「話したいことが通じ合う1on1」と「すれ違う1on1」の根本的な違い1on1で何を話せばいいのか、悩んでいる人は多いのではないか(写真はイメージです) Photo:PIXTA

手ごたえを感じない上司と
困惑する部下

 現代が不確実なことが多い時代となったのは皆さんご存じの通りです。社員それぞれの視点・強みを生かした人材育成や、異なる意見から新しいアイデアを共創する社内コミュニケーションが重視されるようになりました。その流れを受けた施策のひとつとして、今多くの企業で1on1に代表される上司と部下の面談が取り入れられています。

 私は普段、企業の経営陣やリーダーの皆さんにコーチングを行ったり、組織の中でメンバー同士の関わり方を変化させることで組織全体の風土や文化の変革を目指す、組織開発プロジェクトに携わったりしています。プロジェクトの中で企業のマネジメント層の方とお話しするとき、よく耳にするのが「会社全体で1on1の実施が義務付けられているため、時間を取って面談を行っているが、意味ある機会にできている実感がない」「私だけでなく、部下も面談の機会をどう使ってよいのかわからず困っているように見える」というお悩みです。

 私たちは日頃職場で、部下とコミュニケーションを取ること自体に疑問や戸惑いを覚えることはありません。仕事をする上では「上司は現状を把握し、課題があれば解決に導き、部下の業務が円滑に進むサポートを行う」というコミュニケーションの目的と進め方が、部下との間で当たり前に共有されているので、特に混乱なく進みます。

 しかし、これが1on1などの面談になると、なぜか「何を話せばいいの?」と戸惑ってしまう。考えてみれば不思議です。

 ここで、意欲的な上司の方は1on1に関する書籍を読んだり、コーチングのスキルを勉強したりと努力をされるのですが、実はこの問題の本質は、知識・スキル云々の話ではなく、日頃のコミュニケーションでは暗黙知的になされている「コミュニケーションの目的と進め方(コンセプト)」の共有と合意ができていないことにあると私は考えています。

1on1の価値は
上司一人では作り出せない

 コミュニケーションのコンセプトの共有と合意を考えるとき、まず提案したいのが、1on1は上司から部下に対するサービス提供ではなく、上司と部下が協力しながら良い機会を作り上げていく「共同プロジェクト」だと捉えることです。

 今は便利な世の中なので、少し検索すれば1on1成功のコツについての有益な情報が簡単に手に入りますし、YouTubeではデモンストレーションの動画なども見ることができます。しかし多くの場合、そうやって1on1の意味や意義を考え、扱うテーマや進め方について知識やスキルを蓄えているのは、上司側に偏っているのではないでしょうか。