三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第143回は、部下に煙たがられるダメ上司の3つの特徴をお伝えする。
そりゃ、やる気もなくなるわ…
神代から投資部主将を引き継いだ渡辺信隆は、木刀を素振りしながら部員たちに発破をかけ、マーケット情報のチェックや部室での振る舞いなど細部まで指示を出す。部員たちがうんざりし始めたころ、重圧に負けた渡辺は「捜さないで下さい」と書き残して失踪する。
人は時にチームを率いねばならない立場に立たされる。
新聞社では現場のチームリーダーを「キャップ」と呼ぶ。自分で取材して原稿を書きながら部下を統率する、一番やりがいのある仕事だ。取材チームの規模は小さければ数人、多いと十数人程度といったところ。チームメンバーのパフォーマンスはキャップの差配で大きな差が出る。
私自身、いくつかのチームを率いた経験がある。それほど悪くないキャップだったと思うのだが、部下に恵まれた幸運だけでなく、反面教師から学んだ教訓が生きた面もあった。
反面教師としたキャップは3人いた。いずれも自分がその下で働いた人だった。その一人は作中の渡辺のようなマイクロマネジメント型だった。毎日、その日にどこの誰に取材して、何を聞き、どんな記事を書くつもりか報告させる。
向こう数日のアポの入り具合もチェックする。ご本人は入社数年目の若手にきめ細かい指導をしているつもりだったのだろうが、息苦しいし、記者という人種は縛りつけられるのを嫌うから、やる気も萎えた。
尊敬される要素ゼロのダメ上司
もう一人はメンツ最重視型。とにかく「俺は聞いてない」が許せない人だった。たとえスクープを拾ってきても、あらかじめ「こんなニュースが取れそうです」と耳打ちしておかないとヘソを曲げる。
某大手企業の社長人事を抜く手柄をあげた若手記者が「報告不足だ」と逆にどやしつけられているのを見て、頭がクラクラした。
最後の一人はパワハラ型。いい大人を「お前」呼ばわりして、何かあると怒鳴り、酔っ払うとヘッドロックをかけたり頭を小突いたりする。相手をみて態度を変えるのを含め、ここまで部下から尊敬される要素のないキャップは珍しかった。
「反面教師から学んだ」は皮肉でも愚痴でもなく、チームリーダーにとって重要度が高いのは「こうあるべき」よりも「これはやってはいけない」の方なのだ。特に部下に恵まれている場合、邪魔しなければある程度の成果は出るはずだ。
この最低ラインをクリアできれば、「良きリーダー」となる可能性が開けるわけだが、こちらの在り方は「人それぞれ」としか言いようがない。自分が一緒に働いた「良きキャップ」もタイプは様々だった。ビジネス書でノウハウを仕入れても、付け焼き刃はすぐに見抜かれる。それより自分の個性にあわせて自然なアプローチを取った方が良い。
私の場合、強力なリーダーシップでグイグイ引っ張る、といったスタイルは性に合わない。要所でアドバイスをするだけであとは自由放任。普段はチームメンバー任せで、急に1面アタマを書くといった面倒で大変な仕事だけオジサンが引き受けるスタイルを基本としていた。
上層部から「甘い」と言われることもあったし、ギリギリと締め付ければもっと成果が出たかもしれない。だが、自主性を重んじたことは、その後の元部下たちの成長や活躍をみると、間違っていなかったと思っている。
今、上司に恵まれていないと感じている人は、将来自分がリーダーになったときの「べからず」のサンプルだと思って観察してみてはどうだろうか。人生、反面教師から学ぶ機会の方が多いのだから。