メンタルケアに不可欠な「ファーストエイド」

 アーメドは、自身のチームが神経をとがらせていることに気づいていた。最近、業界内でレイオフが実施されたうえ、自社が業績不振に陥っているために、部下たちは自分が仕事を失ってしまうのではないかと危惧していたのだ。

 しかし、彼が最も心配していたのは、直属の部下であるメリアのことだった。彼女は以前に比べて病欠が多く、出勤していても心ここにあらずの様子で、会議中は集中力を欠いていた。かつては高業績を上げ、意欲的だった彼女がいまは沈んだ面持ちを浮かべ、生産性が低下していた。

 他のチームメンバーが何気なく漏らしたところでは、彼女は病気を抱えた高齢の母親の介護に苦慮しているという。ある日、アーメドは誰もいない会議室でメリアが泣いているのに出くわした。彼はどう対処してよいかわからず、ぎこちなく謝って自分のデスクに戻った。