言い出したかわからないまま、いつの間にかファンの間でそのような解釈がされるようになったのである。
ラヴクラフトはアザトースのことを「下劣な太鼓のくぐもった狂おしき連打と、呪われたフルートのかぼそき単調な音色の只中、餓えて齧りつづける盲目白痴の万物の王」と表現しており、夢を見ているとかは一切言及していない。もっというと「万物の支配者」とは何度も言っているが、創造者とは一度も言っていない。「この宇宙はアザトースの思考によって創られた」と最初に言い出したのはラブクラフトの友人の作家であるヘンリー・カットナーである(1935年『ヒュドラ』)。ただ、カットナーにしても宇宙がアザトースの夢だとは言っていない。
アメリカにおいてクトゥルフ神話作品の出版に関わり、ラヴクラフト研究者であるロバート・M・プライスは、ロード・ダンセイニの幻想文学『ペガーナの神々』に登場する創造神マアナ=ユウド=スウシャイがアザトースのモデルになったと主張している。
マアナ=ユウド=スウシャイはアザトースと同じく同じく超自然的な楽師に付き添われた意思なき神であり、アザトースと酷似しているのは確かである。
そして、マアナ=ユウド=スウシャイは世界を夢として見ていて、目覚めると世界は消失するという設定がしっかり存在している。
「アザトースのモデルはマアナ=ユウド=スウシャイ」ということはクトゥルフ神話のファン界隈ではよく知られた説であるため、そのためにいつの間にかマアナ=ユウド=スウシャイの「世界を夢見ている」という設定がアザトースにも存在すると混同されてしまった可能性を作家の森瀬繚が指摘している。
「アザトースの夢」はクトゥルフ神話世界において重要な設定になりうるが、そうと規定してしまうのは非常に危険である。
ラヴクラフトはアザトースをいくつかの作品でその存在を言及している。それらには「万物の王であるが、盲目にして白痴の神」「宇宙の原初の混沌の核そのもの」「眷属のドラムとフルートによって慰められながら蠢いているだけの、知性なき存在」などと語られているが、この神の存在が重要になる物語は一つも発表しなかった。
このことは、後世の作家達が好き勝手に想像できる余地を与えたこととなり、そのために宇宙の創造神だの夢見る神だのと設定が盛られていったのである。
ラヴクラフトの書きかけの遺稿に、「アザトース」というタイトルのものが存在しているが、残念ながらわずか二ページほどの断片しか残っておらず、これからは何のデータも読み取れないのが現状である。
(収録は東京創元社『ラヴクラフト全集7巻』訳:大瀧啓裕)
もし完成していたのならラヴクラフトがアザトースをどのような存在だと考えていたのか明示されるか、あるいは重要な手がかりが描写された可能性が高いと思われ、非常に惜しまれている。
オーガスト・ダーレスが提唱した「旧神」の存在を許容する世界観においては、魔王アザトースは宇宙の創造神ではなく、旧神らによって宇宙の誕生と同時に創造された被造物であるとされることもある。
この設定では魔王は、創造主である旧神たちに反逆し、創造主の座を奪い取ったとされる。いわゆるデミウルゴス的なポジションである。
ラヴクラフトはアザトースを最初から知性のない存在として描いたが、ダーレスの世界観を引き継ぐ作家たちの中には、アザトースは知性あるものとして作られたが、反乱の罰として旧神によって知性を奪い去られたと設定している者もいる。
ただし、旧神の設定の方が明らかにアザトースのあとに作られたものであり、クトゥルフ神話、旧神の記事に書かれているようにこの設定は絶対的なものではない。
むしろラヴクラフトの設定に沿うならば、アザトースは旧神に作られるはずはない。「大地の神々」の設定からすれば、旧神もアザトースの創造の一つになる。
ただし、クトゥルフ神話は作家、作品ごとに全て自由なので、これも設定の一つである。
- ザーダ=ホーグラ(Xada-Hgla)
作品:ラムジイ・キャンベル『妖虫』、スコット・D・アニオロフスキー『Ye Booke of Monsters』
アザトースの化身。
体の特徴は二枚貝の様な殻を持ち、多数の長い偽足が殻から延びており、殻の中には毛が覆われ、緑色の目を持つ顔がある。この化身はアザトースが理性を持っていた時になれた姿と言われている。ただし、上記の通りこの神に元々理性があったかどうかは明確ではない。
二枚貝が完全に開くとき核爆発が起こる。
TRPGでは、この姿で現れたアザトースは不機嫌になるとぐずって触手を伸ばして振り回すことがあるとされている。この触手に触れたものは消滅してしまう。
子供
- ヨグ=ソトース
アザトースの生み出した無名の霧から生まれた。アザトースが魔王なのに対して副王。
- ナイアルラトホテップ
魔王の使者、暗黒の全権使節。
出生に多くの矛盾を抱えるもののアザトースを原因として生まれたはずである。
- シュブ=ニグラス
アザトースの生み出した闇から生まれた。全ての女神の原型になった女神。
ヨグ=ソトースの妻。
- クグサクスクルス(サクサクルース)
両性具有であり、アザトースが分裂生殖によって産み落とした子供である。
人肉嗜食(同族食いのことらしい)の性質を持つ。ツァトゥグアの祖父あるいは祖母。
- アウラニイス 別名「最も奔放なる死を運ぶもの」
- オッココク 別名「敵意の年長の女巨人」
- トゥーサ 別名「くすんだ色の大釜の番人」
- ウイチロソプトル 別名「夢の憑依者」、「広大卿」
夢に支配を及ぼす事ができる旧支配者。
アザトースの息子だが、アザトースに罰せられてシルゴスと呼ばれる銀河に追放されたが、そのために旧神による封印を免れている。この神に関して知られている事は、少ない。
- アザ―ティ
定期的に産み落とされるアザトースの落とし子達の総称。
強いエネルギーを持つが制御できずに死ぬものが大半。稀に身体を制御できるものがいる。
生存しているアザ―ティは「アザータ」、「アザーテ」、「アザートゥ」の3体だけで、3体は宇宙の何処かに存在するといわれている。
- 『東京放課後サモナーズ」の登場キャラクター。アザトース(放サモ)
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