出版不況と言われて久しいが、1冊2万8600円(税込)という値段ながら、発売1週間足らずで重版がかかり話題になっている本がある。国書刊行会から刊行された『物語要素事典』だ。(ライター 徳重龍徳)
1368ページの大ボリューム
物語要素事典は古今東西の物語に現れる物語の核となるアイディア=物語要素を、該当する作品の筋書きとともに紹介する事典だ。執筆は愛知学院大名誉教授の神山重彦さん。2013年には小脳が萎縮する難病と診断されながらも、一人で約40年かけて作り上げた。
事典で取り上げた物語は約4500作品。国内外の神話や古典から、SF、漫画、アニメとバラエティー豊かな作品が取り上げられている。事典のサイズはB5判・4段組・1368ページという大ボリュームで、国書刊行会のX公式アカウントでは「ミニチュア版バベルの図書館」と紹介されている。
物語要素として取り上げられている項目だけ見ても「あまのじゃく」「息が生命を奪う」「ウロボロス」「時間旅行」「背中の死体」「蛇息子」「密室」「未来記」など読書欲をかき立てる単語が並ぶ。
項目ごとに取り上げられている作品もユニークだ。例えば「円環構造」という項目では、「最上のものを求め、巡り巡ってまたもとの出発点にもどる」物語として『大鏡』やギリシアの七賢人の伝説が、「夢から現実にまたがる円環構造」の話として落語『天狗裁き』が紹介される。
さらには、普通ならなかなか円環構造とは捉えにくい「役所のたらい回し」の物語として、黒澤明の映画『生きる』までもが取り上げられている。
他にも「無限」の項目ではニーチェなどと並び村上春樹『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の百科事典棒のくだりが取り上げられ、「夢で見た人」という項目では『笑ゥせぇるすまん』(藤子不二雄A)のエピソードが紹介されるなど、どの項目も意外性に富む。