結論から申し上げると、「唐揚げ」は遣唐使によって直接日本にもたらされた料理ではありません。料理名にある「唐」はたしかに中国(唐代)を想起させますが、現在私たちが食べているような「唐揚げ」が遣唐使によって伝えられたという明確な史料はありません。したがって「遣唐使の誰が持ち帰ったか」ということも、特定できる事実はないのです。
「唐揚げ」の名前の由来
「唐揚げ」にはいくつか語源の説がありますが、有力なものの一つは「中国風(唐風)に味付けした揚げ物」という意味から「唐揚げ」と呼ばれるようになった、という説です。
一方で「空揚げ(からあげ)」の字をあて、衣(ころも)をつけず“空(何もつけない)状態”で揚げることから「空揚げ」と書く場合もあります。実際には下味をつけて片栗粉などをまぶすことが多いので、「空(から)」というほど何もつけないわけでもないですが、昔から使われる呼称の一種です。
また、「唐芋(サツマイモ)」「唐辛子」「唐墨(からすみ)」など、かつて日本に伝わった中国由来のものや外国風のものに「唐」の字を当てる例は多数あります。必ずしも「唐(中国)」そのものを指すとは限らず、「異国から伝わった(当時の日本にとって外国風)なもの」を「唐○○」と名づける風習がありました。唐揚げの場合も「唐」を使って“中華風”をイメージさせる呼び方となった可能性が高いと考えられます。
遣唐使との関係は?
• 遣唐使は主に7~9世紀に唐へ派遣されました。
• その目的は、進んだ唐の文化・政治制度・仏教・学問などを学び持ち帰ることでした。
• ただし、当時の中国大陸で主流だった料理や食材はさまざま日本へ影響を与えましたが、現在のような“鶏肉の唐揚げ”として定着したものが、はっきりと遣唐使によってもたらされたという根拠はありません。
また、日本における「鶏肉の油で揚げる料理」の歴史をたどると、近世以降(江戸時代~明治時代)にかけて徐々に普及し、とくに昭和期に入ってから大衆食として定着していった面が大きいとされています。
もし遣唐使によって直接「唐揚げ」がもたらされたのなら、平安時代から鎌倉・室町期あたりの文献に「唐揚げ」という名の料理が記録されてもおかしくありませんが、そのような記録は現在のところ確認されていません。
まとめ
• 「唐揚げ」は“唐(中国)風”を意味する説や、“空揚げ”という表記など、由来ははっきりしませんが、現在一般的に食べられている鶏の唐揚げは近代以降に広まったものと考えられています。
• 遣唐使が直接「唐揚げ」を持ち帰ったとする史料はなく、どの遣唐使が伝えたかも特定できません。
• 「唐」という字がついていても、当時の唐料理をそのまま指しているわけではなく、“中華風”や“外国風”を指す名称として使われた可能性が高いです。
以上のことから、現在私たちが食べている「唐揚げ」は遣唐使が伝えたものではなく、後世に日本独自に発展・定着した料理と考えるのが妥当です。