飲み物について、イスラムの戒律で禁止されているのは、アルコールを含有しているものだけです。アルコール量がたとえ1%以下でも、駄目は駄目です。
それ以外の飲み物は、炭酸を含んでいようが、カフェインを含んでいようが、禁止されていません。
ただし、こういう宗教禁忌(ハラム)ということがらへの理解はほとんどのひとがその素材についてのことと考えているようで、そこが実際の運用面とは異なるものになっています。何を言っているのかというと、人間の身体が摂取するものの中にハラムとされるものがいろいろあります。人間の身体が摂取するという意味は、飲食品だけでなく医薬品もそうだし、化粧品までもがそうなのです。医薬品の中に豚の何かを使って作られるものがあり、その医薬品はハラムであるとされています。かつて味の素の製造に使う触媒に豚からとられたものが使われ、味の素がインドネシアでハラムとされたことがありました。触媒という、製品にまったく痕跡を残さないものですらそういう扱いをされるのです。
ハラム食材としては、ご存知の通り豚と豚から採れる一切のもの。他の肉はOKと思うでしょうが、屠殺方法に作法があり、それが定められた通りに行なわれていないものはハラムとされます。だから、牛であろうと羊であろうと、定められた通りの作法で屠殺されなかった肉は食せないということになります。
また、日本ではまずないですが、犬・猫・猿など豚と同じようにハラムとされている動物を食べてはいけません。そのほかにもいろいろありますが、本論のほうに移ります。
そういうハラムな食材あるいはハラムな動物にハラムでないものが接触するとハラムになるのは、上の触媒の話の通りです。たとえば、ハラムでない牛肉があったとします。それがたとえ包装されていたにせよ、同じように包装されている豚肉と一緒にひとつの冷却パックの中に入れられると、その牛肉はもうハラムとしてしか扱われません。
だから、炭酸飲料やコーヒーを入れるコップや容器をあるときペットの犬がなめたことがあるというだけで、そのあとそれをどんなに消毒していようが、そのコップに注がれた炭酸飲料はハラムになってしまいます。
このあたりのことは、いささか神経症じみていて、実生活での運用が困難になりますよね。でも理論上はそのようになっているのです。イスラム教国は家族から生活共同体まで、すべてのひとが同一の規準で生活しているためにそのようなことでも可能になります。要するに、社会生活の中に豚はかけらも存在してはならない。酒類もあってはならない。犬はたとえいたとしても、絶対に家の中に入れて人間と起居をともにしない。そういうような生活パターンをみんなが同じようにすることで、そういった細かい点まで実行するのが可能になるわけです。
イスラム教徒が同一信徒だけで生活共同体を作りたがる事情は存在しているのです。