「おいたん」とは、「おじさん」という言葉が訛った幼児語(喃語)である。「甥たん」ではない。
専ら幼い子供が「おじさん」と言おうとして舌が回らず、「じ」が「い」に、「さ」が「た」になってしまった幼児語である。
少し難しい話になるが、この現象を音声学的に分析してみよう。
「お」は一旦喉の奥(声門)を閉じてから開いた際に開放された呼気を、舌先を下顎付近まで下げて口の中頃~奥に作った空間を流し込んで調音される音である。しかし「じ」は舌先付近を上顎前部(硬口蓋)に接近させてできた隙間に息を通して調音されるので、調音点や舌の位置が両者で大きく変わる。幼児は発声に関係する器官や筋肉が未発達であるために切り替えがうまくいかず、「じ」を発音しようとして(あるいは本人はきちんと言ってるつもりで)も舌の持ち上げが不完全になる。更に呼気が弱くてその大きな隙間すら抜け切れずに留まってしまうので、結果として「い」(厳密にはヤ行のイ(yi)」)になってしまうのである。まあ「舌足らず」とはよく言ったものだ。
では「さ」→「た」はどうだろうか。これは先ほどの「じ」→「い」の変化が大いに関係している。実は「じ」と「さ」の子音の調音点はほぼ同じである。だから「じ」をきちんと発音できてれれば「さ」への移行は簡単なのである。しかし実際の舌の動きは、中途半端な位置まで舌先付近が盛り上がって止まっている状態だ。ここから「さ」の位置まで舌を持ち上げるのはそう難しくないのだが、「さ」を発音するにはそれなりの強さの呼気を狭い隙間に吹き込んできちんと摩擦を起こさせなくてはならない。しかし「い」の段階で、弱い呼気が口の中ほどで止まってしまった。ここから声を出すためにはこの呼気を再び動かすか、あるいは肺から新たな呼気を送らねばならない。しかるに幼児の発声器官では新しい呼気を満足に送れないので、舌先付近を可能な限り持ち上げてから一気に下ろすことで停滞した呼気を動かす必要がある。これが「た」の発音のバリエーションに含まれているというわけだ。
北九州地方など各地の方言では「おじちゃん」が「おいちゃん」に変化するなど、部分的にではあるが同様の変化が観察できる。つまり音声学的にみれば「じ」と「い」、「さ」と「た」はほぼ同じ調音点で違う調音法を用いて調音した音同士に過ぎないからである。同様の現象(あるいは「い」→「じ」、「た」→「さ」という逆転現象)は多くの言語で観る事ができる(例: スペイン語の yo (「ヨ」あるいは「ジョ」)、ギリシア語の θ (古典語で「テータ」、現代語で「シータ」)、etc...)。
おそらくお茶の間で一番有名な「おいたん」といえば、アメリカのホームドラマ『フルハウス』の主人公の一人、ジェシー・コクラン(吹き替え: 堀内賢雄)だろう。彼は義兄(亡姉の夫)ダニー・タナーの三女ミシェル(乳幼児。吹き替え:川田妙子)から「おいたん」((my) uncle Jesse, ただし語法上、基本的には you を用いる)と呼ばれとても懐かれている。そしてジェシー自身もミシェルに対して話しかける際には自身を「おいたん」(I, これも語法上。ただし他の人物がミシェルに対しジェシーを指して (your) uncle Jesse と言うこともある)と称してミシェルを可愛がる。
アニメ『パパの言うことを聞きなさい!』では、主人公の瀬川祐太(声: 羽多野渉)が一番下の姪(亡姉の実娘)である小鳥遊ひな(声: 五十嵐裕美)から「おいたん」と呼ばれ、やはりとても懐かれている。
またニコニコでは、公式配信アニメや生放送などで羽多野が演じるキャラクター(例えば『這いよれ!ニャル子さん』の余市健彦など)や羽多野自身が登場する際に「おいたん!」「おいたんだぁえ?」のようなコメントが流れることがしばしばあり、濃い弾幕が発生するのも決して珍しいことではない。
このように、しばしば「おいたん」のような幼児語は、幼い可愛らしさや呼びかける対象への親愛の(意図の有無に関わらず、しばしば過剰な)表現として、創作物では比較的頻繁に用いられている。
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最終更新:2024/12/23(月) 22:00
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